現代の日本人はハリウッド映画でどう描かれてきたか?
侍のような日本ならではの歴史的な存在が描かれる際には、ある程度背景の知識を持っていないと判断できないから、日本人俳優の主張にも耳を傾け易い。しかし、現代を描いた作品となると、どうしてもアメリカ人の眼に日本人がどう見えているかという観点だけで描かれるため、日本人が見た時に居心地の悪いステレオタイプな描かれ方が多くなる。
昔だと、アメリカ人俳優に眼の吊り上がったメイクを施して、出っ歯の付け歯をさせて日本人にするような荒業がまかり通っていた(『ティファニーで朝食を』[1961年]のミッキー・ルーニーが典型例)。だが、日本の国際スターたちは現代人を演じる際にも気を遣ってきた。
watching breakfast at tiffany’s is such a strange experience (esp as an asian) because on one hand we have audrey draped in beautiful givenchy, an all timer mancini score, the most adorable orange tabby cat… and then mickey rooney comes in with the most HORRENDOUS yellowface 😭 pic.twitter.com/NoekFlJkiB
— audrey hepburn enthusiast (@darylandfilms) January 5, 2025
三船敏郎はハリウッド映画で、侍、軍人以外にも、現代日本人を演じる機会も結構あったが、中でも『グラン・プリ』(1966年)では、F1グランプリの世界を舞台に、ジェームズ・ガーナー、イヴ・モンタンといった国際スターを向こうに回し、日本チームのオーナー役として出演した。イギリスのロータスチームのドライバーとして事故を起こしお払い箱となった失意のガーナーに救いの手を差し伸べるホンダチームのオーナー三船は、レース場でも陣頭指揮をとり、本田宗一郎を思わせる役作りでカッコいいのだ!
『グラン・プリ』© Turner Entertainment Co. and Joel Productions, Inc.
一方、高倉健も『ブラック・レイン』(1989年)、『ミスター・ベースボール』(1992年)とハリウッド映画で現代日本人を演じているが、その最初の例がシドニー・ポラック監督の『ザ・ヤクザ』(1974年)だった。
『ザ・ヤクザ』©Warner Bros. Entertainment Inc.
舞台は日本で、アメリカで私立探偵をしているロバート・ミッチャムが、ヤクザに拉致された知人の娘を救出するため日本を訪れ、元ヤクザで今は剣道教師をしている高倉健と堅い友情で結ばれ、共に敵のアジトへと殴り込みをかける。製作総指揮を東映ヤクザ映画のプロデューサー俊藤浩滋が務めていることもあり、違和感のない日本人像が示されていた。
『ザ・ヤクザ』©Warner Bros. Entertainment Inc.
戦争映画における日本人軍人の表象
戦時中のハリウッド映画では、戦う相手としての日本軍人は、出っ歯で牛乳瓶の底のようなブ厚い眼鏡をかけ、卑怯な振る舞いをする“イエロー・モンキー”的に描かれてきたが、これも徐々に是正され、三船敏郎が『ミッドウェイ』(1976年)で演じた山本五十六元帥のように立派な軍人としての姿も描かれるようになった。ただし、それは将校のような上に立つ軍人の話で、下っ端の軍人だと残虐なイメージからなかなか脱却できなかった。
そんな中、スティーヴン・スピルバーグ監督の『太陽の帝国』(1987年)では、意表を突いたキャスティングで、伊武雅刀やガッツ石松が日本軍人役に起用され、それぞれになかなかの存在感を示した。とりわけガッツ石松は、この演技で全米映画俳優協会の最優秀外国人俳優賞を、日本人として初めて受賞している。
『太陽の帝国』© 1987 Warner Bros. Inc.
クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』(2006年)は、同じ硫黄島の戦いをアメリカ人側の視点で描いた『父親たちの星条旗』(2006年)との二部作で、日本兵の視点から描いた、ハリウッド映画としては画期的な作品だった。渡辺謙の演じる栗林中将や、伊原剛志の演じる西中佐などは、戦前に在米日本大使館付き駐在武官や、オリンピックの馬術競技出場などでアメリカを訪れていた親米派の立派な軍人としてきちんと描かれた。
Ken Watanabe in Letters from Iwo Jima (2006) pic.twitter.com/5xdfeG4lz3
— Frame Found (@framefound) April 1, 2023
一方で、中村獅童が演じた海軍中尉などは逃げて来た兵士の首を刎ねようとする残虐な日本兵として描かれていて、バランスの取れた日本軍人描写だった。アメリカ人監督のイーストウッドがよくぞここまで丁寧かつニュートラルに日本軍人を描けたものだと感心する。
『硫黄島からの手紙』© Warner Bros. Entertainment Inc. © DreamWorks Films L.L.C.
『父親たちの星条旗』© Warner Bros. Entertainment Inc. and Dreamworks LLC
これからのハリウッド製劇映画と日本人俳優
さて、『SHOGUN 将軍』は今年、シーズン2が製作されるそうだが、一方で、このシリーズと同じく真田広之と浅野忠信が出演したキアヌ・リーヴス主演の『47RONIN』(2013年)も、あまりヒットはしなかったにもかかわらず続編がNetflixで製作されることになったそうだ。
同作品に真田広之と浅野忠信が再び参加するかどうかは不明だが、浅野忠信はゴールデングローブ賞受賞の勢いを保持したまま、ハリウッド映画ではないものの、日本・フランス・スペイン・ベルギー合作の新作『レイブンズ』の公開が2025年3月に控えている。監督は『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』(2017年)のマーク・ギル監督で、浅野は伝説の写真家・深瀬昌久役を演じている。
これからますます、ハリウッド映画など外国映画に出演する日本人俳優の活躍の機会は増えていきそうな予感がする。
文:谷川建司
『グラン・プリ』『ザ・ヤクザ』『太陽の帝国』『硫黄島からの手紙』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2025年2月放送