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薬物密売「黙認」の村に惨殺死体!? 底なしズブ沼サスペンス『おんどりの鳴く前に』若き監督が語る

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薬物密売「黙認」の村に惨殺死体!? 底なしズブ沼サスペンス『おんどりの鳴く前に』若き監督が語る
『おんどりの鳴く前に』© 2022 Papillon Film / Tangaj Production / Screening Emotions / Avanpost Production
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東欧ルーマニア発!底なし沼サスペンス

1月24日(金)より公開の映画『おんどりの鳴く前に』は、ルーマニアのパウル・ネゴエスク監督によるオフビートなブラックコメディーだ。不器用な田舎村の警官イリエ(ユリアン・ポステルニク)が、長年放棄してきた道徳的な考えを徐々に取り戻していく様を描いている。

『おんどりの鳴く前に』© 2022 Papillon Film / Tangaj Production / Screening Emotions / Avanpost Production

舞台はルーマニア北東部、西モルドヴァ地方の穏やかな農村地帯で、モルドバとのやや緩い国境に近い場所。ここでの主な産業は「密輸」であり、村長コスティカ(ヴァシレ・ムラル)の指揮によって組織されている。イリエは警官でありながらも、村のために悪事を見て見ぬふりをしているのだ。だが、イリエの静かな生活は、真面目で正義感の強い若手同僚ヴァリの到着と、頭をかち割られた遺体の発見によって崩壊していく。

『おんどりの鳴く前に』© 2022 Papillon Film / Tangaj Production / Screening Emotions / Avanpost Production

落ち着いたペースで進む物語の果てに訪れるクライマックスは、銃や斧を使った衝撃的な暴力が爆発し、まるでコーエン兄弟やクエンティン・タランティーノの作品を彷彿とさせる展開を見せるが、エンターテインメントとは距離を置いた厭世観を感じさせる。劇中に漂う猛烈なシニシズムは、かつて中東欧を席巻していた弾圧的な政治を揶揄しているかのようにも思える。

『おんどりの鳴く前に』© 2022 Papillon Film / Tangaj Production / Screening Emotions / Avanpost Production

といっても、安易に政治に結びつけるのは抵抗がある。そこで、パウル・ネゴエスク監督に直接、本作の政治的側面、そしてルーマニアの映画制作について伺ってみた。

パウル・ネゴエスク監督 『おんどりの鳴く前に』© 2022 Papillon Film / Tangaj Production / Screening Emotions / Avanpost Production

「多くのルーマニア人は自分たちを置き去りにした社会に怒りを抱いている」

―皮肉や悲しみに満ちあふれた物語でした。主人公のイリエは、ことなかれ主義かつ考え無しで行動しているように見え、ある種、人生を諦めている感じがします。ルーマニアではイリエの様な生き方をしている人は多いのでしょうか?

ルーマニアの男性は大体、彼のような人間性だね。でも、考え無しではないんだ。むしろ考えてはいるんだけど、その考えが“愚か”なんだ。そこが問題だと思う。ルーマニアの多くの男性は感情を表現することが下手でね。感情的になることが許されていない文化があるから、自己防衛として気持ちを表す前に考える傾向がある。イリエは、その考えが愚かで良くない結果を生んでいるんだ。

『おんどりの鳴く前に』© 2022 Papillon Film / Tangaj Production / Screening Emotions / Avanpost Production

―ルーマニアは、前世紀の後半まで独裁政権により政治的に国民は弾圧されていました。『おんどりの鳴く前に』の舞台となる村で起こる一連の出来事は、あの時代の弾圧への怒りを表現したように感じたのですか、いかがですか?

イリエだけでなく多くのルーマニア人は、自分たちを置き去りにした社会に対して怒りを抱いている。ルーマニアは50年前には共産主義国家だったけれど、それは人々が期待した共産主義ではなかったんだ。理念的には「人々のため」だったけれど、まだ準備ができていない人々に無理やり変化を促した独裁政治であり、共産主義がもたらすべき社会的利益よりも、独裁的な支配を重視したものだった。共産主義の利点として貧しい人々には仕事、医療、教育が与えられたけれど、社会的な連帯感は存在しなかった。そして共産主義は強固なものとならず、そこに連帯感はなかったんだ。そしてポスト共産主義時代において、この連帯感の欠如はさらに悪化した。

『おんどりの鳴く前に』© 2022 Papillon Film / Tangaj Production / Screening Emotions / Avanpost Production

イリエという男の姿は、多くのルーマニア人が現在感じている状況そのもの、共産主義時代にあったセーフティーネットさえも外されてしまった人々の姿を反映しているんだ。2024年11月にルーマニアでは大統領選挙と議会選挙の2つがおこなわれたけれど、議会選挙では、議席の約40%が極右政党によって占められた。大統領選挙では、最終ラウンドに極右候補が含まれていて、他の問題により選挙が無効になったんだ。現代においても、問題は依然として続いていると感じるよ。

『おんどりの鳴く前に』© 2022 Papillon Film / Tangaj Production / Screening Emotions / Avanpost Production

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『おんどりの鳴く前に』

ルーマニア・モルドヴァ地方の静かな村の中年警察官イリエ。
野心を失い鬱屈とした日々を送っている彼の願いは、果樹園を営みながら、ひっそりと第2の人生を送ること。
しかし平和なはずの村で惨殺死体が見つかったことをきっかけに、イリエは美しい村の闇を次々と目の当たりにすることになる。
正義感を手放した警察官がたどり着く、衝撃の結末とは――。

制作年: 2022