テレビ時代到来、画面の大型化を目指した『西部開拓史』
『捜索者』は、ラストに復讐から“赦し”へと意外な転換を見せることで、そういった全ての想いを乗り越えて西部が開拓されていったのだというフォードの立ち位置を示していた。
その6年後に製作された『西部開拓史』(1962年)は、テレビに客を奪われた映画界が画面の大型化で生き残りを図っていた時代に、シネラマ劇映画第1作として製作された超大作。物語は5部構成で、ある一家の親子三代にわたるドラマだが、その第3話「南北戦争」をフォードが監督している。
第1話の主人公カップル、ジェームズ・スチュワートとキャロル・ベイカーの息子ジョージ・ペバードが、父を追って北軍に入隊。そこで南軍の脱走兵ラス・タンブリンにそそのかされて自分も脱走兵になりかかるものの、たまたま二人で北軍のグラント将軍(ハリー・モーガン)、シャーマン将軍(ジョン・ウェイン)に遭遇し、ラス・タンブリンがグラント将軍を撃とうとしたのを阻止する……という筋だ。
ラス・タンブリンは『ウェスト・サイド物語』(1961年)で知られる新世代の俳優で、『イージー・ライダー』(1969年)を作ったデニス・ホッパーのマブダチ。後のヴェトナム反戦運動などと繋がる人物で、つまりジョン・ウェインのような旧世代のハリウッド・スターが体現していた古き良き時代の西部劇が危機に瀕していることを象徴するようなエピソードだった。実際、ウェインはその後『11人のカウボーイ』(1972年)でニューシネマ世代の俳優ブルース・ダーンに背中から撃たれて映画の途中で死んでしまう。
ちなみに<シネラマ方式>とは、元々は同期させた3本のフィルムで別々に撮られた映像を3台の映写機で写すもので、『西部開拓史』は65ミリ・フィルムで撮影した映像を3分割してスタンダードサイズ3本のフィルムに焼き付ける方式。繋ぎ目がどうしても目立つのが難点で、画面構成上、人物が繋ぎ目に来ないように調整する必要があった。公開はシネラマ上映設備のあるテアトル東京、大阪のOS劇場などに限られ、テアトル東京などは1階席の前の方に座ると首を廻さないと画面の端から端まで見えなかった。
“インディアン”を敵として描けなくなった?『シャイアン』で請うた“赦し”とは
『西部開拓史』で狙撃されかかったグラント将軍(後に合衆国第18代大統領となる)役は、当初は名優スペンサー・トレイシーが演じる予定だったものの都合で降板し、トレイシーは代わりにナレーションを担当した。そのトレイシーを尊敬していたことで知られるのが第4話「鉄道」でインディアンたちの意向を無視して大陸横断鉄道の敷設工事を進める悪役を演じたリチャード・ウィドマーク。……そして、ジョン・フォードが最晩年に監督したのが、そのウィドマークを主人公とした『シャイアン』(1964年)だった。フォードはその後にもう一本、女優たちばかりで西部劇スターが一人も出ない『荒野の女たち』(1966年)を撮り、それが遺作となった。
『シャイアン』は、ある意味でフォードがそれまでずっと撮り続けて来た西部劇を否定するような内容だった。――つまり、『駅馬車』で主人公たちを襲い、『捜索者』で主人公の兄一家を惨殺するなど、白人主人公にとっての敵としてしか描かれなかったインディアン側に寄り添って描いた作品なのだ。
ウィドマークが演じるのは、合衆国政府によって居留地に強制移住されられたインディアンたちに同情的な主人公だが、故郷の地に帰ろうとしたインディアンたちを討伐しなくてはならなくなる。……このストーリーは、ある意味でジョン・フォードが人生の晩年になって辿り着いた、アメリカ先住民族に対する声明であり、彼らを繰り返し“敵”として描いてきたことへの赦しを請う内容だと言えよう。
ちなみに本作では、興行的価値を担保する意味で、本筋とは別に有名な保安官ワイアット・アープ役でジェームズ・スチュアート、その相棒ドク・ホリデイ役にアーサー・ケネディという主演級スターが出ているのだが、1977年12月にフジテレビで放送された時には、何とその二人の登場シーンが丸ごとカットされてしまったのには心底びっくりした。
フォード亡き後の西部劇
さて、フォードが『シャイアン』で予言したように、その後のハリウッドでは先住民族(インディアンと呼ぶことすら政治的に正しくなくなった)を敵として描くことはタブーとなった。そして、シャイアン族を虐殺する白人を“悪”として描いた『ソルジャー・ブルー』(1970年)や、シャイアン族に育てられた白人男性の数奇な運命を描いた『小さな巨人』(1970年)のようなアメリカン・ニューシネマ期のアンチ西部劇を経て、白人と先住民族の和解と友情を描いたケヴィン・コスナー監督主演の『ダンス・ウィズ・ウルブス』(1990年)、先住民族側が主人公の『ラスト・オブ・モヒカン』(1992年)、『ジェロニモ』(1993年)へと様変わりしていったことはご承知の通りだ。
文:谷川建司
『西部開拓史』『シャイアン』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2025年1月放送