規則正しい生活を送る内向的なジョナサン。毎朝7時に起床し、夜7時までには就寝する。なぜなら彼の身体には、もう一人の人格、ジョナサンとは正反対の性格のジョンがいるからだ。彼らは、脳内に埋め込まれたタイマーにより、12時間ごとに人格が切り替わる。ジョンの時間は、夜7時から午前7時まで。ふたりはビデオメッセージを通して日々の行動を報告し、順調に毎日を送っているように見えたが、ジョンがある女性と密かに交際していることが発覚し、ふたりの歯車が狂い始める……。
本作でジョナサンとジョンを見事に演じ分けたのは、『ベイビー・ドライバー』主演のアンセル・エルゴートだ。
「僕は突拍子もない奇想天外なアイデアとか物事に惹かれるタイプなんだ」
―オリヴァー監督は本作が長編映画デビュー作とのことですが、どんな想いで撮影に臨みましたか?
そもそも予算がなかったので、小規模な映画になるとは思っていたんだ。だけど、観客をグッと惹き込む斬新で奇抜なアイデアというのが必要だなと思って、色々と探していたんだよね。
高校生時代のある朝、僕の友人がロッカーのダイヤル鍵を開けようとしたら、数字が変わっていて開けられないという出来事があったんだ。そこで、その友人が「ひょっとしたら自分の身体や意識が“誰か”に乗っ取られていて、夜中にその別の誰かが覚醒して行動を起こしているのかもしれない……」みたいなことを言っていたんだけど、昼と夜とで別の人間に入れ替わっている、というのは面白いなと思って。そこから生まれたアイデアだったんだ。
僕は突拍子もない奇想天外なアイデアとか物事に惹かれるタイプなんだけど、ある種「ジキルとハイド」のようなストーリーでありながらも、“人格”ではなく“実際の人物”がひとつの体の中に生きている、そして、それだけ近しい関係性なのにお互い出会うことがない、といったストーリーを練り上げていったんだ。
“脳タイマー”については、彼らは生きるために必要だからそれを埋め込んでいるわけだけど、これからの未来では可能なことかもしれないよね。そのアイデアに辿りつくまでに技術者や医療関係の人に色々とリサーチをしたんだけど、脳に信号を送るための医療用のデバイスがあって、それを埋め込むということは実際に行われているらしいんだ。例えば、パーキンソン病とか、てんかんやうつ病の治療に使っているところもある。人格までコントロールできるかどうかはわからないけどね。
―制作において、もっとも大きなチャレンジだったことは?
初めての長編ということで、とにかく色んなことを想定して準備万端で臨んだものの、一番の課題は時間がないことだった。自分が目指していた全体的な映画のトーンやムードみたいなものは頭の中にあったんだけど、特にビジュアル面ではスタイリッシュな雰囲気のあるものを作りたいと思っていたから。それは、とても時間のかかることなんだ。そういった部分が大変だったかな。
でも、今回は一流のスタッフが全面的にサポートしてくれたことと、特に素晴らしい才能のあるキャストが揃っていたので、ほぼ全部のシーンを1テイクで収めてくれたから、とても助かったよ。
「アンセルは演技の幅広さを証明したし、まだまだ伸びしろがある」
―本作の主演にアンセル・エルゴートを起用した理由は?
彼が『ベイビー・ドライバー』(2017年)で大ブレイクするよりもっと前の話なんだけど、『きっと、星のせいじゃない。』(2015年)を観て、カリスマ性のある役者だなと思っていたんだ。でも、この企画を練っていた時点ではアンセルの年齢が当初の設定より若すぎて、候補者の優先順位としては低かった。2つの人格のうち、ジョンの方は上手く演じてくれると思ったんだけど、ジョナサンの方はどうだろうという疑問もあったし。
でも、そのあとに『ステイ・コネクテッド~つながりたい僕らの世界 』(2014年)という群像劇で、とても内向的でシャイな役を演じているのを観て、彼ならジョナサンを演じられるかもしれないと思い始めた。そういった要素とタイミングが重なり、実際に会ってみての相性とかも含めて、彼に決めたんだ。アンセルはこの作品で演技の幅の広さを証明したと思うんだけど、彼にはまだまだ伸びしろがあると思うし、次回作として決まっている『The Goldfinch(原題)』をすごく楽しみにしているよ。
彼に限らずだけど、俳優が持っているあらゆる側面というものを、一つの作品で発揮できるというのはなかなかないチャンスだから、そういった面では監督する身として自分も興奮したし、アンセルもそこが気に入ったというのが出演を決めた理由のひとつじゃないかなと思うよ。彼が主人公で、全編を通してほぼ出ずっぱりというのもあるけど、アンセル自身も「今まで見せたことのない部分も自分自身で探求しながら演じていけるのが醍醐味だった」と言っていたね。
撮影中、僕が特に感心したのは、ジョンのビデオメッセージをジョナサンが見ているという一番最初のシーンを撮るときだ。自分からのメッセージを自分で聞いているというのは、彼にとって妙な感じがして演じにくいんじゃないかな? と思ったんだけど、彼は完全にジョナサンモードに切り替わって、役に入り込んでいたんだ。まったくの他人から貰ったメッセージを見ている、という姿を非常に自然体で演じていて、素晴らしいなと感じたよ。
―アンセルにステディな恋人がいることは日本でも有名です。『ベイビー・ドライバー』や『クリミナル・タウン』(2017年)など、彼は“初恋”を経験する役柄を演じることが多い気がするのですが、そういった部分でのアンセルの演技については、どのように感じていましたか?
そう言われてみれば初恋モノを演じることが多いね! 確かに、あんなにイケメンでまだまだ若いから、必然的にそういう役を演じることが多いのかなって思うよ。素の彼はジョンに近い部分があるから、むしろジョナサンのような役を演じるのを楽しんでいたね。特に恋に落ちる過程を演じる時の、ためらいやオドオド感のような、自分自身にあまりない部分を表現することは刺激的で面白い体験だったんじゃないかな。それと、元々の脚本では年齢設定をもう少し高めにしていたんだけど、もしそのままの年齢でキャスティングしていたら、おそらくそういう要素は欠けてしまう部分だったと思うから、逆にうまくハマッたのかもね。
「日本に“ジョナサン”っていうレストランがあることは知ってるよ!(笑)」
―本作で特に気に入っているシーンと、その理由を教えてください。
ジョンがしばらく姿を消した間、ジョナサンとエレナの距離がぐっと近づく。それから自宅に戻ってきたジョナサンは、ジョンに対してある嘘をつく。その一連のシーンは、編集、撮影、音楽、演技、すべてが自分の思い通りにハマった。この作品ではあまり音楽を使っていないけど、あのシーンには一番長く音楽を使ったんだ。とにかくすべてにおいてお気に入りだね!
―これから本作を鑑賞する日本の観客に向けて、メッセージをお願いします!
映画というのは、言葉や文化を超えると言われているよね。この作品は一見風変わりな設定で、ありそうもないアイデアだとは思うけど、その根底には普遍的なテーマがあって、誰もが共感してもらえるものだと思っているから、ぜひ観て欲しいな。“ジョナサン”と“ジョン”という二人のキャラクターが辿る数奇な運命に心を動かされる部分があるかもしれないし、観てくれた人が自分の生き方や考え方に想いを馳せてもらえるような、そんな映画になっていたらいいなと思うよ。
あと、日本のレストラン“ジョナサン”のことは知っているよ!(笑)
『ジョナサン-ふたつの顔の男-』は2019年6月21日(金)より公開
『ジョナサン -ふたつの顔の男-』
“午前7時と午後7時”に切り替わる、ふたつの異なる人格。すべては完璧にコントロールされているはずだった…。観る者を翻弄する、脳<ノー>コントロール・スリラー。
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |