ハリウッドの歴史で繰り返された人気子役の凋落パターン
“一世を風靡した子役は大人になると大成しない”というジンクスは、ハリウッドの歴史の中でずっと語られ続けてきた。美少女が女優として花開く例はあるが、『ペーパー・ムーン』(1973年)のテイタム・オニール、『エクソシスト』(1973年)のリンダ・ブレアなどは、いずれも薬物などの問題を抱えて表舞台から消えていった。
少年スターだと、古くはミッキー・ルーニーやロディ・マクドウォールなど、大人になって以降は脇役スターとして生き残った例はあるものの、むしろ子役時代はもてはやされながら、大人になったら心身ともにバランスを失って凋落するパターンの方が圧倒的に多い。『ホーム・アローン』(1990年)のマコーレー・カルキン、『依頼人』(1994年)のブラッド・レンフローなど、皆そのパターンだ。
そんな中でクリスチャン・ベイルは、輝かしい子役時代よりも大人の俳優になってからのほうが、さらに大きな成功を掴んだ稀有な例だと言える。
4000人の中からスピルバーグ監督作『太陽の帝国』に13歳で大抜擢
映画『太陽の帝国』(1987年)は、巨匠デヴィッド・リーンも映画化を熱望していたと言われる、スティーヴン・スピルバーグ監督による超大作。――舞台は太平洋戦争突入前後の上海で、租界に育った英国人の少年ジムが、日本軍侵攻の混乱の中で両親とはぐれ、収容所に送られるものの、なんとか生き残り、大人へと成長していく姿を描いている。
この作品の成功の鍵は、全編を通じて主役のジム少年が魅力的であるかどうか、そして、ゼロ戦パイロットに憧れる子供だった彼が戦争の狂気を経験しながら人として成長していく様を、観客にとって信じるに足るものとして演じ切ることが出来るか、にかかっていた。そのためスピルバーグは、9カ月にわたって全米・全英で4000名もの候補者の中から慎重にキャスティングを進めた。
抜擢されたクリスチャン・ベイルは当時13歳で、母や祖父がショービジネス界にいたため10歳より舞台やテレビCMに出ていた子役で、父がパイロットだったこともあって、ジム役にはうってつけの逸材だった。
ジョン・マルコヴィッチやベン・スティラーなど芸達者な大人の俳優たちの中にあっても全く引けを取らない存在感で、同作を成功へと導いたベイルだが、賢明なことに、その後2年間は学業に専念して自身を客観視する時間を持った。
Um jovem Christian Bale conversa com Steven Spielberg no set de “Empire of the Sun”, drama de guerra de 1987.♥️🎥#christianbale #stevenspielberg #spielberg #empireofthesun pic.twitter.com/su8Ncf7t1N
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慎重な作品選定で大人の俳優へとスムースに移行した20代
ケネス・ブラナーの『ヘンリー五世』(1989年)で再び映画の世界へ戻ったベイルは、子役から大人の役へとステップアップする時期に、年に1~2本の質の高い作品のみを選び、またその役柄も似たようなものばかりにならないよう配慮していたように見受けられる。
具体的には、ナチス時代のハンブルグを舞台に、アメリカ由来のスイング・ジャズを愛するドイツの若者たちを描いた『スイング・キッズ』(1993年)では、主人公の気のいい親友役。ルイーザ・メイ・オルコットの名作小説の久々の映画化作品『若草物語』(1994年)では、作家志望のヒロイン(ウィノナ・ライダー)の隣人で、彼女と結婚すると思われていたものの、現実的な選択としてその妹を結婚相手に選ぶ青年を演じた。
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更に、サスペンス映画『シークレット・エージェント』(1996年)ではボブ・ホスキンス、ジェラール・ドバルデュー、ロビン・ウィリアムズといった超一流俳優たちと共演、『ベルベッド・ゴールドマイン』(1998年)ではグラムロックの人気歌手の座から凋落して行方不明となった人物について調査する若き新聞記者という役どころで高い評価を得た。
Foto promocional de Christian Bale para Velvet Goldmine, 1998. #felizaniversario pic.twitter.com/MV5kpOPpcp
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そして、ベイルが大人の俳優へと完全に脱皮したのが、26歳の時に主演した『アメリカン・サイコ』(2000年)。ウォール街の投資会社の若き経営者として何不足ないヤング・エグゼクティブ暮らしを満喫しながら、裏では快楽殺人を繰り返す複雑な主人公を熱演して、演技派としての評価を決定づけた。