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死体遺棄事件と“奇妙な間取り”の関係とは? 不動産ミステリー映画『変な家』 佐藤二朗らクセ強キャストや衝撃ホラー展開に注目

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ライター:#ギンティ小林
死体遺棄事件と“奇妙な間取り”の関係とは? 不動産ミステリー映画『変な家』 佐藤二朗らクセ強キャストや衝撃ホラー展開に注目
©2024「変な家」製作委員会
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映画ならではの手法で「間取り図展開」を再現

現在公開中の映画版『変な家』は、『ミックス。』(2017年)や『世にも奇妙な物語’21 秋の特別編』(2021年)で「ふっかつのじゅもん」を手掛けた石川淳一さんが監督を、『七つの会議』(2018年)『大名倒産』(2023年)の丑尾健太郎さんが脚本を務めています。

先にも書いたように安楽椅子探偵の魅力が満載な原作では、雨穴さんは“変な家”の外観は見るが、屋敷内に潜入することはない。基本的には間取り図を見ながら、栗原さんと推理していく。そこが読者的には、二人の推理の場に立ち会っているようで面白いのですが、映画的には動きがないんじゃないかな? どんな映画になるんだろう? と、原作や動画版を知っている方は気になりますよね。

©2024「変な家」製作委員会

その映画版の物語ですが、ツカミは原作と一緒。雨男という名でオカルト専門の動画クリエイターをしている雨宮(間宮祥太朗)が、動画プロダクションのマネージャー柳岡(DJ松永)から、「購入予定の家に不可解なところがある」と世田谷区にある築1年の中古一軒家の間取り図を渡されるところからはじまる。

間宮祥太朗さん演じる主人公が、動画を配信するシーンもあります。雨穴さん風の全身黒ずくめで、オリジナルとはひと味違うデザインの白いお面を装着。また柳岡さんを演じるDJ松永さんは、不遜かつ心がないキャラを見事に演じていて実に好感が持てます。また、雨宮は集合住宅の一室をスタジオ兼住居にしているんですが、これが昭和ムード満載の建物で、作品の不穏な空気を高めるのに一役買っています。

原作と同じく雨宮は、知人の設計士・栗原さんに意見を聞くため間取り図を見せます。この栗原さん、漫画版ではスリムかつダンディーな紳士に描かれていましたが、映画版では佐藤二朗さんが演じていて、これが見事にハマっているんですよ! 佐藤二朗さんならではの俺ジナルな演技によって、不愛想でちょっぴり挙動不審な人物像を提示してくれています。

また原作の大きな魅力であった、間取り図から浮かび上がる不可解な点をわかりやすく伝え、読者が雨穴さんと栗原さんと共に間取り図を解明しているような気分になれるという面白さは、映画版でも映画ならではの手法で継承。ネタバレになるので具体的な説明はしませんが、栗原さんが立てた大胆な仮説をショッキングな再現映像で見せるハッタリが(イイ意味で)効いた演出で楽しませてくれます。

©2024「変な家」製作委員会

そして雨宮は、「あの家について心当たりがあります」という謎の女性・宮江柚希(川栄李奈)と接触するんですが、川栄さんもイイですよ! 映画の宣伝ビジュアルではわかりづらいですが、劇中では陰気で謎めいたムードをまき散らすキャラクターを好演しています。そんな川栄さんはホラー映画が好きで、過去にバラエティ番組に出演した際に『ムカデ人間』(2010年)がフェイバリット作品と明かしています。

この辺りの展開までは、ほぼ原作通りにストーリーが進んでいきます。が、栗原と柚希が出会うのが原作よりも早いな、と思った辺りから映画は独自の展開を爆走していきます。

©2024「変な家」製作委員会

日本映画界に新しい名探偵キャラが誕生? 佐藤二朗が演じる栗原に注目

原作の雨穴さんと栗原さんは、基本的に入手した間取り図だけを見て謎を解明していく安楽椅子探偵タイプの主人公ですが、映画版の主人公・雨宮は限度を超えた仕事熱心さで“変な家”に引き込まれていき、大胆な行動をするアクティブなキャラクターに変貌。その結果、雨宮が“変な家”に潜入する、という原作にはないシーンもあります。つまり、映画スタッフたちが真心を込めて完全再現した“変な家”の内部を観ることができるんです! 完全に不法侵入ですが……。

©2024「変な家」製作委員会

ちなみに僕は映画ライター以外に心霊スポット取材も生業にしているのですが、“変な家”内部の様子を雨宮が撮影する動画で見せる潜入シーンは、心霊スポット廃墟に潜入したときの臨場感&緊張感が思わずフラッシュバックした、スリリングなシーンに仕上がっているので期待していてください。

さて、その後も雨宮は、「闇の中は何があるかは、闇に入らないとわからない!」という前のめりすぎるスピリッツで、“変な家”をとりまく謎に飛び込んでいく。それに伴い、原作では生活圏から出ることがなく安楽椅子探偵としての魅力をスパークさせていた変わり者の栗原さんもアクティブになっていきます。

©2024「変な家」製作委員会

さっきも書きましたが、この栗原を演じる佐藤二朗さんが、とにかくイイんですよ! というか、カッコいいんです! クセが強くて不愛想な人物なんですが、実は誰よりも、危険に身を投じていく雨宮のことを心配している、そして、類まれな推理スキルで雨宮をバックアップしていく姿はグッとくること間違いなし!

本作を観た人は、きっと『来る』(2018年)に霊能者役で出演した柴田理恵さんを観た時のような「え! この人、こんなにカッコ良かったの!?」というサプライズを堪能できるはず。日本映画界に新しい名探偵キャラが誕生した、と言っても過言ではないです。不愛想でクセが強いが頼りになる栗原さん、押し出しが弱そうだが実は猛烈な探求心のオーナーである雨宮のバディ感は素敵すぎるし、雨穴さんと栗原さんが登場するお話は他にもあるので是非、シリーズ化して欲しいです!

©2024「変な家」製作委員会

原作とは違う俺ジナルな展開を見せる本作では、田成哉さん、瀧本美織さん、根岸季衣さん、髙嶋政伸さん、斉藤由貴さん、石坂浩二さんといった出演陣が皆、クセのある人物を怪演。その結果、映画は<クセがすごい演技グランプリ>と化します。あのDJ松永さんも、ある理由から情緒がバグってしまう瞬間があるんですが、これがイイ按配のショッキングを提供してくれるシーンになっているので、本作がソフト化されたら繰り返し観る人が続出するはずです。

そんな怪演だらけの映画の中でクリーンな存在感をキープオンする間宮祥太朗さんも、主人公としての輝きを増していきます。

原作ファンも驚く“全部乗せ”ホラー展開に戦慄

“変な家”の謎を追い続ける雨宮たち。いつしか映画は『犬神家の一族』(1976年)などの横溝正史作品をハードコアにしたような村ホラーに突入し、“動画配信者 VS カルト集団”という原作ファンの予想を豪快にフライングした気合の入ったバイオレンス・ホラーにトランスフォーム! ここで、スーパー戦隊シリーズ、「仮面ライダー」シリーズなどで怪獣・怪人を始めとするキャラクターデザインを担当したことで知られる酉澤安施さんデザインによる、能面を厭な感じにした面がたくさん登場するんですが、これが脳裏にこびりつく不気味さなので、ソッチ系が好きな方は楽しみにしていてください! 本作が大ヒットしたら、お面のレプリカやカプセルトイなどのグッズになるんじゃないでしょうか。

このように、原作にないゴアシーンが満載の映画なんですが、驚くことに原作ストーリーの肝はしっかり守っている、という高度な作りになっているので原作ファンの方もご安心ください! でも、冒頭に書いた小学生グループが観たら、トラウマになるんじゃないですかね……。

©2024「変な家」製作委員会

そんなわけで原作ファンの方々には、普通のラーメンを頼んだらアブラマシマシ全部乗せを出されたかのような、予想外の奇跡を楽しむことができる映画になっています。しかし、「自分は普通のラーメンが食べたかったのに」と感じる方もいるでしょう。

たしかに本作は、出演者全員が役にハマっているので、原作に忠実に作っても見応えのある映画になったと思います。でも個人的には、映画は原作の再現映像じゃない! 映画だから目指すことができる物語の結末があるはずだ! 映画屋なら、それを観客に提供しないといけないんだ! という心意気を感じました。

この改変は、映画屋さんたちからの『変な家』ファンへの過剰すぎるサービスだと思いますので是非、スクリーンで堪能していただきたい! もちろん、原作未読の方も存分に楽しめる作品になっています。とはいえせっかくの機会ですし、ストレスなくクイックに読める本なので、ぜひ原作を読んでから映画版のアレンジぶりを堪能&怖がって欲しいです。

©2024「変な家」製作委員会

本当にあった!怖すぎる「変な間取りの家」エピソード

ちなみに僕の心霊スポット取材の経験から言わせてもらうと、「変な間取りの家」というのは、この世に何軒も存在します……。

その中のひとつが、都内某所にあるマンションの101号室。住人のAさんがその部屋に引っ越してきたばかりの時、箱の中に3本入っていたはずの煙草が、外出後に確認すると2本になっていた。

「誰かが侵入しているのでは?」

そう思ったAさんは、それから外出する時は必ず部屋中のドアの隅にセロテープを貼って、侵入者が来たらわかるようにしていた。そして帰宅して確認すると、ドアに貼ったテープがすべて切れていた。それだけではない。部屋に置いていた煙草の本数も減っていた。このことからAさんは、誰かが部屋に忍び込んでいると思っていた。しかし……Aさんが部屋のパソコンで作業をしていると、

たったたたっ
すたすたすた

と、自分の背後を何人もの人が行き来しているような足音が聞こえた。一度だけではない。Aさんが部屋にいる時は必ず聞こえるようになった。ここから101号室では、様々な奇妙な現象が頻繁に起きるようになる。

いつの間にか台所の流しに泥が溜まっている。
部屋でパソコン作業をしていると突然、どん! と背中を角材で突かれたような衝撃を感じる。

そんなことが何度も起こるうちにAさんの健康状態は悪化していき、ついには外出中に突然、どん! と背中に衝撃を感じた直後、意識を失い救急車で運ばれる事態になってしまう。

「これ以上、ここにいたら危ない……」

Aさんは入居して1か月半で101号室から出ることを決意。引っ越しの片づけをしている時、入居前に廊下に貼ったタイルカーペットを剝がしていると、床に50センチ四方の正方形の扉があった。不動産情報には載っていなかったが、床下収納があったのか。

Aさんは扉を開けてみた。収納の中はホコリだらけ。深さ10センチほどしかないスペースに、綿ボコリがびっしりと積もっている……。

床下収納なのに深さ10センチしかないなんて、どういうことだ? と思いながらも片づけのついでに、Aさんは綿ボコリを掃除機で吸いはじめた。埃は瞬く間に吸い込まれていった。すると、床下収納の中に、市松人形が横たわっていた。あまりの気持ち悪さに、Aさんは人形を屋外の雑木林めがけて投げ捨てた。

しばらくして落ち着きを取り戻したAさんが、深さ10cmしかない、市松人形がなくなった床下収納もどきを見てみると、底はベニヤ板でできていた。ベニヤ板を叩くと、軽い打撃音が聞えてくる。おそらく、ベニヤ板の下に何かある。Aさんは板を剥がした。

「な、なんだ、これは……!?」

床下に、ぽっかりと空間がある。しかし、暗くてよく見えない。マグライトで底を照らしてみた。2メートルほど下にコンクリートの床が見える。

これは……どう考えても、地下の基礎じゃない。
地下室だ。自分が住んでいた部屋に謎の地下室がある……。

――どうですか? 気味の悪い話ですよね。その後、僕はAさんから許可をもらい、謎の地下室に潜入しました。その時の模様を「ばちあたり怪談」という文庫に書いたので、興味のある方は読んでみてください。

でも、『変な家』を鑑賞した後には、僕にも本作の雨宮と栗原さんのような知り合いがいれば……。二人と共に101号室に潜入したら、もっといろんな事実が判明したのでは……? なんてジェラしい気分になってしまうほど素敵な映画でした。

文:ギンティ小林

『変な家』は2024年3月15日(金)より全国公開

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『変な家』

“雨男”の名前で活動する、オカルト専門の動画クリエイター・雨宮(間宮祥太朗)は、マネージャーから、引越し予定の一軒家の間取りが“変”だと相談を受ける。そこで雨宮は、自身のオカルトネタの提供者である、ミステリー愛好家の変人設計士・栗原さん(佐藤二朗)にこの間取りの不可解な点について意見を聞いてみることに…。次々と浮かび上がる奇妙な“違和感”に、栗原さんはある恐ろしい仮説を導き出す…。
そんな矢先、ある死体遺棄事件が世間を騒がせる。その現場は、なんとあの【変な家】のすぐ側だった。事件と家との関連性を疑った雨宮は、一連の疑惑を動画にして投稿することに。すると、動画を見た「宮江柚希」なる人物(川栄李奈)から、この家に心当たりがあるという連絡が入る。柚希と合流したことで、さらに浮上する数々の謎。
そして新たな間取り図。やがて二人は、事件の深部へと誘われていく―。紐解かれていく間取りの謎の先に、浮かび上がる衝撃の真実とは─。

原作:雨穴「変な家」(飛鳥新社)
出演:間宮祥太朗 佐藤二朗
    川栄李奈 長田成哉
    DJ松永(Creepy Nuts) / 瀧本美織
    根岸季衣 髙嶋政伸 斉藤由貴 石坂浩二
監督:石川淳一
脚本:丑尾健太郎

制作年: 2023