家族を失うか仕事を失うか 労働問題に斬りこむケン・ローチ監督【カンヌ映画祭】

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ライター:まつかわゆま
家族を失うか仕事を失うか 労働問題に斬りこむケン・ローチ監督【カンヌ映画祭】
『Sorry We Missed You』ケン・ローチ監督
『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年)でカンヌ映画祭最高賞<パルム・ドール>を受賞した巨匠ケン・ローチ監督。家族を失うか仕事を失うか。そんな選択迫る仕組みがおかしいと、最新作『Sorry We Missed You』で訴える。

引退している暇はない「闘士」ケン・ローチ

『Sorry We Missed You』©Joss Barratt, Sixteen Films 2019

5月17日ケン・ローチ監督の『Sorry We Missed You』の会見が行われた。パルム・ドールを二回受賞しているカンヌの重鎮の一人だ。
イギリス映画の伝統の一つである社会派リアリズムの系統を引く監督で、有名俳優を使うのではなく素人や撮影する地方の地方劇団や演劇教室で見つけた俳優を使い、リアルな生活感をかもし出しながら、イギリス社会が抱える問題の数々を個人の単位であぶり出し描くのが真骨頂である。

『Sorry We Missed You』©Joss Barratt, Sixteen Films 2019

今回の主人公は、宅配業を始めた男とその家族。自らバンをローンで買い、それを使って大手宅配業者のフランチャイズ業者としてドライバーを務めることにする。妻は介護ヘルパーとして働き、高校生の息子と小学生の娘がいる。
フランチャイズとして個人事業主になる、といえば聞こえはいいが、それはつまり親会社は何の保証もせずリスクを取らず、リスクはすべてドライバーに取らせ何かあれば違約金を徴収するという搾取のシステムである。

『Sorry We Missed You』©Joss Barratt

ローチと脚本家、そしてプロデューサーのトリオはこの労働問題に切り込む

「ニューキャッスルを舞台にする理由としては、美しい場所であり、人が温かくユーモアを持っているのに、貧困が幅を利かせている地域であるということだね」とローチ監督。「それにコンパクトで撮影しやすいのよ」とプロデューサー。
「仕事というもの、そのやり方が変わってきていることについて話し合ううちに、これは映画にしないとということになった」と語るローチ。ローチは続ける。
「新自由経済とやらが持ち込まれてから、労働者を守る仕組みが崩壊させられた。個人事業主、フランチャイズという誘い文句で、労働者はまるで儲けはすべて自分のもの働いただけ自分のものになる、という幻想を植えつけられる。その挙句働くことをやめられなくなり、家庭や健康といった個人的な基礎が侵されていく。」


「リサーチのために宅配ドライバーにインタビューしたが、彼らの目は充血し顔色も悪く、疲れ果てていることが見てとれた。彼らは仕事を失うのではないかという恐怖に支配され、家族のことなどをかえりみる余裕はなくなっている」と脚本家。ローチと彼が熱弁を振るうと、役者陣は「また始まったよ」という感じで苦笑い。それでも「この状況は本来政治がどうにかすべき問題なのだが、彼らは動く気配もない。だから映画を見た人たちが働きかける、そんなサポートが必要なんです」とローチが締めくくる。
社会正義が新自由主義経済に負けている現在、ローチは映画を作り続けなくてはならない。いみじくも司会は「あなたは毎回これが最後の作品になるだろうというけれど、これからも作り続けてください」というのが集まった記者たちの共通した想いだと思う。

文:まつかわゆま

2019年12月13日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

【BANGER!!!×MoviePlus】第72回カンヌ映画祭特集

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『Sorry We Missed You』

舞台はイギリス北東部のニューカッスル。父リッキーはマイホーム購入を夢みて、大手配送業者のフランチャイズの下請けドライバーとして働き出す。母アビーはホームヘルパーとして朝から晩まで働く毎日。家族で過ごす時間が減っていく中で、息子セブと娘ジェーンは寂しさを募らせてゆく…。

制作年: 2019
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脚本:
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