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世界中に「Tank!」が鳴り響く!! Netflix『カウボーイビバップ』は高すぎる実写化の壁に愛と工夫で挑んだ意欲作

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世界中に「Tank!」が鳴り響く!! Netflix『カウボーイビバップ』は高すぎる実写化の壁に愛と工夫で挑んだ意欲作
Netflixオリジナルシリーズ『カウボーイビバップ』独占配信中

『ビバップ』の狭く高いハードル

実写版『カウボーイビバップ』は、かなりハイリスクな試みだった。『ビバップ』を実写化すれば、熱烈な『ビバップ』ファンの洗礼を浴びることは避けられない。なぜなら「『ビバップ』を好きな人」というのは、要するに「熱烈に『ビバップ』を好きな人」である可能性が高いからだ。

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たとえば、これが同じサンライズ制作のアニメであるガンダムだとしたら、「モビルスーツは好きでプラモデルは買っているんだけど、内容には興味がない」とか、「アムロやシャアといったキャラクターは知っているけど、本編は見たことがない」という多方面からのファンが数多くいるだろうし、「ガンダムも色々あるから、たまにはこういうガンダムもありか」と受け止める層も厚いはずだ。

だが、こと『ビバップ』においては、「『ビバップ』に出てくる戦闘機は大好きだけど、内容には興味がない」とか、「フェイは推してるけど、本編は見たことがない」というファンの割合は、圧倒的に低いだろう。

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『ビバップ』の世界“全体”をこよなく愛する生粋の『ビバップ』好きたちが、菅野よう子さんの音楽を人生のテーマ曲に23年間生きてきた。そういう作品だからこそ、もっと知名度があるアニメたちを押しのけて「Netflixで実写化」という白羽の矢が立ったわけでもあるが、そのぶん思い入れのハードルは横に狭く、縦に高くなる。これは仕方のないことだし、制作陣も覚悟のうえだったはずだ。

潤沢な予算を投じた究極のファンムービー

実写版『カウボーイビバップ』は、この「熱烈なファンにボロクソに叩かれる可能性MAX」という運命のハードルを、愛と工夫で超えてきたというのが自分の感想だ。

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原作でおなじみの3人組の老人や、賞金首情報番組「BIG SHOT」の司会2人、各回のゲストキャラ、そして犬のアインなど、完全再現! というキャラクターも多く、何よりオリジナルを踏襲した菅野よう子さんの音楽と声優陣(ジェット役の石塚運昇さんは亡くなっているが)は、否が応でも『ビバップ』ファンの魂の最深部を耳から刺激する。

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ここには、ファンを喜ばせる愛と熱意があり、アニメ未視聴でも「気負わず見られるエンタメ」としての気楽な魅力もある。Netflixの巨大なバジェットと制作力に支えられた「究極のファンムービー」を見ているような楽しさがあった。

だが、もう少し深掘りしていくと、良くも悪くも「ファンムービー」は「ファンムービー」でしかなく、原作をアップデートし、新たな魅力を引き出すほどの「換骨奪胎」までは至っていないと感じた。

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そもそも『ビバップ』の魅力は(1998年当時から見て)、ロートルでオールドスクールなものたちを、最新アニメのクールな画作りと融合させた「混ぜるな危険」っぷりにあったと思う。

カンフーアクションやスペースオペラ、ハードボイルドにジャズといった、当時の一視聴者の自分からすると、どこか前時代的で馴染みがなかった要素が、『ビバップ』の世界の中で「一周回ってかっこいいもの」として新鮮に生まれ変わったのだ。

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じゃあ実写化したことで、それがさらに推し進められ「もう一周回って、もっとかっこよく」なったかというと、これがそんなこともない。むしろ先祖返りを起こして、ばっちり前時代的でバカバカしくなったのだ。

実写版『ビバップ』では、「ダサカッコいい」まで至らず「ダサい」に留まってしまっている、ちょっと勿体ないところが散見されるが、このB級感を楽しめるかどうかで、だいぶ受け取り方が変わってきそうだ。

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アニメ版と異なる“湿度”と人格設定

キャラクターに関しても少し書いておきたい。スパイク、ジェット、フェイの主人公3人に関しては概ね基本路線を踏襲しており、俳優陣の熱演もあって、実写ドラマの中でより魅力的に描こうという、一つのバリエーションとして十分に機能している。

ただ、アニメ版でのビバップ号のクルーの関係性は絶妙で、それぞれスネに傷あるもの同士、お互いに一線を引いた「仲間ではあるが他人」で、そこに大人の世界を感じてひどく憧れたものだった。

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個人的には、このクールネスこそが『ビバップ』の魅力だと思っているので、ややウェットになった実写版の湿度は『ビバップ』の本質から遠のいたように感じた部分ではある。

だが、それ以上にビシャスやジュリアといった準主役級キャラの変化が大きく、かなり大味でステレオタイプなキャラクターとして描かれており、そこを「海外の実写ドラマらしいバリエーション」と捉えるか、「誰だよ! ふざけんな!!」と捉えるか、意見が分かれそうだ。特に、ストーリー全体の最重要キャラクターであるジュリアの扱いは、非常に難しい。

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彼女をめぐってスパイクとビシャスの過去の因縁が繰り広げられるのだが、それゆえにジュリアはどこまでもミステリアスで、2人の男が命を賭けるのに値する魅力的なキャラクターでなくてはならないのだが……。ここに関しては、ぜひご自身の目で確かめてほしい(エドに関してもね!)。

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――というわけで長々と色々書いてきたわけだが、冒頭で挙げたような反応も覚悟のうえで『ビバップ』の実写化に挑戦し、しっかりと楽しませてくれた制作陣には感謝の拍手を送りたい。

(ここでの菅野よう子さんのBGMが、あくまで「『ビバップ』的な雰囲気作り」としての役割に終始しているのに象徴されるように)「『ビバップ』をやる」という手法=ギミックに囚われた近視眼的な部分もあるにはあるが、それもまたファンゆえの熱量と背中合わせと受け取った。

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もしもシーズン2が実現するならば、さらに自由に、ここからもう一歩進んだ『ビバップ』が見られるかもしれないという、期待(と不安)も胸に抱きつつ、今は世界中で「Tank!」が鳴り響き、『ビバップ』の話ができる状況を楽しもう。

「OK, 3 2 1 Let’s Jam!!」

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文:タカハシヒョウリ

『カウボーイビバップ』はNetflixで独占配信中

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『カウボーイビバップ』

通称“カウボーイ”と呼ばれる3人の賞金稼ぎが、それぞれ抱える過去から逃れようとアクション満載の大乱戦を繰り広げる、宇宙を舞台にした西部劇。冷酷非情で個性豊かなスパイク・スピーゲル、ジェット・ブラック、フェイ・ヴァレンタインは、はみ出し者とひねくれ者が集まった3人組。彼らは太陽系にはびこる凶悪な犯罪者を追跡し、高値の賞金を狙う。しかし、乱闘後に涼しい顔をしていられるも今のうち。それぞれの過去が忍び寄ってくる。

制作年: 2021
出演: