ピューリッツァー受賞記事をドラマ化『アンビリーバブル たった1つの真実』 性犯罪被害者の孤独な戦いと刑事バディもののケレン味

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ライター:BANGER!!! 編集部
ピューリッツァー受賞記事をドラマ化『アンビリーバブル たった1つの真実』 性犯罪被害者の孤独な戦いと刑事バディもののケレン味
Netflixリミテッドシリーズ『アンビリーバブル たった1つの真実』独占配信中

ピューリッツァー賞を受賞した捜査手記

いまNetflixでは、実話に基づく作品が続々と製作・配信されている。実際の性犯罪/誘拐事件をベースにした映画『私を信じて -リサ・マクヴェイの誘拐-』(2018年)と『ロストガールズ』(2020年)は既にBANGER!!!で紹介済みだが、今回はリミテッドシリーズ『アンビリーバブル たった1つの真実』(2019年)を取り上げたい。

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『アンビリーバブル』はトニ・コレットとメリット・ウェヴァーのW主演という、キャスティングだけで映画ファンが飛びつきそうなドラマである。本作は2008年に米ワシントン州リンウッドで発生したレイプ事件~その後の顛末を綴った記事「An Unbelievable Story of Rape」がベースになっていて、拷問のような出来事を全8エピソードにわたってじっくり描写。それらはすべて“マリー”をはじめとする被害者たちの身に実際に起ったことであり、徹底的な捜査によって犯人を追い詰めていった刑事たちの執念の記録でもある。

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ケイトリン・デヴァー熱演 背筋が凍るトラウマ描写

本作にも無能なクソ刑事が冒頭から登場して暗澹とするが、そのクソぶりを叱咤する誠意の存在としてのトニ&メリットなので、他の実話ベースものよりは若干ながら(観客にとっては)救いが感じられるだろう。しかし、レイプ被害者のトラウマ描写はすさまじい。どこか呆けてしまったような態度で警察の聴取に応じるマリーは、何度もしつこく詳細を聞かれるうちに、ショックのあまり封じ込めていたのだろう断片的な被害のディティールが立体的に立ち上がってきて取り乱してしまう。取調べ自体に問題があることは明らかだし、続く(体内からの)証拠採種の事務的な段取りはまるで刑務所のようで……。必要な手順であることは承知であっても、被害者への配慮が最低限度を下回っている現実にうんざりする。

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しかも、聴取に耐えかねて被害を撤回したマリーは虚偽の証言をした罪で起訴されてしまうのだが、弁護士いわく「普通こんなことで訴えない」らしく、ますますもってクソ刑事への怒りが爆発しそうになる。さらにマリーを演じるのが『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)で弾けまくっていたケイトリン・デヴァーなものだから、あの地味おきゃんな雰囲気を思い出すと、よりつらい気持ちになるかもしれない。だが“普通のティーン”を演じさせたら神がかり的なケイトリンと、養父母のもとを転々としてきたマリーという役柄が相まって、その過剰にあっけらかんとした態度や何気ない言動の一つ一つから目が離せなくなっていく。序盤からマリーが複雑な精神状態であろうことが推測できるように描かれてはいるものの、我々傍観者にすら一瞬「彼女は本当に襲われたのだろうか?」という疑念を抱かせてしまう、ケイトリンの熱演にはため息が漏れる。

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未熟な警察による二次加害 性犯罪被害を訴えることの難しさ

RAINN(Rape,Abuse & Incest National Network/レイプ・虐待・近親相姦全米ネットワーク)調べによると、レイプ事件4件のうち3件は(被害者側に責任のない理由によって)報告されないという。RAINNの共同設立者でもあるミュージシャンのトーリ・エイモスは90年代、自身のツアー中にコンサート会場で若い女性客から「あなたたちと一緒に行ってもいいですか? 私は今夜、帰宅したら父にレイプされます。明日の夜も 」と懇願されたそうだ。しかし、彼女が未成年だったため勝手に州外に連れ出すことができず、トーリはそのとき何もできなかったことをいまだに悔やんでいると語っている。

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トーリが助けられなかったその女性は『私を信じて』の主人公リサとまったく同じような境遇なのだが、リサは映画のなかで刑事たちに「被害状況を詳細に記憶しているのは異常」と怪しまれる。一方、本作のマリーは高圧的な聴取のせいで動揺してしまい、「最初の証言と食い違っている」と問い詰められる。つまり、何らかのルールに則って行われているはずの“取調べ”は、実際には被害者の揚げ足取りでしかなく、あわよくば泣き寝入りで幕引きにしたいという警察側の意図がミエミエなのだ。

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これらは、性犯罪サバイバーたちは犯人だけでなく警察(やゲスい野次馬など)からの二次加害とも戦わなくてはならないという、RAINNの調査結果もさもありなん……な腐った現実を突きつけられるエピソードである。

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地味だがリアルな捜査描写 刑事バディものとしてのケレン味

とにかく観ていてツラい本作、いわゆる“刑事ドラマ”らしいドンパチや激しいアクションも皆無なのに、それでも全8エピソードをイッキ観してしまう理由は、ピューリッツァー賞を受賞した記事を原案としたリアルさと、グレース&カレン(トニ&メリット)による捜査パートの素晴らしさによるところが大きい。

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捜査パートは、マリーの被害から3年後の2011年から始まる。近隣エリアで発生した事件を担当することになったカレンが、別の署に勤める夫の同僚であるグレース刑事が追っている事件との共通項を見出すところからぐいぐい回りはじめるのだが、彼女たちの文字どおり虱潰し(しらみつぶし)な捜査には「これが本来の刑事の姿だよ!」と思わず握り拳に力が入る。

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物語はマリー視点とグレース&カレン視点の2軸で展開するが、双方の事件が簡単には交わらないところも性犯罪捜査の難しさを表していて、ヤキモキさせられつつ地味なリアルさに燃える。カスタムカーを駆るワイルド系のグレース(ビール派)と、敬虔なクリスチャンで真面目タイプのカレン(ワイン派)という2人のギャップはバディものとしてのケレン味があり、かつメイン登場人物すべてに見せ場(個性を発揮するポイント)があるのも気が利いている。警察組織内にはびこる暴力的な因子も根深く深刻な問題として描かれるが、これは有色人種への過剰な制圧行為など、性犯罪以外にも大きく絡んでくるところだろう。

Netflixリミテッドシリーズ『アンビリーバブル たった1つの真実』独占配信中

思わず(いい意味で)放心状態になるクライマックスからの、少しだけ爽やかな後味を残す締めくくりまで、ビタイチ隙のない完璧なドラマシリーズ『アンビリーバブル たった1つの真実』。その他のキャストとしては、マリーの養母の一人コリーンを演じるブリジット・エヴァレットと、カレンが担当した事件の被害者アンバーを演じるダニエル・マクドナルドにも注目したい。

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二人は冴えない女子のラップ下剋上映画『パティ・ケイク$』(2017年)の親子役が記憶に新しいが、本作ではかなり重要な役どころで物語に奥行きを与えている。映画よりもドラマシリーズのほうが豪華キャストというのは配信全盛の今っぽい話ではあるが……。とにかく、いま観ておくべきドラマシリーズとして即鑑賞、もしくはマイリストに入れてほしい作品だ。

Netflixリミテッドシリーズ『アンビリーバブル たった1つの真実』独占配信中

『アンビリーバブル たった1つの真実』はNetflixで独占配信中

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『アンビリーバブル たった1つの真実』

若い女性によるレイプ被害の訴えを作り話として片付ける警察。だが数年後、酷似した手口の事件が続き、2人の女刑事が捜査に乗り出す。実話に着想を得たシリーズ。

制作年: 2019
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • ドラマ
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