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潜水艦乗組員は魚雷を「ウナギ」と呼んでいた!?『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』をメカ目線で解説!

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ライター:#大久保義信
潜水艦乗組員は魚雷を「ウナギ」と呼んでいた!?『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』をメカ目線で解説!
『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』©BAVARIA FICTION. ALL RIGHTS RESERVED

潜水艦という密室空間がサスペンス展開を盛り上げる!?

シリーズ中盤以降の『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』(2018年~)は、潜水艦戦争映画というより、潜水艦という密閉空間のなかでのサスペンス・ドラマとなっていきます。もうひとつの舞台であるドイツ占領下フランスにおける人間ドラマも佳境に入ってきますが、独裁体制、とくに戦時下の独裁体制に組み込まれてしまった人々にとって、その閉塞感は“密閉空間”のようなものと言えます。

『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』©BAVARIA FICTION. ALL RIGHTS RESERVED

このTVシリーズは、逃げ場のない空間に閉じ込められた人々が感情の激しい起伏に捉われた挙げ句の愛憎劇――とも解することができるのではないでしょうか。そういえば、巨大宇宙移民船を舞台にしたSFホラー『パンドラム』(2009年のドイツ・アメリカ映画)の監督もクリスチャン・アルヴァートというドイツ人で、う~ん、この種のネタが好きなのでしょうか、ドイツ人は?

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閑話休題。というワケで今回も、ストーリー展開やキャラクターについては書けないのです。再び、申し訳ありません。そこで今回も潜水艦をメカ的に語ってみたいと思います。

機雷と魚雷

水上艦艇が海中を逃げる潜水艦を攻撃する主な手段が、機雷です。例の、Uボートの周囲でグワングワンと爆発して艦内を激しく揺さ振る、あの描写のやつですね。これは爆薬を充填した容器を投下または投射して爆発させ、その爆圧/衝撃波で潜水艦の船体を破壊するものです。見逃してはならないのは、機雷の破壊力は爆圧だけでなく、爆発バブル空間が消失する際に船体に対する吸引力のようなものも働くことです。爆圧で“押し叩かれた”船体は、次の瞬間に“引き叩かれ”、破壊が進行するのです。これを「バブル・パルス・エフェクト」と呼んだりもします。

『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』©BAVARIA FICTION. ALL RIGHTS RESERVED

初期の機雷はドラム缶状でしたが、なるべく早く真っすぐ沈降するように航空爆弾のような形状のものも使用されるようになりました。機雷の爆発は、ほとんどが水圧を感知して爆発する水圧信管によるものです。なので、水上艦艇が沈没する状況になった場合は機雷から信管を抜き捨てる必要があります。というのも、信管を付けたままの機雷が艦艇と共に沈むと設定深度で爆発し、その衝撃波が海上を漂う乗員を襲うからで、事実、多数の乗員が内臓破裂や脳震盪で犠牲になっています。例えば『怒りの海』(1953年)のような良くできた海戦映画では、沈没前に機雷から信管を抜き捨てる作業が描写されています。

一方、潜水艦の主要兵装が魚雷です。第二次世界大戦期の魚雷には、内蔵の空気タンクと燃料でエンジンを動かしスクリューを回して推進する空気式(熱走式)と、バッテリーと電気モーターでスクリューを回す電池式の二種類がありました。

空気式は馬力はあるものの、排気ガスを海中に放出するので白い航跡が大きくなるという短所があります。電池式は航跡はほとんど出ないのですが、艦内での蓄電池の保守管理が面倒、速度および射程に劣るという短所があります。空気式は、普通空気を酸素に置き換えることで航跡をほとんどなくし、かつ劇的な性能向上を実現したのが日本海軍の酸素魚雷だという事実は押さえておきたいポイントです。実戦ではあまり活躍しなかったという結果も含めて、ね。

『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』©BAVARIA FICTION. ALL RIGHTS RESERVED

さて、ドイツ海軍は大量生産の便を図って電池式を多用しましたが、いずれにせよ精密メカニズムの塊である魚雷は高価で、当時は“1本で庶民向け住宅1軒分”などと言われていました。なので状況が許すならば、魚雷でなく搭載砲(口径88ミリや105ミリ)で砲撃して輸送船を沈めることもあって、当時の各国潜水艦が大砲を装備しているのはそのためなのです。

ちなみにUボート乗員は魚雷のことを「ウナギ」と呼んだりしていたそうです。魚雷は保守/運用のために表面にグリースを塗る必要があって、ヌルヌルした円筒形の細長いヤツ……まぁたしかにウナギですよね……。

『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』©BAVARIA FICTION. ALL RIGHTS RESERVED

実在したU612

ドイツ潜水艦Uボートの「U◯◯」というのは番号による艦名、つまり固有名詞です。そこで「U612」という名のUボートはあるのかな? とリストを確認してみたら、ありました! そして実在したU612、ちょっと興味深い経歴の持ち主なんです。

『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』©BAVARIA FICTION. ALL RIGHTS RESERVED

1942年春にドイツ海軍に引き渡されたU612ですが、バルト海で試験航海中の8月6日にU444と衝突して沈没しているのです。引き揚げられて復帰したものの、どこか具合が悪かったのか、練習潜水艦として使用され、そしてドイツ敗戦直前の1945年5月2日にヴァーネミュンデ港沖で自沈しています。自沈とは、乗員たちが艦底弁を開くなどして沈めることで、もちろん沈む前に乗員と艦長は脱出します。

U612は練習潜水艦編成から引き抜かれて1943年に秘密任務に就き、帰還後に改めて練習潜水艦に戻された――そんな空想の翼を広げて楽しめる、遊び心あふれる設定と言えるでしょう。

『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』©BAVARIA FICTION. ALL RIGHTS RESERVED

文:大久保義信

『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年9月放送

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『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』

1942年のドイツ占領下の港町ラロシェルに、ドイツ海軍の通訳シモーヌが到着する。そこで弟のフランクと再会するものの、フランクは新しいUボートであるU612の乗組員となって、狭い艦内で戦争の恐怖と直面することに。一方、シモーヌは、反ドイツのレジスタンスにのめりこんでいき、その心はフランスとドイツの間で次第に引き裂かれる。

制作年: 2018
監督:
出演: