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こんな贅沢な戦車戦映画があっていいのか⁉ T-34-76対Ⅲ号戦車、T-34-85対パンターが描かれる『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』

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ライター:#大久保義信
こんな贅沢な戦車戦映画があっていいのか⁉ T-34-76対Ⅲ号戦車、T-34-85対パンターが描かれる『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』
『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』© Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018

二段仕掛けの戦車対決!

独ソ戦(第二次世界大戦)を舞台に、4名のソ連兵捕虜がT-34戦車を駆って収容所からの脱走を図る『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2018年)は、ソ連の戦車将校イヴシュキンとドイツの戦車将校イェーガーの宿命的な対決の物語とも言えるでしょう。

『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』© Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018

二人の戦いは2つのステージで繰り広げられるんですが、その設定が良くできてるうえに楽しい! 最初の対決は、1941年の11月末。ドイツ軍がモスクワに迫っていた時。そこでT-34-76を指揮するイヴュシュキンと、Ⅲ号戦車長砲身型を指揮するイェーガーがバトルするわけです。

二度目(最後)の対決は、1944年のおそらく秋。史実ではソ連軍の大攻勢にドイツ軍が敗退を続けていた頃ですね。ここではT-34-85で脱走を図るイヴュシュキンと、V号戦車パンターで追うイェーガーという構図。

『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』© Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018

1本の映画で、T-34-76対Ⅲ号戦車と、T-34-85対パンターの2種類が描かれる、それも時代背景を生かして! こんな贅沢な映画が他にあるでしょうか(笑)。

ドイツ戦車というとⅥ号重戦車ティーガーが有名ですが、パンターを出すところもナイスです。撮影に使われたパンターは、戦後、ソ連の主力戦車であるT-55を改造して作ったもののようです。なかなかの再現度なんですが、A型後期型とG型の初期型および後期型の特徴が交じってるのが、惜しいところ。

『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』© Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018

ちなみに、第一ラウンドに登場するⅢ号戦車は50㎜60口径砲型、つまりJ型後期型ないしL型で、時期的にちょっとだけ早いんですが、こだわらずに吊された腿肉などの細かい描写を楽しみましょう。

戦車に乗り込むとは、“機械と機械の間に潜り込む”こと!

『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』が素晴らしいのは、モスクワ攻防戦で史実通りにT-34-76の初期型(砲塔ハッチ1枚型)が登場すること。大戦中に約3万5000両が生産されたT-34-76ですが、独ソ戦で消耗してしまい、ほとんど残っていないんです。

『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』© Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018

そしてなにより、戦車内部は狭い(とくにソ連戦車は)という事実を、映画的な躍動感をもって見事に表現していること! そもそもT-34は要求性能実現のため、車体&砲塔のサイズはギリギリまで切り詰められていました。とくに砲塔は“大砲と装甲の間に人間を押し込む”ような有り様です。僕は実戦状態(燃料弾薬満載)のT-55に乗り込んだことがありますが、まさに“機械と機械の間に潜り込む”感じで「これで戦うのは尋常じゃない」と思ったものです。

『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』© Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018

映画では、そんな空間に押し込められ汗と油で汚れた男たちが命令を怒鳴り(怒鳴られ)、レバーを押したり引いたりし、砲弾を装填、発射ペダルを踏み込んで発砲、というシークエンスがガッツリと描写されています。

特に、主砲の右側に位置する装填手の動きに注目してください。主砲弾薬箱が戦闘室床面に置かれているせいもあって、彼の作業空間は高さ150㎝もありません。そこで身を屈曲させての装填作業、そして発砲の瞬間に両腕を抱くようにして後座する閉鎖機をかわす仕草は、実車を使用しての撮影ならではと言えましょう。強力に後座/復座する閉鎖機にぶつかって砲塔内乗員がケガする事故は、古今東西、あるのです。

『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』© Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018

多数のT-34-76がドイツに撃破された理由、外が……見えない!

ただT-34-76の短所のひとつである、「外部視察装置が貧弱かつ戦闘中は観察する時間もない」は映画の構成上、表現されていません。

Ⅲ号戦車以降のドイツ戦車の砲塔には車長・砲手・装填手、の3名が乗り込んでいました。そのおかげで車長は、周囲観察や味方との通信、自車乗員への指揮に専念できました。一方、T-34-76では車長兼砲手・装填手、の2名でした(※車体に操縦手・無線手兼車体機銃手の2名が配置されるのは、同じ)。そのためT-34-76の車長は、自分で照準している間は周囲を観察することができず、また自車乗員への指揮も疎かになってしまうのです。

『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』© Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018

史実では、この欠点をドイツ戦車に突かれてまわり込まれ、多数のT-34-76が撃破されています。劇中のイヴシュキンは「なんでアナタは、そんなに外の様子が分かるんですか」と問いたくなるほど“見えて”いますが、そこは演出ということで。

それよりも、砲弾が命中した時の強烈な音と衝撃描写を、劇場で堪能しようではありませんか。実際に、戦車でも戦艦でも被弾の衝撃は(たとえ装甲で跳ね返したとしても)、時には乗員が失神するほどに強烈なのです。さらに運動エネルギーが熱エネルギーに変換されるため、貫通弾や装甲破片は赤熱化、あるいは溶融化してしまいます。

『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』© Mars Media Entertainment, Amedia, Russia One, Trite Studio 2018

このように『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』は、メカ的なリアル要素とエンタメ要素が巧みに融合された活劇となっているのです。

『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』はCS映画専門チャンネルムービープラスで2021年12月放送

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