少女は史実を超え伝説となる!『カラミティ』は史上初の女性ガンマン誕生譚!! アヌシー映画祭グランプリ受賞

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ライター:増田弘道
少女は史実を超え伝説となる!『カラミティ』は史上初の女性ガンマン誕生譚!! アヌシー映画祭グランプリ受賞
『カラミティ』©2020 Maybe Movies ,Norlum ,2 Minutes ,France 3 Cinema

遅咲きのアニメ監督

『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』(2015年)を最初に見たときは驚いた。違和感にも似たその驚きの理由は、顔に輪郭線がなかったからかもしれない。日本の手描きアニメ風でもなく、ディズニーのフル・アニメーションでもなく、3DCGアニメーションでもない新しい表現がそこにあった。

監督のレミ・シャイエは長年、絵コンテ、レイアウト、特殊効果アーティストとして、あのドン・ムーアの『ブレンダンとケルズの秘密』(2009年)などに参加し、50歳を間近に控えて監督デビューを果たした。おそらく、彼にとっても輪郭線を持たないキャラクターへの挑戦は大きな冒険だったことだろうが、日本のアニメやハリウッドのCGアニメーションを見馴れている感覚だと、のっぺりとした色面にとまどいを感じるものの、行方不明になった祖父を探しに一人北極を目指して旅立つ14歳の少女のストーリーに引き込まれて、すぐにそれを忘れてしまった。そう、独特の表現以上にストーリーに引き込まれたのである。

格段の進歩を見せた『カラミティ』

そして、その『ロング・ウェイ・ノース』の監督が、また興味深い作品を投げかけてきたのである。それが本作『カラミティ』であるが、なんと意表を突く西部開拓時代のアメリカが舞台。フランス生まれの監督がなぜ西部劇なのかと一瞬思ったが、ハリウッド映画中心のアカデミー賞以外で一番の権威を持つアヌシー国際アニメーション映画祭クリスタル賞(2020年グランプリ)を受賞したところからも分かるように、それに十分値する作品となっている。特に格段の進歩を見せた風景はまるで印象派の絵画のような趣であった。さすがにフランス出身の監督、その辺りの戦略は最初から狙っていたようだ。

伝説の女ガンマン、カラミティ・ジェーン

聞き慣れない「Calamity(カラミティ)」という言葉は「疫病神」といった意味だが、この映画では西部開拓史に登場する伝説の女ガンマン、「平原の女王」と呼ばれたカラミティ・ジェーン(本名:マーサ・ジェーン・カナリー)の呼び名である。本作は、そのカラミティ・ジェーンをモデルとした史実とフィクションが融合した、彼女の少女時代のストーリーである。そこに登場するマーサは今より遙かに男女の規範が厳しかった時代において、当時の女性としてはあり得ないような、髪を切ってジーンズを履くような男勝りの少女であり、出る杭どころか“出すぎた杭”となった存在を、周りは「カラミティ(やっかいもの)」と呼ぶようになったのである。

『カラミティ』©2020 Maybe Movies ,Norlum ,2 Minutes ,France 3 Cinema

十代でハンターとなったジェーンは、軍人の制服を身につけ斥候として働きはじめ、いくつものインディアンとの闘いに参加した。その過程でカラミティ・ジェーンの名前を広め、南軍のカスター将軍に同行し、後に伝説的ガンマン、ワイルド・ビル・ヒコックと結婚するといった行跡で有名となったが、実は彼女には虚言癖の傾向があったようで(本人は真実と思っていたのかもしれないが)、実際はそれほどでもなかったとの証言もある。そのエピソードを踏まえて、少女マーサが周囲の人間に対して身振り手振りで説明する様子が作品中で描かれている。

『カラミティ』©2020 Maybe Movies ,Norlum ,2 Minutes ,France 3 Cinema

日本でも知られていたカラミティ・ジェーンのキャラクター

実はこのカラミティ・ジェーン、小説の主人公として登場するばかりではなく、映画のヒロインにもなっている。巨匠セシル・B・デミル監督の『平原児』(1936年)ではジーン・アーサーが演じ、日本の喜劇人にも大きな影響を与えたボブ・ホープの『腰抜け二挺拳銃』(1948年)ではジェーン・ラッセルが政府の密命を受けた主人公の歯医者と偽装結婚するヒロインとして登場、ドリス・デイが踊って唄ったミュージカル『カラミティ・ジェーン』(1953年)、ワイルド・ビル・ヒコックを描いたウォルター・ヒル監督作『ワイルド・ビル』(1995年)では、かつてビルを愛した女としてエレン・バーキンが演じている。

さらに面白いのは、ゲームにも登場していることだ。プレイステーションの「ワイルドアームズ」や、セガの「ソウルリバース ゼロ」、そしてあのアニプレックスの「Fate/Grand Order」のサーヴァントといった具合に、日本のゲームに度々姿を現わしている。上の世代には映画で、下の世代にはゲームでジェーンのキャラクターに親しむ機会があったのである。

 

先を行く女性として描かれたカラミティ・ジェーン

映画に登場するジェーンは、女であるべき時代に男勝りの女性ガンマンがいた視点で捉えられている。しかし、本作でのジェーンは12歳にして、男女の区別なく自分の手で自由をつかみ取る勇気ある人間として描かれている。それゆえ、周囲との不一致を何度も引き起こし、「Calamity=やっかいもの」と呼ばれるようになるのだが、ジェーンはそれにめげず、さらに“出すぎた杭”になっていく。

『カラミティ』©2020 Maybe Movies ,Norlum ,2 Minutes ,France 3 Cinema

躊躇なく自分が思うままに一直線に進んでいく姿は宮崎アニメの少女主人公に相通じるものがあるが、それは現代が女性の時代であるということを示唆しているのであろう。レミ・シャイエ監督は多分にフィクションを交えながら、この作品を過去にあった珍しい歴史譚としてではなく、現代を生きる女性を描くドラマへと換骨奪胎したのである。

『カラミティ』©2020 Maybe Movies ,Norlum ,2 Minutes ,France 3 Cinema

文:増田弘道

『カラミティ』は2021年9月23日(木・祝)より新宿バルト9ほか全国順次公開

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『カラミティ』

『カラミティ』は西部開拓史上、初の女性ガンマンと知られるマーサ・ジェーン・キャナリーの子供時代(12歳)の物語。マーサは家族とともに大規模なコンボイ(旅団)で西に向かう旅の途中、父親が暴れ馬で負傷し、マーサが家長として幼い兄弟を含め、家族を守らなければならない立場になってしまう。普通の少女であったマーサは、乗馬も、馬車の運転も経験がなかった。そんなマーサは、少女であることの制約に苛立ち、家族の世話をする義務をよりよく果たすために少年として服を着ることを決心する。女性は女性らしくという時代にあって、マーサの生き方は、古い慣習を大事にする旅団の面々と軋轢を生む。更にマーサを野獣からの危険から救ってくれた中尉をコンボイに引き入れたことで、盗みの共犯の疑いまでかけられてしまい……。

制作年: 2020
監督:
声の出演:
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