季節は春。冬の間に蓄えていたエネルギーを外へと発散し、何か新しいことを始めたくなる……そんな衝動に駆られている方も多いのではないでしょうか。そんな今の時期、スクリーンの中で磨き上げられた「筋肉美」に触れることで、心に火を灯してみるのはいかがでしょう?
筋肉を愛でる映画といえば、アーノルド・シュワルツェネッガーやシルベスター・スタローンといった巨星たちの作品が真っ先に浮かびます。しかし、彼らが築き上げた肉体はもはや「殿堂入り」の神域。そう簡単に触れるわけにはいきません。そこで今回は、彼らレジェンドたちの系譜を受け継ぎながらも、作品ごとに異なる質感の美しさを放つ5作品を選んでみました。
徹底した食事管理とハードなトレーニングによって作り込まれた、彫刻のような筋肉の数々。そこには、役を生き抜こうとする俳優たちの凄まじい執念が宿っています。読み終える頃には、あなたの心の中にある「変わりたい」という意欲が、静かに、けれど熱く燃え上がっているかもしれません。
筋肉で語る。
『ファイト・クラブ』(1999年)
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:エドワード・ノートン、ブラッド・ピット、ヘレナ・ボナム・カーター ほか
【あらすじ】
自動車会社に勤めるエグゼクティブの「僕」は、不眠症に悩まされる空虚な日々を送っていました。高級家具で飾られた部屋に住み、物質的な豊かさを手に入れながらも、魂の飢えは満たされません。そんなある日、彼はタイラー・ダーデンという謎の男と出会い、導かれるままに鍛え抜かれた男達が己の拳のみを武器に闘いを繰り広げる秘密組織「ファイト・クラブ」を設立します。しかし、その組織は暴走を始め……。
【おすすめポイント】
本作の「筋肉ポイント」は、タイラー・ダーデンを演じたブラッド・ピットの、極限まで絞り込まれた肉体美です。ボディビルダーのような巨大なバルクではなく、余分な脂肪を一切削ぎ落とし、一つひとつの筋肉が浮き出るような「細マッチョ」の極致。そのしなやかで危険な香りのする体つきに、思わず身震いがします。デヴィッド・フィンチャー監督による退廃的でスタイリッシュな映像が、その筋肉の陰影をよりドラマチックに際立たせ、単に強そうであるだけでなく、文明社会への反抗を体現するかのようです。
『300 <スリーハンドレッド>』(2007年)
監督:ザック・スナイダー
出演:ジェラルド・バトラー、レナ・ヘディ、デヴィッド・ウェンハム ほか
【あらすじ】
紀元前480年。強大な勢力を誇るペルシア帝国が、戦士の国スパルタに服従を迫ります。スパルタ王レオニダスはその要求を毅然と拒絶し、わずか300人の精鋭と共に、100万を超えるペルシアの大軍を迎え撃つことを決意します。決戦の地は、峻険な崖に囲まれた狭い道。レオニダス率いる戦士たちは、圧倒的な数的不利を覆すべく、鋼の肉体と強靭な意志を武器に、熾烈極まる死闘に身を投じていくのですが……。
【おすすめポイント】
本作の「筋肉ポイント」は、レオニダス王を演じたジェラルド・バトラーをはじめとする、スパルタ戦士たちの彫刻のような腹筋です。ザック・スナイダー監督によるグラフィカルな映像美によって強調されたその肉体は、あまりの見事さに公開当時「CGではないか」という疑惑が浮上したほどでした。しかし実際には、俳優たちが過酷なトレーニングを経て手に入れた、本物の努力の結晶です。盾を構え、槍を振るうたびに躍動する背筋や大胸筋の迫力。そこには、自由のために死を厭わない男たちの気高さが宿っています。
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年)
監督:ダグ・ライマン
出演:トム・クルーズ、エミリー・ブラント、ビル・パクストン ほか
【あらすじ】
謎の侵略者“ギタイ”によって滅亡の危機に瀕した地球。実戦経験ゼロの広報官ケイジ少佐は、司令官の怒りを買い、最前線へと送り出されます。戦場であっけなく命を落とした彼でしたが、次の瞬間、彼は出撃前日の基地で目を覚まします。死ぬたびに同じ時間を繰り返す「タイムループ」に囚われた彼は、戦死を繰り返す中で少しずつ戦闘スキルを磨いていきます。そして、最強の女戦士リタに出会い、彼女の指導のもとで人類最後の希望となるべく特訓に励むのですが……。
【おすすめポイント】
トム・クルーズのストイックな姿もさることながら、本作の「筋肉ポイント」は、最強の女戦士リタを演じたエミリー・ブラントの、機能的で美しい腕と肩の筋肉です。特に、トレーニング中に腕立て伏せから体を持ち上げる瞬間の、しなやかに鍛え上げられた上半身のラインは、印象的な名場面といえます。巨大な機動スーツを自在に操るための、説得力ある肉体作り。それは、単に着飾るための筋肉ではなく、生き残るために研ぎ澄まされた「武器」としての美しさです。
『キングダム』(2019年)
監督:佐藤信介
出演:山﨑賢人、吉沢亮、長澤まさみ ほか
【あらすじ】
紀元前245年、春秋戦国時代の秦。戦災孤児の信は、親友・漂と天下の大将軍になることを夢みて剣術の鍛練に励んでいました。そんなある日、漂は召し上げられて王宮へ入ることになり、信と漂はそれぞれ別の道を歩むこととなります。ところが、王宮では若き王・エイ政の弟・成キョウがクーデターを起こし、その混乱の中で漂は命を落とします。漂がエイ政の身代わりになったことを知り、憤りを覚える信でしたが、エイ政の中華統一という壮大な夢に共鳴し……。
【おすすめポイント】
日本映画の枠を超えたスケールで描かれる「筋肉ポイント」は、圧倒的な存在感を放っている秦の大将軍・王騎(おうき)を演じた大沢たかおの巨大な二の腕です。原作ファンも驚愕したその役作りは、体重を十数キロ増量し、数ヶ月かけて徹底的に体を大きくするという、まさにプロフェッショナルの矜持を感じさせるものです。分厚い鎧の上からでもはっきりとわかる、丸太のような腕の太さ。それが、伝説の大将軍としての説得力を見事に生み出しています。山﨑賢人演じる信の若々しく俊敏な肉体との対比も素晴らしく、一人の男が積み重ねてきた経験の重みが、その肉体のバルクによって語られているかのようです。
『デッドプール&ウルヴァリン』(2024年)
監督:ショーン・レヴィ
出演:ライアン・レイノルズ、ヒュー・ジャックマン、エマ・コリン ほか
【あらすじ】
愛する人々と平穏な生活を送ろうとしていた元暗殺者、ウェイド・ウィルソン(デッドプール)。しかし、ある危機から世界を救うため、彼は再びスーツを身に纏います。そこで彼が助けを求めたのは、別の世界線で失意の底にいた、粗暴で孤独なヒーロー、ウルヴァリンでした。反目し合い、時に激しくぶつかり合う「無責任ヒーロー」と「不老不死の爪男」。そんな対照的な二人が、運命を共にし、強大な敵に立ち向かうことになるのですが……。
【おすすめポイント】
衝撃の「筋肉ポイント」は、カムバックを果たしたヒュー・ジャックマン(ウルヴァリン)の、50代半ばとは思えない完成された大胸筋とシックスパックです。長年この役を演じてきた彼が、過去最高ともいえるコンディションでスクリーンに現れた瞬間、世界中のファンが息を呑みました。隣に並ぶライアン・レイノルズ(デッドプール)も非常に優れた肉体の持ち主ですが、二人が並び、スーツを脱ぎ捨てるシーンで放たれる野性的なエネルギーは圧巻です。年齢を言い訳にせず、常に最高の自分を更新し続ける彼らの姿勢。その筋肉は、単なるビジュアル以上の、俳優としての誠実さと情熱を物語っているのかもしれません。