小児性犯罪と構造的な社会問題
ニュース番組や新聞・WEBメディアで、小児性犯罪者の検挙や逮捕の報道を毎日のように目にする。警察庁の統計によれば、2023年に18歳未満の子どもが被害に遭った性犯罪の検挙件数は4,850件に上り、日本財団の報告では「1日推定1,000件以上」の性被害が発生しているという。
また、若年層(16~24歳)のうち約26.4%が何らかの性暴力被害に遭っているという調査結果もあり、ネット普及以降は二次、三次被害も深刻化している。“見知らぬ誰か”から受けるだけではない、家庭内や教育現場での加害も含め、長らく続く日本社会の構造的問題とも言えるだろう。
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ブラジルで起こった悲劇「15歳少女人質事件」
Netflixで独占配信中のドキュメンタリー『メディア暴走を許したのは誰なのか エロア・ピメンテル人質事件』は、ブラジルで起きた少女誘拐・人質事件を通じて、若年層への暴力とメディアの倫理を問い直す作品となっている。
2008年10月13日、ブラジル・サンパウロ州サント・アンドレ市の集合住宅で、15歳の少女エロア・クリスティーナ・ピメンテルが元交際相手のリンドンベルグ・アルヴェス(22歳)によって監禁された。彼は交際の解消を受け入れられず、エロアとその友人ナヤラ・ロドリゲスらを人質に取り、100時間以上にわたる立てこもり事件を起こした。
事件はブラジル全土で生中継され、リンドンベルグはテレビのインタビューに応じるなど、異常なメディア介入が展開された。警察の交渉は難航し、最終的に突入が行われたが、エロアはリンドンベルグが放った銃弾により死亡。ナヤラは顔面を撃たれ負傷したものの生還した。
司法と社会の反応~責任と記憶
リンドンベルグは殺人、監禁、武器不法所持などの罪で合計98年の懲役刑を言い渡されたが、のちに大幅に減刑された。事件後、エロアの家族は警察の対応に過失があったとして州に800万レアルの損害賠償を求めたが、サンパウロ州高等裁判所はこれを棄却している。
エロアの死とその後の顛末に納得できない部分は多いものの、臓器提供によって他者の命を救う結果にもつながった。心臓を移植された女性マリア・アウグスタさんは「彼女の命が私の中で生きている」と語っている(※後年、コロナ禍で死去)。
Netflix『エロア・ピメンテル人質事件』とその教訓
『メディア暴走を許したのは誰なのか エロア・ピメンテル人質事件』は、事件の異常性とメディアの過剰報道を批判的に描いている。その内容については、「事件の発端にある年齢差(12歳の少女に20歳の男性が接近した事実)が十分に掘り下げられていない」という指摘もある。
また、「人質交渉が視聴率のためのコンテンツになった」と、事件の“メディア化”が社会の病理を映し出しているいう評も散見される。若者が暴力の犠牲になる事件は後を絶たないが、ともあれ報道の倫理、司法の限界、そして社会の無関心を問い直す作品であることは間違いない。
日本でも、人権の軽視(権利への無知)や過激な性的コンテンツの無邪気な消費、蔓延などが大きく取り沙汰されて……いないことが、海外でも驚きと失望をもって認識されつつある。とくに小児性犯罪への対策も罰則も「甘すぎる」と言われるだけに、“傍観者”にならないための意識改革が必要ではないだろうか。