エビ型エイリアンがキモかわいい! “らしさ”の詰まった初SF長編『第9地区』
ニール・ブロムカンプ監督と聞いて、多くの映画ファンの思い浮かべる作品が『第9地区』(2009年)だろう。公開当時は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソン製作総指揮で話題になっていたが、ド新人だったブロムカンプ監督の名を世に知らしめる結果に。無名監督の初長編作にも関わらず世界各国の映画賞を受賞した本作は、第82回アカデミー賞で作品賞ほか3部門にノミネートという高い評価を得ている。
そんな本作の魅力といえば、昆虫系エイリアンの禍々しさとリアルな生活感、ギミック感あふれるメカメカしいSFデザイン。そして遺伝子の暴走によって徐々にエイリアン化していく人間の恐怖と哀しさ、可笑しみなど、その後のブロムカンプ路線を決定づける近未来SF大作となっている。
マット・デイモンが貧富の差に苦しむ民衆たちを救うディストピアSF『エリジウム』
『エリジウム』(2013年)の舞台は、富裕層と貧民層の住環境がスペースコロニー〈エリジウム〉と地球に二分化された近未来。地球に住む平凡な青年マックス(マット・デイモン)は、とある事故で余命僅か5日と宣告されてしまう。はじめは自身の病を治すための行動を起こすが、やがて貧富の差に苦しむ民衆を救うべく決死のミッションに挑むことになる。
キャストにはマット・デイモンのほか、宇宙ステーションに暮らす富裕層をオスカー女優のジョディ・フォスターが演じており、なかなか珍しい悪役フォスターのレアな演技を観ることができる。また、本作では『第9地区』で主人公を演じていたシャールト・コプリーが冷酷なヴィランとして登場。日本刀や爆発する手裏剣などを操る、ブロムカンプ監督のオタク心が詰まったキャラクター像にも要注目だ。
ストリートギャングに育てられたロボットの成長物語『チャッピー』
長編映画3作目の『チャッピー』(2015年)は、人工知能を搭載したロボットであるチャッピーが、残り5日間分のエネルギー残量しかない中で、ストリートギャングや開発者の人間たちとのふれあいの中で成長していく姿を描いたSFブラック・コメディ。近未来SFの世界観を、今も実際に起こっているリアルな実情とミックスして描く監督の技量が際立つ作品となった。
『X-MEN』シリーズのウルヴァリン役でお馴染みのヒュー・ジャックマンが敵役を、さらに『エイリアン』シリーズの主人公リプリーを演じたシガニ―・ウィーバーが軍事ロボットを開発する企業経営者を演じており、往年のSF・アメコミファンにとってはたまらないキャスティングとなっている。また、シャールト・コプリーは本作でも主人公チャッピーの声とモーションキャプチャを担当。このようにブロムカンプ監督作は、たびたび他作品への出演で知られるキャストが参加することも大きな魅力の一つだ。
映画以外のドラマやショートフィルム作品にも注目
実はブロムカンプ監督は、長編映画以外にもドラマや短編作品に携わっている。2000年10月~2002年までテレビ放送されたジェシカ・アルバ主演のダークファンタジードラマ『ダークエンジェル』ではリードアニメーターを務めており、VFX畑出身ならではの多才ぶりを披露している。
また、2016年発表の〈BMW〉のショートフィルム『THE ESCAPE』はド派手なカーアクションを盛り込んだスリリングな作品になっており、『グランツーリスモ』の予習としても最適。主人公のドライバー役をクライヴ・オーウェンが務めるほか、ダコタ・ファニングやジョン・バーンサル、ヴェラ・ファーミガなど錚々たる面々が出演している。なお、過去のBMWショートフィルムシリーズはデヴィッド・フィンチャーやリドリー・スコットなどが監督を務めており、この作品によって名だたる名監督たちと肩を並べることとなった。