9・11同時多発テロ被害者の衝撃的なエピソード 『ワース 命の値段』はどこまでリアルなのか?

9・11同時多発テロ被害者の衝撃的なエピソード 『ワース 命の値段』はどこまでリアルなのか?
『ワース 命の値段』© 2020 WILW Holdings LLC. All Rights Reserved.

あなたの人生はいくらですか—?

全国公開中のマイケル・キートン主演映画『ワース 命の値段』は、9.11という歴史的な事件をテーマを描いたことから、そのリアリティが観客の間で話題を呼んでいる。9.11テロ後、被害者遺族を救うために“命に値段をつけた”ケネス・ファインバーグ弁護士。鑑賞後は、そのドラマティックで壮絶な物語に「どこまでがリアルなのか…?」と思う方も多いはず。そんな疑問にお答えすべく、映画の真実について徹底検証した結果を紹介する。

本作は、『バットマン』の名優マイケル・キートンが、アカデミー賞受賞『スポットライト 世紀のスクープ』製作陣と再びタッグを組み、プロデューサーにも名乗りを上げて挑んだ作品。9.11同時多発テロ後、約7000人もの被害者と遺族に補償金を分配するプロジェクトに任命された弁護士がいた。究極の難題「“命の値段”をどうやって算出するのか?」と向き合った人々の、知られざる感動の実話だ。

『ワース 命の値段』© 2020 WILW Holdings LLC. All Rights Reserved.

どこまで実話でフィクションか?

1)9. 11同時多発テロ発生時、ファインバーグ弁護士は…
本作では、列車で移動しているファインバーグ弁護士が、飛行機が世界貿易センタービルに激突するのを車内から目の当たりにする。しかし、実際はペンシルべニア大学で授業後、共用スペースのテレビでテロの様子を報じられているのを見て知ったのだという。

2)「9.11補償基金プログラム」を無償で引き受けた
映画と同様、ファインバーグ弁護士は「9.11補償基金プログラム」を無償で引き受けた。国のために貢献したいと思ったこと、また、有償であると被害者からの反感を買う恐れがあったためだったたという。映画と異なるのは、ファインバーグ弁護士は依頼されたのではなく、自ら担当したいと名乗り上げたこと。ファインバーグ弁護士は、当時ネブラスカ州の共和党上院議員であったベトナム帰還兵のチャック・ヘーゲルに、ジョン・アシュクロフト司法長官を紹介してくれないかと依頼した。その後、アシュクロフトはファインバーグ弁護士を9.11補償基金プログラムの特別責任者に任命したという。

3)リアルな被害者のエピソード
被害者たちはプライバシーに配慮しながらも、入念なリサーチに基づき忠実に描かれている。テロで最愛の妻を亡くしたチャールズ・ウルフ、消防士の夫を亡くしたカレン・ドナート、州法に基づき補償金を受け取れなかった同性愛者のパートナー、不法移民の遺族、夫を亡くし補償金の早期受給を訴えた末期ガンの女性のエピソードは、いずれも事実に基づいている。

『ワース 命の値段』© 2020 WILW Holdings LLC. All Rights Reserved.

4)「補償基金を修正せよ!」
遺族グループのリーダー的存在となったチャールズ・ウルフは、9.11テロで男性約2,200人、女性約600人が亡くなっていることを知った。ウルフは、亡くなった男性の多さに驚き、何百人もの未亡人が子供の世話をしていくことから、経済的な支援の必要性に気づいた。彼は遺族として声を上げることを決意し、補償基金プログラムの問題点を指摘するため、「https://fixthefund.org/(補償基金を修正せよ!)」のサイトを立ち上げる。そのサイトは今も残っている。

5)ふたりの架空のキャラクター
劇中で出てくる主なキャラクターにはモデルがいるが、ファインバーグの弁護士事務所の“新顔”プリヤ・クンディは架空のキャラクターである。監督は彼女のキャラクターに自身の感情を投影し、「高所や閉所が怖い」など、当時9.11を目の当たりにした世代が共感できるディテールを加えている。もう一人、テイト・ドノバン演じる弁護士リー・クインも架空の人物である。高所得者である被害者の家族は高額の補償を与えられるべき、と主張する人々の声を体現している。

ファインバーグ弁護士は本作について、多少のフィクションは勿論交えながらも、「2001年当時、私たちが直面した葛藤や苦悩がとても正確に描かれている。100%この映画を支持している」と太鼓判を押す。入念なリサーチに基づき描かれた、社会派エンターテインメントの傑作、この感動をスクリーンで体験してほしい。

『ワース 命の値段』はTOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

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