物議を醸した問題作『ブロンド』 アナ・デ・アルマスが身を捧げた「マリリン・モンローになるまで」

物議を醸した問題作『ブロンド』 アナ・デ・アルマスが身を捧げた「マリリン・モンローになるまで」
『ブロンド』

アメリカ史上最も有名な“セックス・シンボル”、マリリン・モンローを描いたNetflix作品『ブロンド』。今年9月に公開されると大きな話題となったが、出来事や描写の真偽のほど、時代の描写など、伝記ものにはいつだって厳しい批評がつきものだ。特にアンドリュー・ドミニクが監督した本作は、フェミニズム的観点から大手女性ファッション・メディアなどで評価が分かれていることも、大きな話題となった。

しかし、そういった作品への評価以上に、観るものを揺さぶり、強烈な余韻を残したのは、主演を務めたアナ・デ・アルマスの圧倒的な演技だろう。観る者を釘付けにし、時に目を背けたくなるほどの表現でノーマ・ジーン(マリリン・モンローの本名)を演じ切った彼女は、世界からの評価を確固たるものにしてみせた。

 

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“マリリン・モンロー”を自分で発見していくことが興味深かった—

『ブレードランナー 2049』(2017年)、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)、『グレイマン』(2022年)、など数々の話題作への出演で今最も注目される女優の一人となったアナ・デ・アルマス。

その彼女が今回演じたノーマ・ジーンもやがて、“マリリン・モンロー”というスターあるいは虚像へと変容していく。それは人々(もしくは“世の男性”)が求める幻想、そして偶像だったわけだが、アナ・デ・アルマスもまた、この作品を演じるために自ら“マリリン・モンロー”という偶像へとトランスフォーム(変身)していったのだ。そのことが端的に描かれているのがドキュメンタリー『Transformation』という短い映像である。

映像冒頭でアナ・デ・アルマスは「役作りの作業は本当に楽しかった(fun)」と語っている。世にも悲劇的な女性を演じるための役作りが“楽しかった(fun)”だったというのも意外だが「人生のステージで彼女が変化してゆく過程、そして“マリリン・モンロー”を自分で発見していくことが興味深かった」と説明する。

撮影を担当したカメラマンは「マリリンを演じる彼女の撮影は、まるで催眠をかけられているかのような体験だった」と語り、恋仲だったと言われる青年チャップリンJr.を演じたゼイヴィア・サミュエルは「彼女は役に複雑さと奥行きをもたらしたと思う。彼女の持てる全てを捧げているかのようでした。それはおおよそ不気味で不快と言ってもいいくらいのレベルでしたよ」と振り返っている。

共演した名優エイドリアン・ブロディには「共演シーンの日は、まるで本物のマリリン・モンローと仕事をしたかのような気持ちで現場を後にしたものです」とまで言わしめたほどだ。他にも「アナはとてつもない引力と同時に、柔らかさ、心地よさを現場に持ち寄った」「全身で役に身を投じてくれました、しかも笑顔と一緒に」といった共演者やスタッフの言葉が続くが、それらはまるでマリリン・モンローそのものへ向けられた形容と賛辞のようにも聞こえてくる。

「彼女の本当の姿と、その悲しみや痛みを表現するためには、私自身もまた“闇”へと踏み入ることが必要でした。でも同時に、彼女は才能豊かでチャーミングで優しい女性でしたから」と語るアナ・デ・アルマスの言葉からは、今回の役作りの難しさと苦労が滲む。

最後に「この作品を作るにあたっての私の情熱とは、全て“彼女(マリリン)”自身を本当に理解すること、それが原点だったのだと思います。マリリン・モンローを見れば、彼女が常に“オン”の状態だったことがわかる。でもそのせいで本当の彼女である“ノーマ・ジーン”の存在は、いつだって私たちの視界からこぼれ落ちてしまう。マリリンはあのころ、世界一有名な女性でした。だからこそ彼女自身は、誰にも本当の姿を知られないまま、透明な存在になってしまったのだと思います。それこそが私の表現したかったことでした」と語るアナ。

「“マリリン・モンロー”はスクリーンの中にしか存在しないのに……」という劇中でのセリフは、“虚像”モンローが人々に残しえた数少ない真実の一つなのだろう。そのことを、アナもまた“マリリン・モンロー”へと変容することで見事に炙り出し、表現してみせた。アナの演技による、声の震えや目のちょっとした動きが、“マリリン”の戸惑い、喜び、悲しみを伝えている。

身を捧げるように“マリリン・モンロー”を演じ、その生涯を閉じたノーマ・ジーン。そしてそのノーマ・ジーンと“マリリン”の両方を献身的に演じてみせたアナ・デ・アルマス。なんとトリッキーで、危険で、難しい作業だったことだろう。

『ブロンド』はNetflixで独占配信中

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『ブロンド』

波乱に満ちた私生活と名声がもたらした思わぬ代償。ハリウッドの伝説的存在であるマリリン・モンローの人生を、新たな視点から大胆に描き出すフィクション。

監督:アンドリュー・ドミニク
脚本:アンドリュー・ドミニク
原作:ジョイス・キャロル・オーツ

出演:アナ・デ・アルマス、エイドリアン・ブロディ、ボビー・カナヴェイル、ゼイヴィア・サミュエル、ジュリアンヌ・ニコルソン、リリー・フィッシャー、エヴァン・ウィリアムズ、ギャレット・ディラハント、ルーシー・デヴィート

制作年: 2022