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官能映画の魅力は、刺激的な描写の強さだけでは決まらない。視線や沈黙、触れ合うまでの緊張感、そして肉体関係によって崩れていく立場や感情まで描かれてこそ、忘れがたい一本になる。
なかでも『ラスト、コーション』のように、性愛が愛情表現であると同時に、駆け引きや支配、裏切りの道具にもなっている作品は強烈だ。登場人物たちは相手を誘惑しているつもりが、いつの間にか自分自身も欲望から逃れられなくなっていく。そんな危うさを味わえる官能映画を選んだ。
『ラスト、コーション』
アン・リー監督がアイリーン・チャンの短編小説を映画化した、官能的なスパイサスペンス。日本占領下の上海を舞台に、抗日運動に加わった女子学生ワン・チアチーが、政府の重要人物イーを暗殺するため、彼に接近していく。
標的を誘惑して罠にかける。それだけなら、比較的わかりやすいスパイ映画だったはずだ。しかし本作では、任務として始まった肉体関係が、チアチーとイーの感情を少しずつ変質させていく。
大胆な性愛描写も、決して物語から切り離されたサービスではない。イーの暴力性や猜疑心、チアチーの恐怖、そして二人の間に生まれる説明しきれない執着まで、すべてが肉体を通して表現されている。どちらが相手を支配しているのか、どこまでが演技で、どこからが本心なのか。その境界線が曖昧になるほど、暗殺計画そのものも危うくなっていく。
タン・ウェイは、純朴な学生から妖艶な女性へ変貌していく主人公を繊細に演じている。トニー・レオンも、冷酷な権力者の奥に孤独や脆さをにじませる。過激な描写を重厚な心理サスペンスへ昇華した、官能映画の代表作だ。
『ラスト、コーション』ノーカット版© 2007 HAISHANG FILMS
『お嬢さん』
パク・チャヌク監督による官能心理サスペンス。日本統治下の朝鮮を舞台に、莫大な財産を持つ令嬢・秀子と、彼女の財産を奪う計画に加担し、侍女として屋敷に入り込んだスッキの関係を描く。
詐欺師、令嬢、侍女。それぞれが秘密と企みを抱え、誰が誰を欺いているのか分からない状態で物語が進んでいく。視点が切り替わるたびに、それまで見ていた場面の意味が反転する構成も見事だ。
秀子とスッキの官能的な関係は、男性たちによって用意された筋書きを破壊する力となる。性愛が搾取や支配の対象として描かれる一方で、二人にとっては閉ざされた世界から逃げ出すための解放でもある。欲望に溺れて破滅へ向かう『ラスト、コーション』とは異なり、本作の官能性には反逆と連帯の色が濃い。
豪華な衣装、美しくも不気味な屋敷、左右対称を意識した映像など、視覚的な完成度も高い。大胆な描写、先の読めない心理戦、愛と裏切りが絡み合う物語を求めるなら、外せない一本だ。
『お嬢さん 劇場公開版』© 2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED
『ハウスメイド』
イム・サンス監督が、キム・ギヨンの『下女』を現代的にリメイクした韓国の官能サスペンス。裕福な家庭で働き始めた家政婦ウニが、屋敷の主人フンと肉体関係を持ったことから、富裕層一家の冷酷な争いに巻き込まれていく。
本作で描かれる性愛は、愛というより権力そのものだ。フンは金と地位を背景にウニへ近づき、関係が発覚すると、家族は彼女を屋敷から排除しようとする。豪華な邸宅で暮らす一家の優雅さとは対照的に、その内側には傲慢さと残酷さが渦巻いている。
チョン・ドヨンは、無邪気さを残した女性が傷つけられ、次第に後戻りできない場所へ追い込まれていく姿を熱演。ユン・ヨジョン演じるベテラン家政婦の存在も、屋敷に染みついた秘密と階級差を際立たせている。
艶やかな映像と濃密な官能描写の裏側で、富裕層のモラルや階級社会の不条理を容赦なく暴いていく。欲望によって人間関係が壊れ、抑え込まれた感情が復讐へ変わっていく展開には、『ラスト、コーション』にも通じる息苦しさと破滅の匂いが漂っている。
『ハウスメイド』©2010 MIROVISION Inc. All Rights Reserved