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『藁にもすがる獣たち』日本版×韓国版――日本の小説が韓国ノワール映画になり、日本へ逆輸入された稀有な系譜
『藁にもすがる獣たち』とは、曽根圭介の日本の小説を、2020年にキム・ヨンフン監督が韓国ノワール映画として映画化し、2026年9月25日に城定秀夫監督の日本版が東映配給で劇場公開された、稀有な「逆輸入」の系譜を持つ作品です。日本版は鈴鹿央士、復帰後初の映画となる成宮寛貴、初めて悪役に挑む森七菜が出演。韓国版はU-NEXTで見放題です。劇場へ行く前に韓国版を観ておきたい、そんな方に向けて書きます。
日本の小説が韓国で映画になり、日本に帰ってきた
こういう出自の映画は、そう滅多にありません。
原作は曽根圭介の小説『藁にもすがる獣たち』。日本のミステリーです。それを先に映画化したのは韓国で、キム・ヨンフン監督がチョン・ドヨン、チョン・ウソン、ペ・ソンウ、ユン・ヨジョン、シン・ヒョンビンという顔ぶれで撮り上げたのが2020年。そして今度は、その物語が生まれた国で、城定秀夫監督があらためて実写化しました。日本発、韓国経由、日本着。原作者にとっても、これほど奇妙で幸福な巡り合わせはないでしょう。
日本版の公開は2026年9月25日、東映配給、PG12、上映時間94分。富川国際ファンタスティック映画祭のSignature部門でワールドプレミアを飾りました。韓国の映画祭で先に日本版が披露されたというのも、この作品の系譜を思えば出来すぎた話です。主題歌はMAN WITH A MISSION。狼の姿をしたバンドが、獣たちの映画を締めくくる。この組み合わせにも、東映の遊び心を感じます。PG12という区分からも、日本版が血と暴力から目を逸らしていないことは想像がつきます。
私はこの手の「同じ原作の映画を見比べる」遊びが昔から好きで、日本版の公開が決まったと聞いたとき、まず思ったのは「では韓国版を観直さなければ」でした。同じ物語を、二つの国の作家が、それぞれの流儀で料理するのです。その差分こそが、映画を観るいちばん贅沢な楽しみだと思っています。
しかも今回は、韓国版がU-NEXTで見放題になっています。劇場公開の週に、家で一本目を観てから劇場で二本目を観る。この順番が、こんなに手軽に組めることは、そう多くありません。
城定秀夫が「獣たち」を撮るという事件
日本版の監督が城定秀夫であると知ったとき、私は膝を打ちました。
城定秀夫はピンク映画の現場から出てきた作り手です。予算も日数も限られた環境で、人間の欲望と情けなさを、湿った手ざわりのまま画面に定着させてきました。近年は『愛なのに』のような一般映画でも評価を高めていますが、根っこにあるのは、人が人を騙し、すがり、裏切る場面を、笑いと痛みの境目で撮る技術です。
私が城定作品に惹かれるのは、登場人物を裁かないところです。どれほど情けない男も、どれほど狡い女も、彼のカメラは突き放しません。かといって甘やかしもしない。ただ、その人がそうせざるを得なかった事情を、画面の隅にそっと置いておく。この距離感は、ノワールという、人間の弱さを扱うジャンルにおいて、何より大切なものだと思っています。
『藁にもすがる獣たち』の物語は、大金の入ったバッグをめぐって、追い詰められた男女がだまし合い、奪い合う話です。登場人物は誰も英雄ではなく、誰も清くありません。この題材に、城定秀夫ほど似合う日本の監督を、私は他に思いつきません。
韓国版が持っていたのは、時間軸を組み替える構成の巧みさと、暴力を乾いた黒い笑いで包む韓国ノワール特有の手触りでした。それを日本版がどう引き受け、どう変えるのか。原作の舞台が日本である以上、日本版はある意味で「元の場所へ戻す」作業になります。ただし、韓国版を経由したからこそ生まれる「戻し方」もあるはずです。城定秀夫がその往復をどう処理したのか、私は劇場で確かめるつもりです。
韓国版『藁にもすがる獣たち』は、U-NEXTなら見放題で観られます。初回登録の方は31日間無料トライアルの対象です。劇場に行く前の晩に、まず一本目の「獣たち」を。
成宮寛貴の復帰、森七菜の悪役
日本版のキャストについても書いておかなければなりません。
成宮寛貴。この名前を映画のキャスト欄で見る日が来ることを、待っていた人は多いはずです。復帰後初の映画出演で、演じるのは不良警官。清潔なヒーローではなく、法の側にいながら濁った目をした男です。かつて『相棒』で見せた端正な佇まいを知る観客ほど、この役の選び方に興奮するでしょう。復帰作にノワールの悪徳警官を選んだのです。その一点だけで、私はこの映画に向ける期待を隠せません。
森七菜は、初の悪役に挑みます。透明感のある役柄で観客に愛されてきた俳優が、この物語の中で「悪女」の側に立つのです。韓国版でチョン・ドヨンが演じた冷酷な女の系譜を、日本版がどう引き継いだのかを考えると、この配役は挑発的です。清らかな顔で人を沈める女。森七菜がそれをどう演じるのか、想像するだけで背筋が少し冷えます。
主演は鈴鹿央士。MEGUMI、前田旺志郎、風吹ジュンが脇を固めます。韓国版でユン・ヨジョンが演じた老母の役どころを思うと、風吹ジュンという名前には意味深なものを感じます。
だからこそ、いま語れるのは韓国版のことだけです。そして韓国版について語ることは、そのまま日本版を観るときの「目」を用意することでもあります。
韓国版を「予習」ではなく「一本目」として観る
韓国版を観ておくことを、私は単なる予習とは呼びたくありません。あれは一本の映画として、それ自体で完成しています。
サウナのロッカーに残されたバッグ。借金取りに追われる税関職員。夫に殴られる女。認知症の母を抱えた中年男。そして、すべてを奪う女。それぞれの章で視点が入れ替わり、時間が前後し、ある場面の意味が別の場面で裏返されるのです。初見のときに感じた「話が見えない」もどかしさが、中盤で一気に快感へ変わる構造は、何度観ても鮮やかです。
見比べの楽しみは、細部に宿ります。バッグを最初に見つける人物の表情。金を見た瞬間に人が変わる、その変わり方。韓国版では、笑っていいのか分からない黒い笑いがそこにありました。日本版が同じ場面をどう撮るのかは、劇場で答え合わせをするしかありません。
もう一つ、私が楽しみにしているのは「章立て」の扱いです。韓国版は物語を章題で区切り、時間軸を組み替えることで観客を惑わせました。日本版が同じ構造を採るのか、それとも別の語り口を選ぶのか。94分という上映時間は、韓国版よりも引き締まっています。その差の中に、城定秀夫の判断が見えるはずです。
『パラサイト 半地下の家族』に代表される韓国映画の毒が好きな方、城定秀夫の作品を追いかけてきた方、成宮寛貴の復帰を待っていた方、森七菜の新しい顔を見たい方。そのすべての方に、韓国版から日本版へ、という順番をおすすめします。
順番を逆にしても、もちろん構いません。ただ、私自身は、原作の国から出て、また戻ってきたこの物語の旅路を、時系列のまま辿りたいと思っています。韓国の作家が日本の小説をどう読んだか。日本の作家がその韓国版をどう受け止めたか。二本を続けて観ることで、その往復書簡のような対話が浮かび上がってくるはずです。
韓国版『藁にもすがる獣たち』はU-NEXTで見放題です。初回登録の方なら31日間無料。一本目を家で、二本目を劇場で。この秋、二つの国の獣たちを見比べる贅沢を。
※2026年9月26日時点の情報です。最新の配信状況・料金は各公式サイトでご確認ください。
文:BANGER!!!編集部