「考えるのではなく感じる映画」「独特な世界観がクセになった」ユニークな映像表現はデヴィッド・リンチの影響?『きれっぱしの愛』本編映像
『ゴッドランド/GODLAND』で世界の映画祭を賑わしたアイスランドの気鋭フリーヌル・パルマソン監督による最新作『きれっぱしの愛』が全国公開中だ。このたび、本作の“シュールで不思議”な魅力を味わえるワンシーンが解禁となった。
もう夫婦じゃない。でも、“まだ家族”の日常
19世紀のアイスランドを舞台に、若き牧師の布教の旅を壮大なスケールで描き、多くの映画ファンを魅了した『ゴッドランド/GODLAND』。いま最も注目を集めるアイスランドの気鋭監督フリーヌル・パルマソンが最新作で描くのは、片田舎に暮らす、ごく普通の家族のささやかな日常。大きな事件は起こらない。移りゆく四季とともに、ときにブラックに、シュールに、ユーモラスに紡がれる日常のスケッチが映し出すのは、変わりゆく夫婦、家族、そして失われてもなお残る愛の行方——。監督の実子たちと愛犬パンダが家族役として出演。私的でありながら、豊かな陰影に満ちたビターでスウィートな家族劇。「第78回カンヌ国際映画祭」への正式出品を経て、「第98回アカデミー賞」アイスランド代表作としても選出された注目作。
出演は、コメディアン、女優、歌手と幅広く活躍するアイスランド出身のサーガ・ガルザルスドッティルと、『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』のスベリル・グドナソン。絶妙な距離を保つ元夫婦役を演じるほか、パルマソン監督の3人の実子と愛犬パンダが、そのまま“子ども役と愛犬役”として出演。ありのままの家族の風景を切り取ったかのような、ナチュラルでエネルギッシュな魅力を放っている。また、アイスランド・シープドッグのパンダは、「第78回カンヌ国際映画祭」パルム・ドッグ賞を受賞。本年度の“スター犬”の誕生だ。
アイスランドの海辺の田舎町に暮らす、芸術家の母アンナは3人の子どもたちと犬のパンダと毎日和やかに過ごしているが、なぜか別れたはずの夫マグヌス(愛称:マギー)の姿も時々現れ——、そんな<もう夫婦じゃない>男女と子どもたちとの、<いまさら家族>の中に残り続ける愛の形の経過を、美しい日常の風景の中であぶり出していく本作。
先週末から公開を迎えた本作には、「現実と寓話の狭間で漂うような不思議な魅力を持つ作品」「頭で考えるのではなく感じる映画」「シュールで独特な世界観がクセになった」「ちょいちょい挟まれるブラックユーモアににやけた」など、SNSを中心に唯一無二の空気感に魅了されたという声が集まっている。単なるホームドラマかと思いきや、突然マジックリアリズム的な表現を用いたり、北欧特有のブラックユーモアが光る脚本が評価され、ミニシアターランキングでは初登場2位を獲得した。
今回、そんな本作の“シュールで不思議”な魅力を味わえるワンシーンが公開された。夜、自宅で眠るマグヌスを訪ねてくるのは、なんと巨大な雄鶏。ある出来事をきっかけに雄鶏の恨みを買ってしまったマグヌスは、深夜にやってきた客に仕返しをされてしまうのだった——。
ワールドプレミアとなった昨年のカンヌ国際映画祭でもひと際笑い声が沸き起こったシーンだが、これはもちろんマグヌスの夢の中での出来事。本作の大部分は現実を淡々と切り取ったシーンで成り立っているが、時折このようなファンタジー的な演出が挟まれ、その独特の演出に虜になる人が続出している。
このマジックリアリズム的演出についてパルマソン監督は「現実離れをしたシーンを描くのはほとんど自然な思い付きで、計算ではありません。それは衝動に近いと思っています。巨大な雄鶏が表れることはマグヌスが抱く罪悪感からくる自然な現象だと考えています。決して『観客を驚かせよう』とか『笑わせてやろう』といった理屈で作られたものではなく、現実をより深く感じさせるための直感的な表現なのです。このシーンを自然に執筆していたことには自分でも驚きました」と語っている。加えて「僕はシュールなものを撮りたいのではなく、観客に現実を十分に信じさせたうえで、直感的に生まれたイメージを紡ぎ、観客に感覚的な体験を与えたいと考えています。その点において、デヴィッド・リンチは僕のヒーローなんです」と意外な名匠へのリスペクトを明かしている。
『きれっぱしの愛』©︎STILL VIVID, SNOWGLOBE, HOBAB, MANEKI FILMS, FILM I VÄST, ARTE FRANCE CINEMA
『きれっぱしの愛』は全国公開中