世界に愛された役所広司×ヴェンダース『PERFECT DAYS』
後半は前半の重苦しさから解放され、描かれる世界がぐっと身近に、普遍的で個人的なイシューを取り上げるようになっていく。ユーモアやファンタジーをまとわせ、夢や希望の挫折を描きながらも、最後には救いや希望のかけらを感じさせる作品が登場してきた。
そんな一本がヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』であり、コンペ21本の中で一番幸せを感じさせる、幸せの存在を信じようとする主人公を演じた役所広司だった。
授賞式での男優賞発表時の歓声は決して日本人記者だけのものではなかったし、会見でも盛んに質問が浴びせられ、世界の人たちにこの主人公が愛されたのだということが伝わってきた。
最後に登場した御大ケン・ローチの、揺るがない信念に貫かれたストレートな社会派作品『オールド・オーク』には強力なライバル出現を感じたが、審査員のハートは熱演よりも、役所広司の演じた静かなたたずまいと抑えた感情が静かにあふれ出す一瞬に震えたに違いない。
テロ疑惑の娘たちを救いたい母の想いを本人出演で映画化『フォー・ドーターズ』
最後に一つ触れておきたいのが、ゴールデン・アイ賞(ドキュメンタリー賞)を受賞した『フォー・ドーターズ』の会見である。実際の事件を、その当事者が出演し、同時に俳優も登場させながら描いていく作品だ。
4人の娘の母オルファが映画にも会見にも登場。上の二人の娘がISに参加し、テロに加担したとして現在も収監中だが、彼女たちは当時まだ10代であり洗脳によって事件に巻き込まれたのだとして、オルファは娘たちの解放を求めている。会見でその娘たちの現在を問われたオルファは目に涙をため、しばしの沈黙の後に二人の解放を訴えたのである。
『皮膚を売った男』のカウテール・ベン・ハニア監督がニュースでこの訴えを知り、コンタクトを取って映画化を持ち掛けたという。女性同士のシスターフッドによって、局地的な事件を世界的にしらしめ、事態を動かせたらという、映画の力を信じた作品でもある。こういう作品と、その当事者に直接会えるのも映画祭の醍醐味であり、役割でもあるのだ、と再確認した今年のカンヌ国際映画祭であった。
取材・文・撮影:まつかわゆま