• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • ミシェル・ヨーが映画の「女性アクション」を変えた! 主演作『レディ・ハード』『皇家戦士』が世界に与えた影響【後編】

ミシェル・ヨーが映画の「女性アクション」を変えた! 主演作『レディ・ハード』『皇家戦士』が世界に与えた影響【後編】

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#ギンティ小林
ミシェル・ヨーが映画の「女性アクション」を変えた! 主演作『レディ・ハード』『皇家戦士』が世界に与えた影響【後編】
『皇家戦士』© 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
1 2

アクションスターになるには、まずアクションを学ばなければならない。出演2作目『七福星』(1985年)撮影当時について、ミシェル・ヨーはこう語っている。

私が最初に乗り越えなければならなかったハードルは当時、男性しかいないボーイズクラブだったスタントマンの世界に受け入れてもらうことでした。私はスタントマンやアクション俳優たちがトレーニングをしているジムに行き、「私はアクションができる俳優になりたいんです。教えてくれませんか?」とお願いしました。

その熱意に打たれ、香港アクション映画を支える錚々たる面々がミシェルの指導にあたった。彼女の指導した方々があまりにゴージャスな面子なので、ここで紹介したい。

まずは「霊幻道士」シリーズの主演で有名なラム・チェンイン。彼は『七福星』の武術指導を担当していた。他にも、後に『X-メン』(2000年)、『トランスポーター』(2002年)、『エクスペンダブルズ』(2010年)のアクション監督を務めたユン・ケイ、さらに台湾軍でテコンドーのインストラクターを務めた経歴のオーナーで、『プロジェクトA』 (1983年)で海賊のボスを演じたことで有名なディック・ウェイなどが指導にあたった。

彼らのもとで1日8時間のトレーニングをしていたミシェルに、主演デビューの話が舞い込む。『レディ・ハード/香港大捜査線』(1985年)である。

YES, MADAM! [Huang jia shi jie] aka. POLICE ASSASSINS (Eureka Classics) Special Edition Blu-ray

80年代香港映画の過剰なサービス精神がスパークした『レディ・ハード』

『レディ・ハード』の製作はサモ・ハン。監督と武術指導はミシェルのアクションの師匠であるユン・ケイ。共同武術指導はユン・ケイ監督のほか、真田広之主演作『龍の忍者』(1982年)のアクションを担当し、香港アカデミー賞の最優秀武術指導賞にノミネートされたマン・ホイ。格闘シーンの相手となる敵役はアクションコーチのディック・ウェイが務めた。

アクション映画の主演デビューを飾るには、最高の布陣である。しかしサモ・ハンは、ドキュメンタリー映画『カンフースタントマン 龍虎武師』(2021年)の中で、当時の自分の作品について「アクションの要求水準が高いので、私の映画の出演を拒否するスタントマンが多い」と語っている。そんな作品でミシェルはアクション映画デビューを飾ることになったのだ。

物語は、同僚たちから「マダム」と呼ばれて超信頼されている香港警察の敏腕刑事ミシェル(ミシェル・ヨー)と、ロンドン警視庁から来た女性捜査官(シンシア・ラスロック)がコンビを組んで、犯罪組織を壊滅させる……というもの。この映画は、そんなシンプルな物語を腰を据えて語るよりも、派手なアクションをパンパンに詰め込んで次々と見せることを優先した結果、登場人物たちの情緒が「医者に診てもらったほうが良いのでは……」と不安になるほどおかしくなってしまっている……という、80年代香港映画らしい過剰なサービス精神がスパークした作品になっている。

常軌を逸したアクションの数々に観客熱狂!

共演のシンシア・ラスロックはアメリカ出身で、13歳から中国武術やテコンドーを修業し、世界中国武術チャンピオンに5年連続で輝いた超エリート。本作の製作会社D&Bは、もともとミシェルの相棒役として“ブルース・リーのようなムードで中国武術が得意な白人男性”を探していた。そしてシンシアが所属するアメリカの武術チームにコンタクトをとる。しかし、そこで彼女の演武を見て、類まれな武術スキルに感動し、相棒役を女性に変更した。その期待に応えるようにシンシアは、すさまじいファイト・シーンを披露する。

そうなると武術を学んだ経験がなく、格闘アクションも未経験のミシェルには相当なプレッシャーがあったと思う。しかし、ミシェルは劇中、格闘技未経験者とは思えないアクションや危険なスタントに挑戦している。

冒頭では現金輸送車を襲撃した強盗集団を相手に、S&W M39とレミントンM31ライアットショットガンを駆使したアクロバティックな銃撃戦を展開。格闘シーンではバレエ仕込みの打点が高い蹴り技や開脚技をバシバシ繰り出すだけでなく、80年代サモ・ハン映画の常連俳優チュン・ファトによる渾身のサイドキックを胸部にもろに受けて後方に吹っ飛ぶ、という身体を張ったアクションにも挑戦。

極めつけはクライマックスの格闘シーンで、バルコニーの縁に両脚かけて後ろ周りに回転し、その勢いのまま後頭部でガラスを破壊しながら敵を攻撃する、という常軌を逸したアクションを披露してくれる。

しかし、ミシェルもシンシアもアクション映画初出演。カメラの前で格闘アクションをしたことがなかった2人は、コツを掴むまで全身アザだらけになっていたという。が、このハードな経験についてミシェルは後に、「最初はコツが掴めず苦労しましたが、私は生まれつきタフなので大丈夫でしたよ」と不気味なほどカジュアルに回想。また、「女性が主人公だから、映画を観るまで観客たちは、私が銃を抜いて“止まらないと撃つぞ!”と言うだけで、アクションはしないと思っていたんです」と振り返っている。

ところが映画が公開されると、命を無駄遣いするような危険なアクションに挑戦するミシェルの活躍を目の当たりにした観客たちは、場内で割れんばかりの拍手をしたという。

さらにクライマックス、ミシェルが男だらけの犯罪組織に女性であることを嘲笑されると、涼し気な表情で「男を産めるのは女だけよ」と啖呵を切り、素手ゴロで悪党たちをボッコボッコにするアクションのカタルシスが評判を呼び映画はヒットした。

次ページ:日本ロケ&真田広之と共演の『皇家戦士』
1 2
Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook