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「あの片隅に、いろんな日本人が流れ着いては死んでいく」 フィリピンの困窮邦人を追ったドキュメンタリー『ベイウォーク』粂田剛監督インタビュー

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ライター:#遠藤京子
「あの片隅に、いろんな日本人が流れ着いては死んでいく」 フィリピンの困窮邦人を追ったドキュメンタリー『ベイウォーク』粂田剛監督インタビュー
『ベイウォーク』ⒸUzo Muzo Production

海外で貧困に陥り、現地の人々の情けに頼って暮らす日本人男性たち――フィリピンの困窮邦人を追ったドキュメンタリー『なれのはて』の続編ともいえる『ベイウォーク』が、2022年12月24日(よりによってクリスマスイヴに)公開される。

前作は“こんなところに日本人”どころではない衝撃的な内容が話題になったが、本作にも二人の主人公以外にM資金詐欺師や重犯罪の疑いがある人までもが登場。粂田剛監督に話を聞いた。

『ベイウォーク』ⒸUzo Muzo Production

「“映画監督”になって……仕事が減りました!」

―前作『なれのはて』の反響はいかがでしたか?

テレビ番組制作など今までやってきたものと違うのは、やっぱり目の前にお客さんがいることでしたね。映画の舞台挨拶なんかに行ったら目の前で「ああだった、こうだった」って言ってくれるのが、すごくうれしいというか。テレビ番組制作では実際に見た人と直接会話することは、ほぼないじゃないですか。余計なことをツイッターで喋ると、また怒られたりとかして(笑)。それで発言しないということも多かったので、直接「面白かった」とか、まあ怒られることもありましたけど、そういう人がいるってことはすごく面白いなあと、「これが映画を作る醍醐味か!」みたいな感じはありました。

―「怒られた」というのは?

「タイトルが『なれのはて』とは失礼だ」とおっしゃる方もいらっしゃったので。でも直接いろいろと言っていただいて、面白いとも言っていただけましたし、よかったなと思います。

粂田剛 監督

―前作のインタビューのときは「仕事がしやすくなるかな」っておっしゃっていましたよね。

これは(笑)……はい、仕事が減りました!

―えっ、そうなんですか!

困ってます。なんか「やばい映画作るやつだ」みたいになって(笑)。何でもやるんで仕事くださいみたいなことを言ってたんですが、あんまり声がかからない。いわゆる企業VP(ビデオパッケージ)みたいな、リクルート用の学生さんに見せるような会社紹介のビデオの仕事とかはいまでもやってるんですけど。でも、そういうのが全体的にも減ってるんでしょうし、声がかからないというか。「ちょっと減ったよ、ちくしょう」と困ってるところです。

「『なれのはて』と地続きの、同じ世界の話」

―『なれのはて』には入りきらなかった人たちの映画が、新作『ベイウォーク』なんですよね? 東京ドキュメンタリー映画祭でのトークでは「『ベイウォーク』は地を這う男と天空で暮らす男の対比」とおっしゃっていましたが、一番違うなと思ったのが、『ベイウォーク』には幸せになった人が一人も出てこない……。

そう言われるとそうですね。もともと『なれのはて』を作るときに、6人の登場人物で4時間の映画にしようと思っていたんです。それを何人かに見てもらったんですけど、まあ全員が口をそろえて「こんな長い映画どこの映画館でもやってくれない。2時間以内にしなさい」と。2時間にするには6人は多いなあと思って、新作に登場する赤塚さん(ベイウォークに暮らすホームレス)と関谷さん(タワーマンションの住人)を外して4人の映画にしたのと、ストーリーの基準としてこの二人はまだ“なれのはて”じゃないなと思って。そのとき、もうタイトルは『なれのはて』だと決めていたので。

『ベイウォーク』の二人はまだどこか諦めてないというか、関谷さんは完全に老後の人生を楽しく過ごそうと思っているし、赤塚さんもまだ這い上がろうと色々もがいている感じがあったので、この二人は“なれのはて”じゃないのかもしれないと思って外したんですが、それにしても惜しいと思って……。あと、岩井(秀世:配給ブライトホース・フィルム代表)さんが「赤塚さんはもったいないですよ」って。そう言ってくれる人もいたので、もう一回やってみるかと編集しなおしたんです。結構それに苦戦して、どうしたもんかとすごく悩んでだいぶ変えて、東京ドキュメンタリー映画祭のときから2シーン増やして、尺は同じ。自分でも「これならいいな」と思って、音楽もついて調音もやってもらって、いまだいぶホッとしています。

『ベイウォーク』ⒸUzo Muzo Production

―安岡さん(『なれのはて』に登場する困窮邦人・現地ガイド)が紹介というか、連れて行ってくれたのが赤塚さんですよね。安岡さんを見て懐かしいなあという気持ちになりました。

そうですよね。『なれのはて』と地続きの、同じ世界の話なんだよって最初に提示したほうがいいかと思いまして、あのシーンを入れるか、出会ったその次からがいいのかすごく悩んだんですが、この発見のシーンがあった方が『なれのはて』を見た人にもわかりやすいかなと。

じつは何度もあそこに行っていて。どうも日本人がいるらしいんだって噂を聞いて、3回くらい一人でも行っています。ただ、寝てたらわかんないですからね。あのJR(本作に登場するホームレスのリーダー格の人物)が教えてくれなければ結局わからなかった。

―赤塚さんを取材していたらM資金(旧日本軍の隠し財産)詐欺師まで出てきてしまい、フィリピンでホームレスになるっていうことには犯罪も大きく関わってくるのかなと思ったのですが。

あまり詳しくは教えてくれなかったんですが、要はブローカーなので、なんでも取引するじゃないですか。こっちのものをあっちに売ったり、という仕事だから、合法・非合法関わらずみたいなことで。どうも赤塚さんがフィリピンに行ったきっかけはそんなに怪しい話でもなくて、“インターネット回線を引っ張る”と。ところが現地法人の人が詐欺師だったので、それに引っかかったということらしいんです。一緒に引っかかったらしいM資金の人は、日本で詐欺をやってだいぶお金を引っ張ってトンズラした、みたいなこともあったらしいですね。

『ベイウォーク』ⒸUzo Muzo Production

「日本でマルチの講師やって食えなくなってフィリピンに、みたいな人」

―関谷さんとは、どのように知り合われたんですか?

10年以上前に「金なし、コネなし、フィリピン暮らし」(イカロス出版)という本を書いた志賀和民さんという人がいて。フィリピンには退職ビザというのがあるんですが、外国人向けに「この国でセカンドライフを過ごしませんか」というような、役所の仕事をしている人です。

日本でも年に1回くらい、お台場などで“移民フェア”のようなことをやっていて、そこに志賀さんがブースを出していたときに関谷さんが来た、みたいなことなんです。最初に志賀さんにお会いしに行って、「誰か紹介してくれますか」って聞いたら、「マニラのエルミタのど真ん中にマンションを買ったおじさんがいる」と言うので、「紹介してください」と会いに行ったんです。

関谷さんは岐阜出身の方で、僕は愛知県出身なので彼の方言に聞き覚えがあったこともあり、親しみがあって仲良くなりました。でも彼は警戒心がすごく強くて他人をあまり信用できないところがあり、なかなかお友達ができなくて。海外では誰を信用していいかわからないから、「粂田くんの紹介なら間違いないから誰か紹介して」と言われて二人くらい紹介したんですが、結局その後お付き合いはなくなったみたいです。

―赤塚さんという人を追っていたはずなのに、興味深い人がどんどん繋がっていきますよね。

赤塚さんは本当にいろんな人と交流していて、フィリピン人の友だちもいっぱいいるし、日本人の怪しい友だちもいっぱいいる。でも関谷さんは本当に一人で、日本で買いこんだDVDを家でずっと見ている。結構、孤独だったんです。

『ベイウォーク』ⒸUzo Muzo Production

―最後に出てこられた藤田さんもすごいなと思って。わりと衝撃的なことをサラッと……。

彼は現地で知り合った人の紹介だったのかな。向こうの友人で、僕と同世代の元バックパッカーでコールセンターをやっている青年がいて、行くと一緒にご飯を食べるんですが、すごくローカルなところで食事をしていたら、そこに別の日本人もいて。外で一緒にタバコを吸っているときに、その人が来て「日本人ですか」みたいな話をしたんです。この人がまた怪しくて、日本でマルチ(商法)の講師みたいなことをやっていて、それで食えなくなってフィリピンに来た、みたいな。

「カラオケ」ってわかりますか? カラオケとかKTVって呼ばれている、日本で言うキャバクラ、いわゆる本場のフィリピンパブです。そのカラオケ嬢のヒモをやっていたみたいなんですが、その人が「俺がヒモしている女の子の家の前に、藤田さんっていう変な日本人がいるんだ」と、それで会いに行ったんです。それが一番最後の取材で2019年の5月かな、藤田さんもまだ50前半で若かったから、「こんな若い人がいて、まだ取材ができる!」ということで2、3回行ったんですが、その後コロナで行けなくなり、 次の年くらいに亡くなったみたいで。

『ベイウォーク』ⒸUzo Muzo Production

「あの片隅に、いろんな日本人が流れ着いては死んでいく」

―藤田さん(また別の困窮邦人)の告白が一番衝撃的でした。

それも本当かわからないんですよ。彼を世話しているまた別の日本人がいて、いわゆるジャピーノ、フィリピン人と日本人のハーフのおじさんが便宜を図って世話をしてたんですけど、その人から「亡くなった」と連絡が来たものの、彼は「どこまで本当かよくわからないんだ」みたいなことを言っていました。

―劇中、藤田さんの台詞を突然ブチっと切りますよね、あれはどういう……?

取材がそんなにたくさんできていないということもあり、あそこで終わろうと思って。そもそも藤田さんを出したのが、あの二人(赤塚さんと関谷さん)で全部終わっちゃうと『なれのはて』みたいだなと思って。別の終わり方がないだろうかと思って、こういう面白い人がいた、この人を最後にしよう、と。あと、あのとき突然マイクがトラブって、なぜかその辺で切れたんですよね。それでもう途中で切っちゃって、何がなんだかわからないうちにエンディングみたいな感じにしようと思ったんです。

―そうですね。観ている側は、どこかに放り出されたような気持ちになります。

二人ともいなくなっちゃったと思ったら新しい人が出てきて、「あれあれ?」となる感じがいいなと思って。時は流れ古い人がいなくなり、新しい人が出てくるけれど、この人も亡くなってしまうのか……という感じで終わるのがいいかな、という感じでした。

『ベイウォーク』ⒸUzo Muzo Production

―確かにベイウォークという場所は残るけれども、そこでは常に人が行き交っているイメージがあります。

あの片隅に、いろんな日本人が流れ着いては死んでいく、みたいなことなのかなと。ちなみにベイウォークは、いまは人工の砂浜ができているそうです。岸壁がありましたけど、ずっと何百メートルも先まで砂浜で埋まって観光地みたいになって、みんな写真を撮っているらしいです。まだ行ってないので実際にはわからないですが。

―でもホームレスの方はいるんですか?

それが分からないんですよ。現地の人に聞いたんですが、夜は行ってないって言うので、ちょっと心配なんです。なにかというと排除されるんですよ、彼らは目立つから。外国の要人が来るからなんて言って、どっか行けみたいな。赤塚さんもよくどかされてました。

―日本でもオリンピックのころによくやっていましたよね。

そうですよね。ベイウォークに行くと1キロメートルぐらいのところにずっと人が寝てるので、なかなか壮観ではあるんですけど。

『ベイウォーク』ⒸUzo Muzo Production

―これから撮りたいテーマや人は、もう出てきていますか?

いっぱいあるんですが、コロナがどうなるかっていう感じだと思います。フィリピンももう一回行きたいんですけど、なかなかまだ……。でも、僕のことをフィリピン仲間だと思ってくれている人たちからたくさん声を掛けいただいたので、その人たちも面白いなと思っています。

取材・文:遠藤京子

『ベイウォーク』は2022年12月24日(土)より新宿K’s cinemaほかにて公開

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『ベイウォーク』

2021年12月に公開された粂田剛監督『なれのはて』。フィリピンに生きる4人の困窮邦人を描いた本作は、各方面で話題になった。本作は、のべ7年の歳月をかけてフィリピンでカメラを回し続けた粂田が、『なれのはて』に収録できなった人物たちを改めて再構成して出来上がった作品である。 今回の中心人物となる2人は、『なれのはて』の4人とは異なり、家を持たずホームレスとして暮らす赤塚さん、年金生活者だが、第二の人生を求めフィリピンに移住した関谷さんが中心に据えられた。

金もなく家も無いが、持ち前の愛嬌と人の好さでフィリピン人にいつも助けてもらっている赤塚さんと、お金はあるが、人を信用することができず、外国の高層ビルに閉じこもって暮らす関谷さん。 マニラの中心街、数百メートルしか離れていない場所で、対照的な暮らしをしている 2 人に共通しているのは、50 歳を過ぎて身寄りのない海外で自分なりのリスタート=再起をかけて生きているということ。その姿は観る我々自身にも、いつかくる老後の生き方を捉えなおすきっかけになるに違いない。

監督・撮影・編集:粂田剛
音楽:高岡大祐
調音監修:浦田和治
調音:宮崎花菜

制作年: 2022