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巨匠ゴダールが前代未聞のFaceTimeインタビューで語った最新作『イメージの本』

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ライター:#石津文子
巨匠ゴダールが前代未聞のFaceTimeインタビューで語った最新作『イメージの本』
『イメージの本』© Casa Azul Films - Ecran Noir Productions - 2018
『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』ほかヌーヴェルヴァーグの巨匠、ジャン=リュック・ゴダールが、美しき新作『イメージの本』を作り上げた。ゴダールを映画の父と仰ぐ石津文子が、第71回カンヌ映画祭でFaceTime越しにインタビューした。

1930年生まれのゴダールとイーストウッドは、私の“映画の父”

『イメージの本』© Casa Azul Films – Ecran Noir Productions – 2018

いきなり個人的な話になるがーーいや、すべての話は個人的なものだとゴダールなら言うかもしれないがーー、私は自分の誕生日が好きだ。なぜなら、ジャン=リュック・ゴダールと同じ日に生まれたから。ゴダールは1930年12月3日生まれ。私はその35年後の彼の誕生日に生まれた。まあ、単なる偶然でしか無いけれど、映画を観るようになって、ゴダールを観るようになって、その偶然が単純に嬉しかったし、まるで映画における父のような気がした。ヨーロッパ側の。アメリカ側の父はイーストウッドかな。

『イメージの本』© Casa Azul Films – Ecran Noir Productions – 2018

ここでまた個人的なことを言えば、私の実の父親も、そしてクリント・イーストウッドも、ゴダールと同じ1930年に生まれている。今話題の元号で言えば昭和5年だ。いずれも昨年、米寿を迎え88歳になった。めでたいことである。まあ、うちの父親は88歳の誕生日当日に天寿を全うしてこの世を去ったのだが、なんとゴダールとイーストウッドにいたっては昨年新作を発表したのだから、おそれいる。足立区のうちのオヤジと天下のゴダールとイーストウッドを一緒にするなとまじめな映画ファンの方々には怒られそうだが、それでも偶然とはいえ1930年生まれの人間が抱えているものは、洋の東西、インテリか否かを問わず、共通するものがあると思う。それは彼らが戦争を知っていると言うことだ。第二次世界大戦が終わった1945年に、すでに15歳になっている人たちだ。イーストウッドに至ってはその後、朝鮮戦争で従軍している。日本では戦争は第二次世界大戦を最後に起きていないことになっているが、それ以外の世界は違う。フランスは本土での戦いはなかったにせよ、アルジェリア戦争や、インドシナ戦争、ベトナム戦争を経験している。

戦争や紛争に対する怒りが非常に大きい世代だ。もちろんその世代だけでなく怒りを持っていなくてはいけないのだが、やはり「戦争を知らない」私たちはその怒りの火が時に小さくなってしまう。まずい。しかしゴダールは今も怒っている。

イメージの氾濫にして、反乱。ゴーダル曰く「未来を語るのは、アーカイブである」

『イメージの本』© Casa Azul Films – Ecran Noir Productions – 2018

なんでそんな話をするのかといえば、『イメージの本』はゴダールによる映像のエッセイであり、それは世界を覆う争い、特に中近東の紛争を憂うものだからだ。冒頭のゴダールがフィルムを編集する手など、いくつかのカットをのぞいては、過去の映画やニュース映像(FILMS)、絵画(PAINTINGS)、文章(TEXTS)、そして音楽(MUSIC)のコラージュで『イメージの本』は出来ている。つまり、アーカイブ=過去の記録たちの断片で構成されていて、ゴダールの言葉を借りれば、「私たちに未来を語るのは、アーカイブである」のだ。

『イメージの本』© Casa Azul Films – Ecran Noir Productions – 2018

映画だけでも、アルジェリア戦争を扱った『小さな兵隊』(1960)や、『ゴダールのリア王』(1987)、『アワーミュージック』(2004)をはじめゴダールの多くの作品や、ローレンス・オリヴィエの『ハムレット』(1948)、スピルバーグの『ジョーズ』(1975)や、マックス・オフュルスの『快楽』(1952)、ニコラス・レイの『大砂塵』(1954)、溝口健二の『雨月物語』(1953)、ガス・ヴァン・サントの『エレファント』(2003)など、さまざまな映画の断片が集められている。それらは脱色されたり、着色されたり、さまざまに加工され、ゴダール自らのナレーションによってつながれ、暴力と戦争に満ちた世界への怒りと、それでも消えない希望を感じさせる5章の物語と成っている。

『イメージの本』© Casa Azul Films – Ecran Noir Productions – 2018

実際にロケをして映画を撮影する企画もあったようだが、ゴダールが足腰を痛めたため、こうした形になった。結果的にゴダール初心者にもわかりやすい、映画の教科書的な側面も持ち得た。フィクションでも、ドキュメンタリーでもない、イメージの氾濫にして、反乱。

カンヌ映画祭でFaceTime質問!英語での質問にゴダール御大、日本語で答える!?

第71回カンヌ映画祭ではコンペティション部門に出品され、スペシャル・パルムドールが贈られた。1968年にカンヌ映画祭を中止(学生と労働者のストライキと連帯し、映画の自由を求め、トリュフォーと共に映画祭に抗議。5月革命につながった)に追い込んでから50年、『気狂いピエロ』の1場面が公式ポスターとなったカンヌに、ゴダールは久しぶりに出席の意思を見せたが足のために断念し、しかしスイスの自宅からiPhoneのFaceTimeを使っての、前代未聞の記者会見を行った。実は私はここで、CS映画専門チャンネル ムービープラスのレポーターとしてゴダールに質問をしてみた。10人ほど先に記者が並び、ロシア人の記者に続いて、心中どきどきしながら、「ボンジュール、ムッシュー・ゴダール。フランス語はうまく話せないので、英語で質問します」と話かけたところ、「日本人、ロシア人、フランス人も英語で話して、自分たちの言葉を話さないのはひどいことですね」とフランス語で返されてしまった。

FaceTime越しにゴダールにインタビュー「いや、でも日本語の通訳はいないし」と内心タジタジになりながら、「『気狂いピエロ』の頃のように、役者の存在を信じていないのですか?それとも信じているのですか?」と聞いてみた。『イメージの本』には、過去の映像以外にプロの俳優は出てこない。するとゴダールは「そうですか」と日本語を話すではないか!ビックリ仰天である。

これに関してゴダールは「それには答えられません。私の映画で演じて助けてくれた多くの俳優や女優の気分を害することは出来ないからです。(中略)私たちにとってフィクションとドキュメンタリーの間に境界線はありません。しかし、俳優にとっては違います。俳優たちは政治の中にいるようです。それは統治といった政治ではなく、そのような政治性をのぞいた政治です。(中略)私が考えるに、今日の俳優たちは考えられたものとしてのイメージに対抗する、撮影されたものとしてのイメージの全体主義に貢献しているようです」と答え、そして日本語でまた「そうですか……」と言ったのだった。

ゴダールとFaceTime でお互いの顔を観ながら話しているのも、まるで映画のようだが、彼の「そうですか」という言葉もまるで映画のようだった。小津映画の笠智衆が発していたかのような、「そうですか」。ネット上で観られるので、ぜひその声を聞いてほしい。私のうっかりすっぴんは見逃していただければと願うが。

この会見もそうだが、『イメージの本』は、ゴダールが映画の父として、私たち映画の子供たちに贈ったアルバムのようなものだ。何度も繰り返し、開いてみたい。

文:石津文子

『イメージの本』は2019年4月20日(土)シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

【BANGER!!!×MoviePlus】第72回カンヌ映画祭特集

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『イメージの本』

第71回カンヌ映画祭で特別に設けられた、スペシャル・パルムドール受賞の異色作。新たに撮影した映像に絵画や文章などをコラージュし、この世界が向かおうとする未来を指し示す 5 章からなる物語。ナレーションはゴダール本人が担当。

制作年: 2018
監督: