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『ノー・エスケープ 自由への国境』ハラハラドキドキの88分、エンターテインメントで終わらせて良いのか?

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ライター:#大倉眞一郎
『ノー・エスケープ 自由への国境』ハラハラドキドキの88分、エンターテインメントで終わらせて良いのか?
『ノー・エスケープ 自由への国境』© 2016 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.
メキシコからアメリカへの不法入国を試みる数十名が、さえぎるもののない灼熱の砂漠で、あるハンターの標的となる。本作には、移民の是非が話題となる今だからこそ、改めて考えたいテーマが掲げられている。

国境の壁と心の壁

『ノー・エスケープ 自由への国境』© 2016 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

当たり前だが、アメリカとメキシコの国境はトランプが大統領になる前から存在する。
移民を望む人々が、何の制限もなく不法入国すれば困ったことになるくらい私にもわかる。
しかし、アメリカという国は意外にも不法移民で国が成立していると言っても過言ではないから話はややこしい。
「安い労働力」が必要だからだ。

映画とは直接の関係はないが、さらに一言だけ加えるなら、なぜメキシコ以下、中南米から移民が押し寄せるような状態になっているのかもよ〜く考えておく必要がある。
過去、アメリカに都合のいいラテンアメリカ諸国の独裁政権を裏から支えてきたのはどこのどいつだ。
現在のかの国々の経済的な行き詰まり、治安の悪さの元の元の元をたどってみることは決して無駄ではない。

『ノー・エスケープ 自由への国境』© 2016 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

で、トランプは国境に壁を作ると約束して大統領になった。
不法移民はレイプ魔で麻薬の運び屋で犯罪者集団だから、壁を作って絶対に入国させないと宣言した。トランプ支持者からは喝采を浴びたが、冷静に考えればアメリカの国力を削ぐ政策。つい先日、トランプはメキシコとの国境を閉鎖するとぶち上げたが、すぐに撤回してしまった。そんなことできないからである。
壁が本当に完成するのかどうかはわからないが、確実に作られたのは壁の向こう側の人間とこちら側の人間の心の中の壁である。
心の中の壁は実はコンクリートの壁よりも厄介で、ハンマーで叩きこわせるものじゃない。
壁は変容していき、憎悪を作り出し、極端な話、向こう側の連中は人間として扱う必要なし、なんてことになるかもしれない。

砂漠に鉄線が張られ、そこが国境だと言われてもピンとこない。
同じ砂漠をどう分けた。
国家という必要悪を超えるものはないものか。

憎悪の行き着くところ

『ROMA/ローマ』で2度目のアカデミー監督賞を受賞し、おそらく今、最も注目されているアルフォンソ・キュアロンが製作、息子のホナス・キュアロンが監督を務めた『ノー・エスケープ 自由への国境』は2015年の製作だから、トランプの出現とは関係ない。
そのさらに10年前からこの作品の構想を練っていたというから、メキシコとの国境をめぐる感情的な高まりは昔からずっと続いているのである。

『ノー・エスケープ 自由への国境』© 2016 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

歩いて歩いてようやく鉄線を越え、なんとかメキシコの砂漠からアメリカの砂漠へ足を踏み入れたかと肩で息をしていたら、いきなり隣を歩いていたおじさんが銃声とともに腹から血を吹き上げて倒れてしまった。
えっ、なに?とうろたえる間も無く、今度は後ろにいたお姉さんが頭を撃ち抜かれていた。20人近くで一緒に国境を超えた仲間が次々に倒れていく。身を隠す場所のない砂漠の中、どこに逃げればいいのかわからないが、とにかく走ってみた。
一発弾が外れた、次の瞬間真っ暗になった。

悪い奴役のジェフリー・ディーン・モーガンが“アクション・サスペンス・スリラー”とこの作品の内容をまとめていた。
間違いじゃないにしろ、何でもありみたいでどうなんだろうか。
元々のスペイン語のタイトルは「DESIERTO」、「砂漠」。
これだとまたなんだかわからない。
だから「逃げ場なし」、で、「ノー・エスケープ」。
気持ちはわかる。

『ノー・エスケープ 自由への国境』
Blu-ray&DVD発売中!
発売元:アスミック・エース
販売元:ポニーキャニオン
価格:DVD¥3,800(本体)+税、Blu-ray ¥4,700(本体)+税
© 2016 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

この作品をエンターテインメントと括ってしまうには抵抗がある。
ハラハラドキドキを88分に凝縮し、見せ場だけで構成されている出来栄えだが、逃げ場なしの状態に追い込まれた不法移民たちと彼らを狩るまで憎悪を募らせてしまった人間の心の葛藤まで、もし垣間見ることができれば、さらに作品を味わい尽くすことができる。
単なる「不法移民がサイコパスに狙撃されるサスペンス・エンターテインメント」で終わらせてしまうかどうかはあなた次第。

『ノー・エスケープ 自由への国境』© 2016 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.

蛇足になるが、「安い労働力」はアメリカに限らず、どの国も必要としている。
本当にロボットが働いてくれて、人間は楽ができる時代が来るのかどうか知らないが、少なくとも私が生きているうちは無理だろう。
日本も政府がいくら「移民受入れ政策」ではないと言い張っても、実質的には外国人を受け入れ長期にわたって暮らせる制度を作ったのだから、「移民受入れ政策」以外の言葉は見つからない。
なんにも中身がないからっぽの改正法案だったので、どうなるのか心配だが、基本的に私は移民政策、大いに結構、大歓迎。
様々な文化を日本に持ち込んでいただき、日本人と給与の格差なく働いてもらい、その結果、多様な文化が混在し、入り混じることで新たな地平線が開けて来る。
そのためには下劣な外国人差別を許さない土壌を作ろうではないか。
最初は抵抗があるかもしれないが、まず知ること。
知らないから怖くなる。怖くなれば出ていけと言いたくなる。
つまらない差別を受けたこともあるが、世界のあちこちで親切にしていただいた私が心からお願いしたいことである。

文:大倉眞一郎

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『ノー・エスケープ 自由への国境』

メキシコからアメリカへの不法入国を試みる移民たち。車のトラブルにより、徒歩で越境する彼らを、突然謎の銃弾が襲う。摂氏50度。武器なし、水なし、逃げ場なしの中、彼らは命がけの行動に出る。

制作年: 2015
監督:
出演: