母を殺人鬼にした悪魔と電脳対決!?『デモニック』は“ハイテク版エクソシスト”なニール・ブロムカンプ6年ぶり新作

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母を殺人鬼にした悪魔と電脳対決!?『デモニック』は“ハイテク版エクソシスト”なニール・ブロムカンプ6年ぶり新作
『デモニック』©2021 Unlocked Financing and Distribution, LLC and Lock The Door Productions. LLC All Rights Reserved.

ブロムカンプ流“ハイテク悪魔払い”映画

老人ホームに放火して21人を焼殺。さらに教会の聖水に毒を入れ11人以上の信者を殺し、有罪判決を受けた極悪殺人鬼アンジェラ。20年後、彼女は昏睡状態に陥り“セラポール”と呼ばれる医療施設に収容されていた。アンジェラの娘カーリーは事件以来、母に会っていなかったが“セラポール”はアンジェラの治療のためカーリーに協力を依頼する。

母が突如殺人鬼に豹変した理由を探るため、“セラポール”に向かうカーリー。すると医師は「開発中のVR技術を用い、昏睡状態にある彼女の思念に入り込んで事件の真相を暴いてほしい」というではないか。半信半疑で母の思念に入りこむと、そこには悪魔によってズタボロにされたアンジェラの精神世界が広がっていた。アンジェラは悪魔に取り憑かれ凶行に至ったのである。

『デモニック』©2021 Unlocked Financing and Distribution, LLC and Lock The Door Productions. LLC All Rights Reserved.

そして今、悪魔は昏睡状態で動けなくなったアンジェラの体から脱出するため、新たな宿主としてカーリーに目を付けた。実は“セラポール”は、最新技術を駆使して悪魔と戦うバチカンの組織。カーリーは悪魔を誘き寄せる餌として彼らに利用されたのだ! こうして悪魔に追われるカーリーと“セラポール”の戦いが始まった……。

『デモニック』ニール・ブロムカンプ監督の6年ぶりの新作。『第9地区』(2009年)、『エリジウム』(2013年)、『チャッピー』(2015年)で未知のテクノロジーを軸に、持てる者と持たざる者を対比させ社会格差を描いてきたニール監督だが、今回は趣向を変えて悪魔払いが主題となっている。ついでにいうと、ニール作品の常連、性格俳優シャールト・コプリーもいなければ、ワイルドな画角で我々を魅了してきた撮影監督トレント・オパロックもいない。だが、そこはニール・ブロムカンプ。いつも通りVR技術医療という“先端テクノロジー”を導入。“持たざる者”としての“悪魔憑き”を設定した。

『デモニック』©2021 Unlocked Financing and Distribution, LLC and Lock The Door Productions. LLC All Rights Reserved.

あえて非リアルに作り込まれた仮想世界=破壊された精神世界

精神世界に入り込み悪と戦ったり、VR世界での負傷が現実世界にも影響したりするのはホラー/SF映画ではよく使われる手法だ。だからストーリーだけを聞くと目新しさはないように思える。しかし、バチカンが医療施設を装い、全身刺青のムキムキマッチョな戦闘部隊とともに悪魔と日々対決しているという突飛な設定はなかなか面白い。

バチカンに行ったことがある方なら分かると思うが、実際のバチカンはそんなハイテク医療とは無縁の世界だ。近衛兵も国として軍隊を持っていないため、派手な服のスイス傭兵を門に立たせているだけ。ましてやムキムキマッチョな戦闘部隊がいるわけがないのだ(ぶっちゃけ今のバチカンは財政難で、そんなことをやっている場合ではないのだ……)。

『デモニック』©2021 Unlocked Financing and Distribution, LLC and Lock The Door Productions. LLC All Rights Reserved.

加えて、精神世界の表現もユニーク。『デモニック』では、ソニー主体で開発された3D映像表現技術「ボリュメトリックキャプチャ」を利用している。実世界をまるごと取り込んで、後から自由に視点を動かすことができる最新技術だ。だからほぼ実写と見分けがつかない仮想世界を表現できるわけだが、本作の仮想世界はリアルとはほど遠い。モアレでジャギジャギな背景、描画遅延によるテクスチャ欠けなど、観たこともないような不自然な“粗さ”で、見事に「悪魔によって破壊された精神世界」を表現している。リアルに取り込んだ世界をわざわざ破壊して見せているわけだから、その不自然さに観る者は不安に苛まれる。

これは80年代へのリスペクトとしてヴェイパーウェイブがあるように、21世紀初期の拙い3DCG技術へのリスペクトといってもいいだろう。いまさら悪魔払いをテーマにしたことや、ボディスーツとスーツアクターを起用して巨大なカラス的悪魔を表現していることからも、郷愁めいたものに駆られて本作を制作したのではないだろうか?

『デモニック』©2021 Unlocked Financing and Distribution, LLC and Lock The Door Productions. LLC All Rights Reserved.

映画としての感触は若干地味ながらも、カーリーの強さがとても魅力的。腕が裂けようが、仮想世界に酔ってゲロを吐こうが、果敢に母との絆を取り戻そうと必死なのだ。紫色に染めたボブヘアを振り乱しながら、バチカン軍団もうっちゃって悪魔と肉弾戦を行うなど、もはや彼女の一人勝ち。逆にバチカン軍団が弱すぎて「あれれ?」と思ったりもするが、やはり資金が足りない故の訓練不足なのだろうか?

いま観ておくべき“未体験”映画

さて、ニール監督は『チャッピー』の後、長編映画へと繋がるアイディアを実験短編作品として発表するため、地元・南アフリカで映画製作会社<オーツプロダクション>を設立した。『デモニック』のアイディアは、その中で生まれたものだそうだ。

『ロボコップ』(1987年)や『エイリアン』(1979年)関連の企画が連続してボツになった彼は、一度ハリウッドから離れて、自分の映画監督たるアイデンティティを取り戻そうとしたのだ。もしかすると『デモニック』で描かれた悪魔はハリウッドなのかもしれない。

『デモニック』©2021 Unlocked Financing and Distribution, LLC and Lock The Door Productions. LLC All Rights Reserved.

次作『第10地区』(公開日未定)でハリウッドに復帰予定のニール。彼に取り憑いていた悪魔は、どんな傷跡を残したのか、観るのが楽しみである。加えてニールは、前述したバチカン軍団の正体についてこう述べている

「これまでの映画と違って、スケールが小さいと思うだろ? でもね、あのバチカン軍団。彼らの全容はまだ1%も明かしてないんだよ」

もしかすると、ムキムキマッチョvs戦闘部隊と悪魔払いという、ド派手なオカルトアクションスピンオフが作られるかもしれない。そのためにも『デモニック』は、いま観ておくべき未体験映画なのだ。

文:氏家譲寿(ナマニク)

『デモニック』は2022年1月7日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、2月24日(木)よりシネ・リーブル梅田で開催中「未体験ゾーンの映画たち 2022」にて上映

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『デモニック』

故郷に戻って来たカーリーは、絶縁していた母アンジェラが、全身マヒで昏睡状態になっていると伝え聞く。看護師だった母は、老人ホームに放火し大量殺人を犯して逮捕され、カーリーは母との関係を断ち故郷を離れたのだった。カーリーは、母が保護されている医療新興会社セラポールを訪れる。そこには、全身傷だらけで眠る母の姿があった。医師のマイケルから、「シミュレーション」と呼ばれる意識へと繋がる仮想空間に入り、母を呼び戻して欲しいと頼まれる。カーリーは半信半疑ながらも仮想空間へ入ると、確かには母そこにいた。しかし、母は久しぶりに再会したカーリーに「ここから出ていけ。あなたを危険にさらしたくない。」と告げる―。

制作年: 2021
監督:
脚本:
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