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緊急脱出口としての窓!アクション映画の心髄を感じる『ボーン・アルティメイタム』【窓と映画】

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ライター:#齋藤敦子
緊急脱出口としての窓!アクション映画の心髄を感じる『ボーン・アルティメイタム』【窓と映画】
『ボーン・アルティメイタム』
Blu-ray:1,886円+税/DVD:1,429円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
© 2007 Universal Studios and Motion Pictures BETA Produktionsgesellschaft mbH & Co. KG. All Rights Reserved.
観客の度肝を抜くアクションシーンを生み出す『ジェイソン・ボーン』シリーズ。トリロジーの最終章にあたる3作目『ボーン・アルティメイタム』では、アクション映画史に残る、スペクタクルな窓を使った逃走劇がある。今回は、窓に注目して、作品をご紹介したい。

窓へのダイブを見直すたびに、スタントの素晴らしさを感じる

『ボーン・アルティメイタム』© 2007 Universal Studios and Motion Pictures BETA Produktionsgesellschaft mbH & Co. KG. All Rights Reserved.

アクション映画の窓は、ほとんどが緊急脱出口として使われる。ドアから逃げればいいのに、とも思うが、ドアを開けた途端に隠れていた悪漢(あるいは警官)に襲われたりするし、窓なら外が見えるから安心だ。それに、アクション映画の窓はたいてい高い所にあって、脱出そのものがスペクタクルになる。

窓を使った驚くべき緊急脱出といえば、『ボーン・アルティメイタム』に登場する。正確に言えば脱出ではなく、暗殺者に襲われそうになったヒロインを助けるため、主人公のジェイソン・ボーンが屋上から隣の建物の窓の中へ飛び込むのだが、なんとカメラがボーンの後ろから一緒に窓へ飛び込んでいくのだ。このショットには度肝を抜かれた。

記憶を失った暗殺者ジェイソン・ボーンを主人公としたシリーズは、ボーンの登場しないスピンオフを除いて4本あるが、最初の3本がトリロジーになっていて、『ボーン・アルティメイタム』は最終話にあたる。主人公を演じたマット・デイモンの本格アクション映画進出でもあり、彼のキャリアの転機となった。

記念すべき第1作『ボーン・アイデンティティー』はダグ・リーマンの監督で、まだ原作者ロバート・ラドラムの存命中に製作が始まったためか、シリーズ中、最も原作に忠実だ。背中を撃たれ、記憶を失って地中海を漂流していたところを漁船に助けられたボーンが、自分のアイデンティティーを求めてパリに向かい、かつて自分が属していたトレッドストーン計画の暗殺者たちと対決する。リーマンの演出は手堅いが、今見ると、いかにもハリウッド製のクラシカルなアクション映画といった趣だ。

第2作『ボーン・スプレマシー』から映画のルックが変わる。ここから製作のフランク・マーシャルがスタッフを一新し、監督に抜擢されたポール・グリーングラスが、徹底してリアルな演出を持ち込んだ。ドキュメンタリー出身らしく、撮影はほとんど現地ロケかロケ・セット、手持ちカメラで登場人物を至近距離から追いかけるショットを多用する。カーチェイスも爆破シーンもCGに頼らず、本物に固執。編集が細かくスピーディーになる。ストーリーはベルリンを舞台に、過去の暗殺の落とし前をつけようとするボーンと、消えた送金の謎を追うCIAの切れ者パメラ・ランディの2つのラインが絡まりあって重層的に進んでいく。

第3作『ボーン・アルティメイタム』は、前作でボーンがモスクワから脱出するところから始まり、パリ、ロンドン、マドリッド、タンジールを経て、トレッドストーン計画が誕生したニューヨークで決着を迎える。前作のような錯綜したストーリー展開ではなく、ボーン対CIAの都市から都市へのチェイスそのものがストーリーを織りなしていく。このタンジールの場面で、冒頭に記した最もスペクタクルな窓へのダイブが登場する。

『ボーン・アルティメイタム』© 2007 Universal Studios and Motion Pictures BETA Produktionsgesellschaft mbH & Co. KG. All Rights Reserved.

プロの映画職人たちの熟練の技と心意気

ボーンは、トレッドストーン計画でパリの連絡員を務めていたニッキーを連れ、計画の秘密を知るダニエルズを追ってモロッコのタンジールにやってくる。CIAの命を受けた暗殺者デッシュが二人を追い、三つ巴のチェイスは、途中ダニエルズの爆死で警察が加わり、四つ巴となって、市場の雑踏から屋上へ。そこでボーンは、ニッキーを銃で狙うデッシュを発見し、彼女を救うために窓の中へ飛び込んでいく。

このボーンの空中ダイブを演じたのは、デイモン本人でなく、スタント・ダブルのデヴィッド・リーチである。画面で見るとほんの一瞬だが、体がしなやかで空中姿勢がとても美しい。その彼を、スタントマンのディズ・シャープに手持ちカメラを持たせ、追いかけさせたのは第2班監督のダン・ブラッドリーだ。まったく恐るべきことを思いつく人である。思いつくだけでなく、可能にしてしまうところも凄い。おそらく彼が、いくら素晴らしいアクションでもCGで合成されたものに人は感動しない、俳優が実際に行うからこそ感動するのだ、ということを肌で知っているからだろう。この窓へのダイブを見直すたびに、スタントの素晴らしさもさることながら、一瞬の感動に命を賭ける、プロの映画職人たちの熟練の技と心意気を感じて、襟を正したくなる。アクション映画の心髄は、CG全盛の今でも(いや、だからこそ)、体を張ったアクションにある、と思うからだ。

文:齋藤敦子

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『ボーン・アルティメイタム』

世界的大ヒット・スパイ・アクション シリーズ最強・最終章!記憶を失い、戦闘マシンと化したジェイソン・ボーンが自らのアイデンティティーを求める旅も、ついに佳境を迎える。すべての謎は、いま、明かされようとしている・・・。

制作年: 2007
監督:
出演: