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いま「進化系オムニバス映画」が面白い! 注目4作『カム・アンド・ゴー』『悪なき殺人』『スパゲティコード・ラブ』『ゾッキ』

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ライター:#谷川建司
いま「進化系オムニバス映画」が面白い! 注目4作『カム・アンド・ゴー』『悪なき殺人』『スパゲティコード・ラブ』『ゾッキ』
『スパゲティコード・ラブ』©『スパゲティコード・ラブ』製作委員会

かつて劇映画のフォーマットのひとつとして、“オムニバス映画”と呼ばれるスタイルが人気を博していた時代があった。最近ではその言葉自体がほとんど聞かれなくなってきているが、その実、今日風に形を変えたオムニバス映画と位置付けてよいのではないかと思える作品が、洋画・邦画を問わず増えているような気がしてならない。

そもそも、短いエピソードをいくつか束ねて全体として一つの作品に仕上げる、というのがオムニバス映画の手法。料理で言えば、フルコースではなく小皿料理をたくさんとって食べる飲茶のようなスタイルだ。YouTubeなりTikTokなりの短い映像に慣れ親しんでいる若い世代には、最も適したスタイルなのかもしれない。今回は、そんな今日風オムニバス映画の新作の中からオススメ作品をいくつか紹介したい。

『ゾッキ』©2020「ゾッキ」製作委員会 ©Hiroyuki Ohashi/KANZEN 2017

昔の“オムニバス映画”はともかくも豪華だった

かつての典型的なオムニバス映画は、たとえば20分程度のエピソードを5つとか、40分程度のエピソードを3つとか束ねて一本の映画とするパターンで、それぞれのエピソードを一人の監督が通して担当する場合と、別々の監督が担当する場合があり、ストーリー的にはそれぞれのエピソードが完全に独立している場合と、何らかの共通項がある場合があった。

たとえば、フランスの巨匠ジュリアン・デュヴィヴィエの『運命の饗宴』(1942年)は一着の燕尾服がさまざまな人物の手に渡り、それぞれの主人公の運命に影響する話だし、アンソニー・アスクィスの『黄色いロールスロイス』(1964年)は一台の名車が次々とオーナーを変えて、それぞれのオーナーの物語が描かれていた。どちらの場合も各エピソードに豪華絢爛たるキャストが組まれているのが特徴で、前者だとシャルル・ボワイエ、チャールズ・ロートン、ヘンリー・フォンダ、ジンジャー・ロジャース、エドワード・G・ロビンソンといったスターたち、後者だとレックス・ハリソン、ジャンヌ・モロー、シャーリー・マクレーン、ジョージ・C・スコット、アラン・ドロン、イングリッド・バーグマンといったスターたちを、一本の映画で見られるというのが売りだった。

『世にも怪奇な物語』(1967年)はエドガー・アラン・ポーの3編の短編小説を、ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、そしてフェデリコ・フェリーニがそれぞれ監督するという豪華版だった。近年だと、『11’09”01/セプテンバー11』(2002年)がアメリカで起こった同時多発テロをテーマに、世界の11人の監督がそれぞれ11分9秒01の長さの短編で描くという試みで、フランスのクロード・ルルーシュ、イギリスのケン・ローチ、アメリカのショーン・ペンらと共に日本からも今村昌平が参加して話題となった。

アジアの各国のスターたちがオオサカを舞台に繰り広げる群像劇『COME & GO カム・アンド・ゴー』

2021年の第33回東京国際映画祭でも上映された、中華系マレーシア人監督リム・カーワイの新作『COME & GO カム・アンド・ゴー』は、アジアのさまざまな国々に出自をもつ数多くの登場人物の物語が複雑に交錯し合う様子を紡いでいく作品だが、ここでの主役はある意味でオオサカのキタという街そのものだと言える(“大阪の北”と表記するよりも、カタカナのほうがミステリアスで享楽的で暴力的で、どこかオモロイこの街に集う“彼ら/彼女ら”にとってはふさわしい)。

『COME & GO カム・アンド・ゴー』©️ cinema drifters

台湾からやってきたアイドルオタクの中年男、中国からの団体ツアー客の中でひとり浮いてしまっているおじさん、ネパールからやってきてレストラン開業を目指す青年、学費支払いのためにバイトを掛け持ちするミャンマー人女子学生、韓国から団体でやってきて性的サーヴィスを伴う接客業を強要される女の子たち、マレーシアから出張でやってきた裕福なビジネスマン、冷えた関係の妻との破たんに直面する日本人の中年刑事、ブラック企業に搾取されるベトナム人技能実習生……。

『COME & GO カム・アンド・ゴー』©️ cinema drifters

さまざまな登場人物をそれぞれの国の実力派スターたちが演じているのも話題だが、それぞれの物語を圧倒的な真実味と絶妙なバランスでまとめあげたカーワイ監督の手腕が素晴らしい! 時に彼らは、ふとした偶然から知り合って互いの人生に影響を与えたりするのだが、よく練られた脚本は見終わったときに不思議な余韻を残す。この秋必見の一本だろう。

5000キロも離れた二つの舞台が交錯する傑作スリラー『悪なき殺人』

一方で、ドイツ出身ながらフランスで活躍するドミニク・モル監督の『悪なき殺人』もまた、南仏のコース高原という雪深い田舎町で起こった殺人事件をめぐって、互いに何の接点も無かったはずの六人の男女の運命がふとした偶然から絡み合っていった様子を、5つの物語をそれぞれ別個に描くことによって解きほぐしていく、という構成の作品。

『悪なき殺人』© 2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076

夫に内緒で隣の若い牧場主と不倫している妻、チャットで知り合った見ず知らずの若い女に入れ込むその夫、心を病みネクロフィリアとなった牧場主(妻の愛人)、夫がいながら20歳も若い女性との愛人関係を持つ中年女、その彼女を追いかけて別荘までやってきた若い愛人の女性、そしてコース高原からは5000キロも離れた西アフリカのコートジボワールでネット詐欺にいそしむ若者アルマン。――そのそれぞれの視点での物語が、あたかも黒澤明監督の『羅生門』(1950年)のように、時間を遡って次々と描かれていくうちに、観客はようやく物語の全体像を把握することになる。

『悪なき殺人』© 2019 Haut et Court – Razor Films Produktion – France 3 Cinema visa n° 150 076 ©Jean-Claude Lothe

殺人や不倫といったフィルム・ノワール的な設定とスタイリッシュな映像で観客を画面にくぎ付けにしながらも、見終わったときに、誰もが今の自分に足りていない何かを追い求めずにいられないという人間の真実の姿に感慨を抱かずにいられず、深く考えさせる作品だ。こちらも2021年に公開される洋画の中で一、二を争う傑作だ。

日本からは13人の若者たちのリアルを描き出す意欲作が登場!

今日風オムニバス映画は、何もアジアやヨーロッパの監督たちだけの専売特許ではない。日本からも、満島ひかり「ラビリンス」のミュージック・ビデオで注目を浴びた映像クリエイター、丸山健志の初監督作品『スパゲティコード・ラブ』が気を吐いている。

『スパゲティコード・ラブ』©『スパゲティコード・ラブ』製作委員会

“スパゲティコード”とは、解読不能なほどに複雑に絡み合ったプログラミング・コードのことを言うそうだが、ここではトーキョーという誰もが憧れ、誰もが夢を掴み取ろうともがき苦しみ、誰もが何らかの挫折を味わう街を舞台に、シンガーソングライターを目指して路上で歌う女性、その元恋人で住まいを持たずに生きる青年、アイドルに心を寄せるフードデリバリーの青年、妻子のいる男性との不倫の愛を絶対に手放したくない女性、ビッグチャンスを掴む売れないカメラマン、親の七光りで売れっ子となっているモデル、アイスクリーム依存症の女性、恋愛占いに大金をつぎ込む女性、宿題として出された「自分の将来設計」のレポートを書こうと苦しむ高校生、といった13名の日本の若者たちのリアルな日常が描かれていく。

『スパゲティコード・ラブ』©『スパゲティコード・ラブ』製作委員会

その誰もが、誰かとの繫がりを求めて、夢を諦めきれなくて、トーキョーという巨大な街のどこかに居場所を探し続けて、時に互いに全く気付かぬまま街ですれ違っていたりするという見立ては、地方都市(石川県金沢市)出身の丸山監督ならではの繊細な視点だろう。東京で生まれ育った筆者にとっては、この都会に住む人の80%くらいは地方から出てきた人たちなんだろうなぁという普段あまり意識していない現実というか、異なる視点から見た別の東京を見るようで新鮮だった。

三人の曲者俳優たちが監督を務め、漫画家・大橋裕之の世界を実写化した『ゾッキ』

2021年4月に劇場公開された意欲作『ゾッキ』が、早くもDVDで発売された。原作である大橋裕之のマンガ(「ゾッキA 大橋裕之 幻の初期作品集」、「ゾッキB 大橋裕之 幻の初期作品集」、「ゾッキC 大橋裕之作品集」)の独特の世界観自体が素晴らしいのだが、この短編集を一本の映画にしてしまうと一体全体どういうことになるのか、と思っていたら、「なるほど、その手があったか!」と思わず膝を叩きたくなるような作品に仕上がっていて、お得感満載だった。

『ゾッキ』DVD発売中
価格:¥4,180(税込)
発売・販売元:ギャガ

まず、監督を竹中直人、山田孝之、斎藤工という一癖も二癖もある役者たちが務めているのが目を引くが、昔風の個々のエピソードをそれぞれ別の監督が撮ったという形――それはそれでコンペティティブになり、『世にも怪奇な物語』では一番年長のフェリーニが一番ぶっ飛んだ新解釈で唖然とさせられたように魅力があるのだが――にはせず、あえてどの部分を誰が撮ったのかを明確には提示せずに全体を一本の作品としているのが、まさしく今日風オムニバス映画の趣だ(劇場でパンフレットを買うとどのエピソードを誰が撮ったのかは判るのだが)。

『ゾッキ』©2020「ゾッキ」製作委員会 ©Hiroyuki Ohashi/KANZEN 2017

全体のまとめ役は、もちろん世代的に年長の竹中直人なのだが、原作者・大橋裕之とほぼ同世代の他の二人をプロジェクトに引き込んで思う存分撮らせているだけでなく、最も映像にしにくいであろうと推察されるエピソード(恐怖のマネキン!)に果敢に挑戦している勇気、そして『ウルトラQ』(1966年)のオープニングとして故・中野稔さんが創ったマーブルの渦のタイトルバックへのリスペクト、ピエール瀧の登場のさせ方に見られる愛(その部分の演出は竹中直人ではないのだが)などに今回も大いにうならされた。監督作品も『無能の人』(1991年)から数えて9本目。――最早、名人芸の域に達しているように感じるのは筆者だけだろうか? 未見の人はぜひDVDで観てほしい一編だ。

文:谷川建司

『COME & GO カム・アンド・ゴー』は2021年11月19日(金)より全国順次公開

『悪なき殺人』は2021年12月3日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開、12月4日(土)よりデジタル公開

『スパゲティコード・ラブ』は2021年11月26日(金)より渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開

『ゾッキ』Blu-ray・DVD発売中

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