気鋭監督コンビが明かす! ジャネール・モネイ主演スリラー『アンテベラム』は“二度と経験したくない悪夢”から生まれた!?

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ライター:斉藤博昭
気鋭監督コンビが明かす! ジャネール・モネイ主演スリラー『アンテベラム』は“二度と経験したくない悪夢”から生まれた!?
『アンテベラム』©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

気鋭の監督コンビ×ジャネール・モネイ

「まったく先が読めない」「予想外の展開と意外なラスト」――これらはサスペンスやスリラーの魅力だが、もはや斬新なアイデアは出尽くしている感もある。それでも稀に、究極のサプライズが仕掛けられた作品が登場する。『アンテベラム』は、そんな一本だ。

『アンテベラム』©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

奴隷制度の下で過酷な労働を強いられているエデン。そして、急進的な思想の社会学者でベストセラー作家のヴェロニカ。まったく境遇が異なる2人のキャラクターだが、演じているのは、ともにジャネール・モネイ。なぜなのか? はっきり言って、ここから先は予備知識をできるだけ少なくして、作品と向き合った方がいい。

この大胆&斬新なシチュエーションのスリラーを完成させたのは、ジェラルド・ブッシュクリストファー・レンツという気鋭のコンビ。『アンテベラム』が初の長編監督・脚本作となるが、間違いなく今後、注目のクリエイターとなるであろう彼らに、そのオリジナルな発想の原点、2人の共同作業などについてインタビューした。

ジェラルド・ブッシュ&クリストファー・レンツ ©Ryan DeForeest

「あんな夢は、もう二度と経験したくない(笑)」

―『アンテベラム』のアイデアの源は「夢」だったと聞いています。

ジェラルド:基本的に何かを創作する際は、テクノロジーから距離を置き、あれこれ空想しながら思いを巡らせます。でも今回は特殊でした。あまりに心がざわめく悪夢を見たんです。超自然現象に遭遇したレベルでしたね。ですから目を覚ましてすぐに、その夢の詳細を書き留めました。それを中核にして、クリストファー(・レンツ)とともに脚本に発展させていったんです。

―かなりインパクトのある悪夢だったわけですね。

ジェラルド:あんな夢は、もう二度と経験したくないですね(笑)。本当に恐ろしかったです。創作のインスピレーションがどこから来るのか、つねに意識している僕にとっても、これはかなりレアなケースでした。

『アンテベラム』©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

―脚本の段階から、お2人での共同作業なのですか?

クリストファー:話し合ってアイデアをまとめていますが、執筆自体は個別の作業です。僕があるシーンを書いて、ジェラルドに確認してもらう。そのたびに問題があれば解決しながら、最終の脚本に仕上げていきます。だから完成された時点で、僕ら2人のビジョンも一致しており、そのまま撮影時の指示を出すことができる。現場でもつねに一緒です。僕らは15年近くこのスタイルを続けているので、別々の作業というのは考えづらいですね。

ジェラルド:もちろん監督、あるいは他の監督コンビは、それぞれ最適なやり方があるでしょう。僕らは同じ空間で脚本を作り、その脚本にとてつもない敬意を払い、統一されたビジョンで現場に入ります。ですから、僕らは現場の“両親”のような存在になるわけです。たとえば衣装デザイナーから何か質問があって、クリストファーに聞こうとしたけれど、僕を捕まえる方が簡単だったら、そっちに行く……という感じ。つねに意見は統一されているので問題ありません。

『アンテベラム』ジェラルド・ブッシュ&クリストファー・レンツ ©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

「現在も起こりうる南北戦争“的”な内戦をイメージしてもらいたかった」

―『アンテベラム』はエデンとヴェロニカ、2つのパートで構成されています。まずエデンの物語で始めたのは意図的ですか?

ジェラルド:そうですね。まず南北戦争以前の南部のプランテーションに観客を連れて行きたかったのです。その世界に浸ってもらうことが、この作品の魔法の一部です。もし逆にしたら、僕が見た悪夢とは違ってくるので、あくまでもアイデアの源を尊重したのが、このスタイルです。

『アンテベラム』©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

―エデンとヴェロニカの両方を演じるジャネール・モネイには、どんな演出をしたのですか?

ジェラルド:僕らがジャネールに伝えたのは、“静かに煮えたぎる力”ですね。言葉を発せずに問題を解決する状況になるので、その役が実生活でどんなスキルを持ち、それをどう役立てるかを意識してもらいました。

『アンテベラム』©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

―作品のメインビジュアルは、そのジャネールの口を真っ赤な蝶が覆っていて、『羊たちの沈黙』(1991年)を連想させます。

ジェラルド:あのポスターはライオンズゲート(スタジオ)が作ったので僕らの管轄外ですが(笑)、蝶はメタモルフォーゼ(変身)の象徴。とくにアメリカで、サナギから姿を変える蝶は「他の場所へ行って自由になる」存在です。その意味も含め、本作では冒頭から蝶を登場させています。

『アンテベラム』©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

―タイトルの『アンテベラム』は日本人にはなじみがない単語で、謎めいています。

クリストファー:この「アンテベラム」という単語もジェラルドの悪夢に出てきたので、タイトルに使ったのです。この映画が公開されるまでは、アメリカでもそんなに頻繁に使われる単語ではなかったですね。

ジェラルド:アンテベラムは「内戦以前」という意味で、アメリカでは、その内戦が南北戦争を示すことが多いです。過去の南北戦争はもちろん、現在も起こりうる南北戦争“的”な内戦を、観客にイメージしてもらいたかったんです。

『アンテベラム』©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

「あちこちにイースターエッグを仕掛けています」

―その意味で『アンテベラム』では人種問題も重要なテーマですが、ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』(2017年)や『アス』(2019年)、また『キャンディマン』(2021年)のように、スリラーやホラーに人種問題を濃厚に絡めるスタイルは、近年のハリウッドの傾向ですね。

ジェラルド:たしかに現在のアメリカの状況では、人種問題など社会的テーマを盛り込まないと“無責任”という空気があります。とくにスリラーのジャンルでは、こうしたテーマが観客にとっても深い印象を与えるし、対話を促進するきっかけにもなるでしょう。でも、基本的に僕らは芸術としてのクオリティや、何を伝えたいのかに集中します。スリラーなら怖がらせることも意識します。何より観客を映画館で楽しませることが最大の目的なのですが……。

『アンテベラム』©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

―「楽しませる」という意味で、『アンテベラム』のような作品では、前半から結末への伏線が仕掛けられ、それをどこまで観客がキャッチするか、という楽しみもありますよね。

クリストファー:そのとおりです。僕らは前半から、あちこちにイースターエッグ(思わぬ場所に隠された伏線)を仕掛けています。二度目に観れば「なるほど」という描写です。

ジェラルド:それこそ、まさに劇場で観ることの重要性につながります。早送りしたり、シーンをスキップしたりできないので、全体の流れを経て、僕らが仕掛けたイースターエッグの二重の意味に気づくわけです。アメリカよりも日本の映画ファンの方が、こうしたイースターエッグの発見が好きなのはよく知っています。ですからなおさら、アメリカでは劇場で観てもらいたいんですよ。僕らが仕掛けたシンボルは、映画の中でカギになるだけでなく、この国のカルチャーとして大きな意味を持ったりしていますから。

『アンテベラム』©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

「『風と共に去りぬ』の“誤解”を修正しようとした」

―1939年の『風と共に去りぬ』と同じカメラのレンズを撮影に使ったというのは本当ですか?

ジェラルド:はい。『風と共に去りぬ』で使われた2種類のレンズを手に入れることができました。同作では、南北戦争以前の南部で奴隷にされたアフリカ系アメリカ人がどのように感じたのか。誤った部分も含め、ある種のプロパガンダが形成されてしまいました。あの映画で、プランテーションが奴隷に最適な場所だと伝わったのです。だから僕らはあえて同じレンズを使って、その誤解を修正しようとしました。効果的でしたね。

『アンテベラム』©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

―今後もお2人で共同作業を続けるのですか? どんな方向性で作品を撮るのでしょうか。

ジェラルド:これまで15年近く一緒に創作してきたので、すぐに別々の道を進むことはありません。次の長編映画は『Rapture』(有頂天、狂喜という意味)というタイトル。あとHBO MaxのTVシリーズで、表面的にはサーファーに焦点を当てつつSF的なひねりを入れた、“とてつもない何か”が現れてくる作品に取り掛かっています。監督によってコメディを追求したいとか、ものすごいアクション映画を撮りたいとか、いろいろ方向性があると思いますが、僕らが追いかけるのは、人々が直面する緊急の問題です。抑圧される人々や、地球の気候問題なんかをリサーチしていて、そうした問題を自作を通して多くの観客に届けたいですね。

クリストファー:今の答えがすべてなので僕が追加することはありませんが(笑)、コロナ禍を経験して、僕らには『Rapture』のためネタがたくさんあるような気がします。ひとつだけ言えるのは、僕らはジャンルやテーマをあれこれ探索しながら、人間の感情や経験から生まれる作品を完成させる、ということでしょうか。

ジェラルド・ブッシュ&クリストファー・レンツ ©Kyle B. Kaplan

取材・文:斉藤博昭

『アンテベラム』は2021年11月5日(金)より全国公開(TOHOシネマズ シャンテのみ11月7日[日]より)

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『アンテベラム』

リベラル派として知られるベストセラー作家のヴェロニカは、心優しい夫、幼い娘と幸せに暮らしていた。ある日、エリザベスと名乗る謎めいた女性のオンライン取材をこなした彼女は、講演会のために単身ニューオーリンズを訪れる。力強いスピーチで拍手喝采を浴びたヴェロニカは、現地で合流した親友らと高級レストランでのディナーに繰り出す。しかしその行く手には、公私共に順風満帆なヴェロニカを奈落の底へと突き落とす恐ろしい罠が待ち受けていた……。

奴隷制度を信奉する南軍の旗が掲げられたアメリカ南部のプランテーション。ここに囚われの身となったエデンは、過酷な労働を強いられていた。脱走を試みた者は監視役に殺され、焼却炉で処分される。自由に言葉を発することも禁じられたエデンは、屈辱と恐怖の日々を耐え忍び、脱出のチャンスをうかがっていた。やがてある悲劇をきっかけに、エデンは奴隷仲間の男性イーライとともに脱走計画を実行するが……。

まったく異なる境遇を生きるヴェロニカとエデンは、それぞれ自分が突然引きずり込まれた理不尽な極限状況さえのみ込むことができない。果たして、彼女たちを脅かす得体の知れないものの正体とは何なのか。そして、ヴェロニカとエデンが生き延びるために解き明かさなくてはならないものとは……?

制作年: 2020
監督:
出演:

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