アヌシュカ&ラーナー・ダッグバーティ共演『ルドラマデーヴィ 宿命の女王』に込められた現代的メッセージ

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ライター:安宅直子
アヌシュカ&ラーナー・ダッグバーティ共演『ルドラマデーヴィ 宿命の女王』に込められた現代的メッセージ
『ルドラマデーヴィ 宿命の女王』© Gunaa Team Works all rights reserved © Sri Thenandal Films all rights reserved.
前回は南インド映画へのいざないの前口上を書きましたが、今回は個別作品にズームインして、CS映画専門チャンネル ムービープラスで放送している2015年のテルグ語映画の話題作『ルドラマデーヴィ 宿命の女王』についてご紹介します。

『バーフバリ』デーヴァセーナ役アヌシュカ主演!主役級の豪華俳優陣が脇を固める

『ルドラマデーヴィ 宿命の女王』© Gunaa Team Works all rights reserved © Sri Thenandal Films all rights reserved.

監督は『バブーをさがせ!』のグナ・シェーカル。放送(CS映画専門チャンネル ムービープラス)をご覧になる多くの方のお目当ては『バーフバリ』のアヌシュカとラーナー・ダッグバーティでしょう。その他にもアッル・アルジュン、キャサリン・トリーサ、ニティヤ・メーノーン、プラカーシュ・ラージなど、普段は主役を張るクラスの俳優たちが脇を固める贅沢さです。プラバースの伯父であるクリシュナム・ラージュが国王役で登場するのも見逃せません。

本作は、テルグ語映画としてはかなり珍しい、中世の歴史を描いた作品です。カーカティーヤ朝のルドラマ女王は13世紀後半の実在の人物です。当時の南インドは戦国時代と言っていい群雄割拠の状況でした。現在のテランガーナ州ワランガルあたりを主邑としたカーカティーヤ朝の起源は、ラーシュトラクータ朝に連なる軍閥でしたが、やがて独立国となり、ガナパティデーヴァ王(在位1199-1262年)の治世に黄金期となりました。王は長女であるルドラマを王位継承者に定め、自らの在位中から共同統治者として経験を積ませます。父王の死後、王位継承に当たっては、廷臣・親族からの反発も大きく、宮廷内クーデターも起きましたが、これを平定して即位したルドラマ女王(在位1262-90年)は、周辺国からの絶えざる侵略に応戦しながらも統治を行い、名君との評判を得ました。ルドラマは1290年ごろに叛乱軍との戦いのさなかに命を落とします。彼女は夫である東チャールキヤ朝の王族ヴィーラバドラとの間に二人の女子をもうけており、長女ムンマダンマの息子であるプラターパルドラが王位を継ぎます。この王はデリーに興きたトゥグルク朝との闘いで敗れ、ここでカーカティーヤ朝は滅亡します。映画はルドラマの子供時代から即位までを、史実をかなり自由に改変しながら描きます。

『ルドラマデーヴィ 宿命の女王』© Gunaa Team Works all rights reserved © Sri Thenandal Films all rights reserved.

「時代考証はあまり気にせず自由にイマジネーションを広げる」

さて、「自由に改変しながら」と書きましたが、実はインド映画には本当の意味での歴史ものが少ないのです。フィクションにしろ、史実に基づいたものにしろ、剣戟(つまりチャンバラ)と組み合わせた歴史劇が盛んな、日本・中国・韓国などの東アジアと対照的です。英国の植民地統治に対抗する19世紀後半からの組織的な独立闘争を描くものを除くと、それ以前の時代を扱う作品は、時代考証がかなりいい加減で、なおかつ時代精神というものを描く意思が感じられない、厳密には歴史映画とは言いがたいものが多いのです。

その理由は何といっても史料が少なすぎることなのでしょう。同じく古い文明を誇る中国人が、記録マニアといえるほどに多くの史書を残したのと対照的に、インドの歴史文献資料は近世より前になると極めて限られています。したがって、映画で歴史的なビジュアルを再現するのも大変に困難です。映画作りにおける時代考証という分野が、あまり発達していないのです。手掛かりとして残る歴史的な遺物は、石に彫られたものがほとんどで、衣装や兵器などの参考になる写実性の高い映像史料は、16世紀のムガル朝の細密画あたりからやっと現れてきます。それ以前の人々がどんな衣装をまとっていたかは、細部まで正確には分からないのです。

ではどうするかといえば、「あまり気にせず自由にイマジネーションを広げる」という姿勢で乗り切ってきたのです。確実な史実が少なく、ビジュアルも不確定なのを逆手に取り、自由に筋立てを作り、そこに同時代的メッセージを込めてきたと言えるかもしれません。

インド映画界が抱える女性への不公平さ

本作に込められた同時代的メッセージは何かといえば、ひとつはテランガーナ地域の存在感の提示、もう一つは女性のエンパワーメントだと考えます。

下の地図にあるテランガーナ州は、2014年に成立したインドで一番新しい州です。そしてカーカティーヤ朝というのは、テランガーナの栄光の過去であると位置づけられています。作中に繰り返し現れる特徴的な形をした門は、ワランガル城塞に今も残るもので、テランガーナ州のエンブレム(参考:テランガーナ州観光局ページ)にもなっています。テルグ語映画がテランガーナとどう向き合おうとしているかについては、この先の記事でご紹介できたらと思います。

もうひとつ、女性のエンパワーメントですが、本作ではずばり「女性もリーダーになれる」ということを訴えています。一般的に、作中のヒロインの位置づけから製作現場の映画人の待遇に至るまで、女性への不公平さの傾向は、インド映画全体の課題と言えます。テルグ語映画界はそういう意味では特に大きな問題を抱えていると指摘されています。その中で、メジャー商業作品でタイトルロールを演じ、映画全体を背負って立つ実力・人気・風格を兼ね備えた女優は、南インドではナヤンターラとアヌシュカの二人に限定されているのが現状です。ヒーロー映画そのままの初登場シーンの演出から、エロティックな「後宮」でのダンスまで、縦横無尽のアヌシュカの魅力を、何はともあれ味わっていただけたらと思います。

文:安宅直子

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『ルドラマデーヴィ 宿命の女王』

中世インドのカーカティーヤ朝。新たな世継ぎとして男児の誕生が待ち望まれる中、王家に生まれたのは女児であった。政情が不安定な中、王女は男として育てられることになり、国王の座をつけ狙う王族や隣国からの脅威に立ち向かうべく“王子”として勇ましく成長していく。

制作年: 2015
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