『ぼくの好きな先生』は忌野清志郎が歌う“先生”そのものだった!

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ライター:#大倉眞一郎
『ぼくの好きな先生』は忌野清志郎が歌う“先生”そのものだった!
『ぼくの好きな先生』©2019.Tetsu Maeda
画家・瀬島匠の破天荒な生き様と、圧倒的な作品、そしてRCサクセションの歌にのせて「生きる力」を伝えるドキュメンタリー。

美術恐怖症

『ぼくの好きな先生』©2019.Tetsu Maeda

私が小学校に入学してまもなく写生大会があった。それまで絵を描くことになんか全く興味もなかったし、描いている最中に熱中して筆を振るったなんてこともなかったんだけど、いきなりドーンと金賞に輝く栄誉に輝いてしまった。
講堂に飾られて、私の絵にピカピカの金色の紙が貼り付けてあるのを見て、なんだか凄そうなことじゃん、やったな、10円くれるかもしれん、と凱旋帰宅して親に報告したら、まず母親が「嘘つくな」と怒った。父親も「そんなことがあるわけない」と全く相手にしてくれない。
不思議だ。褒められるべきなのに怒られている。
どういう了見だろうか。
6歳にして世の中を知ったような気分。
「う・そ・じゃ・な・い・けー、見に行ってくれー」とその日のうちに嫌がるバカ親二人を連れて学校に戻った。
私もそこまで疑われると、自分が作り出した幻想だったのかも、と不安になっていたが、やっぱり、金賞は我が頭上に輝いている。
そこから先はあまり覚えていないけど、「あんたの息子を信じなさい、ほれ、信じなさい、ほれ、信じなさい」とクレイジーキャッツの「学生節」を歌いながら帰ったことだけはしっかり記憶にある。

その時以来、絵とはなんであるか、何を持って「いい絵」とするのかの基準がさっぱりわからなくなった。
あるときは池の水の色が何色かわからなくなってピンクを使ってみたら、またしても母親がどうして水がピンクなんだ、といちゃもんをつけてきて一悶着あった。私の絵の才能はこうして潰されてしまったと言っても過言ではない。

そしたら、今度は父親が油絵を始め、これが妙に上手くて、おだてる連中が集まってしまい、精神科医だった父親は自由に手に入る薬物を射ちながら、診察以外の時間は寝ないでアトリエに籠るようになり、廃人寸前。
絵には人生を狂わされたぜ。

そんな時にいて欲しかったのが「ぼくの好きな先生」である。

「先生」と出会うこと

『ぼくの好きな先生』©2019.Tetsu Maeda

この作品、『ぼくの好きな先生』の先生は瀬島匠。
1962年生まれの56歳だが「新進気鋭の作家」として評価されているらしい。
現在、東北芸術工科大学美術科洋画コースの教授。
各地に置いているアトリエを飛び回りながら、寝るか作るかの生活だが、先生もやっている。
この作品はその瀬島に私の好きな『ブタのいた教室』(2008年)、『こんな夜更けにバナナかよ』(2018年)の監督、前田哲が変態的に張り付いて撮ったドキュメンタリー。

先生なんて面倒だろうな、いちいち生徒の制作物に文句言ったり、指導したり、単位やんねーぞ、と脅したり、と凡人万歳の私は思うのだが、瀬島は違う。
学生とのやりとりも作品中でそのまんま使われているのだけど、そうか、これで先生って尊敬されたり、同志のように扱われたりして、慕われるのか、いい仕事だなあ、と羨ましくなる。あれで教えているということになるんだろうか。
教えてやる、という一般的教員の態度が気に入らない私はこの瀬島匠のふわふわと学内を漂えば学生から声をかけられる姿にいたく心を打たれた。
まさに清志郎の歌う「ぼくの好きな先生」そのまま。
しかも、瀬島も前田もRCサクセションのこの曲に大きな影響を受けたらしい。できすぎじゃねーのか。

瀬島の絵はでかい。
ドーンとくる。
息ができない。
描き続けているテーマがある。
それは終盤で明らかになるのだが、そういうことなのかと深く納得する。

創ることが生きることだから、いたって真剣なはずなのだが、どこか肩の力を抜いているようにも感じる、というか、そういう風にしか見えなかったりする。
瀬島はカメラがくっついていることは全然気にならないと言う。気にならないどころか延々と喋りまくる。完成した映画を見て「自分がうるさい」と感じたそうだ。

私は絵はもう小学校で断念したが、写真は40年以上撮り続けているので、瀬島に先生になってくんないかとお願いしようかと思っている。
写真家にお願いすると余計なことばかり言われそうな気がして嫌だもん。
そういう甘い気持ちで瀬島に寄って行くと泣かされたりしそうだけど、こっちの方が年上だから、そこまできついことは言わんだろう。

ぼくの好きな先生は、前田哲監督の『ぼくの好きな先生』の中にいた。

文:大倉眞一郎

『ぼくの好きな先生』は2019年3月23日(土)より新宿ケイズシネマにて公開

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『ぼくの好きな先生』

画家・瀬島匠は東北芸術工科大学で指導しつつ日本中を巡って創作活動を続け、30年間同じ“RUNNER”というタイトルで絵を描き続けている。10代の頃に35歳で死ぬと思い込んでいたが、50歳を過ぎた現在もあり余るエネルギーを撒き散らしながら「全力で今を生きて」いる。しかし「ある宿命」を背負って生き続けていることが明かされる。そこには秘められた「家族の物語」があった……。観る者の心を激しく揺さぶる、熱き人間ドキュメント。

制作年: 2018
監督:
出演: