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ようこそシンセ沼へ! エレクトロ黎明期の青春描く『ショック・ドゥ・フューチャー』 主演はホドロフスキーの孫娘!!

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ライター:#川辺素(ミツメ)
ようこそシンセ沼へ! エレクトロ黎明期の青春描く『ショック・ドゥ・フューチャー』 主演はホドロフスキーの孫娘!!
『ショック・ドゥ・フューチャー』©2019 Nebo Productions - The Perfect Kiss Films - Sogni Vera Films

触れたら最後、底なしシンセ沼

新型コロナウイルスが流行する前、自分はバンドでギターばかり弾いていましたが、最近は家にいる時間が長くなって、前から欲しいと思っていたシンセサイザーを一念発起して購入しました。PROPHET REV2という最近の機種で、結構いろいろなことが出来るのですが、そこからのめり込んで他にも違うシンセや鍵盤のないモジュラーシンセを購入して、今ではシンセサイザー沼にどっぷり浸かっています。

『ショック・ドゥ・フューチャー』©2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

自分で買って真剣に触ってみるまでなかなか面白さが分かっていなかったのですが、シーケンサーで打ち込んだフレーズの音色をひたすらツマミで変化させているうちにすぐ時間が経ってしまい、その間、意識はどこか遠くの方へ……という感じで、とても素晴らしい体験をしています。シンセサイザーの宇宙にすっかり魅せられてしまいました。

そんな自分に、とてもテーマ的に合った映画『ショック・ドゥ・フューチャー』を観て、この記事を書いています。

『ショック・ドゥ・フューチャー』©2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

マニア垂涎のシンセ多数登場! 主演はホドロフスキーの孫娘

主人公のアルマ・ホドロフスキー演じるアナは、シンセサイザーの魅力に取り憑かれた作曲家。ちなみに彼女は『エル・トポ』(1969年)などで知られるアレハンドロ・ホドロフスキー監督の孫とのことで、確かにどこか面影があります。

『ショック・ドゥ・フューチャー』©2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

シンセサイザーは1968年頃よりバンド演奏の中で用いられるようになっていたのですが、本作の舞台となっている1978年でもまだまだ未知の可能性を秘めた新しい存在であり、リズムマシンとシンセサイザーの自動演奏だけで作られる音楽の本格的な流行はまだこれから先、という状況が映画の中でも描かれています。

シンセサイザーや録音機材が多くを占める部屋を丸ごと知り合いに借りたアナが、CM音楽の制作に行き詰まっているところから映画は始まります。部屋に置かれた機材、家具のような大きさのMoogのモジュラーシステムを始めとして、細野晴臣さんの「はらいそ」で使われたYAMAHA CS-80や、スティーヴィー・ワンダーなど名だたるアーティストのレコーディングや数々の映画音楽(例えばR2-D2の声)でも活躍したARP2600などなど、当時の高級機材があり羨ましい限りでした。

『ショック・ドゥ・フューチャー』©2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

シンセ黎明期に多大な貢献をした女性エンジニアへのトリビュート

物語は、仕事上のトラブルから予期せぬ出会いにつながり、アナ本人もアッと驚くような曲が完成します。このあたりは微笑ましい青春映画という感じで、シンセ抜きにイイナアと思えるシーンでした。しかし、当時の音楽業界の男性優位の状況はアナを日常的に不愉快にさせ、アーティストとして身を立てようとする際には困難な壁として立ちはだかります。

『ショック・ドゥ・フューチャー』©2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

もちろん、立場を利用したハラスメントは今もなくなっていないですし、描写がなかなかリアルだなと思いました。ただ密室で行われるパーティーのワクワク感や、これから何かがおこりそうなムードもリアルでキラキラしていて、眩しかったです。

『ショック・ドゥ・フューチャー』©2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

BGMはほぼ全編きらびやかなシンセサイザーのインストゥルメンタルで、思わず自分もどうやったらあの音が作れるかな、と考えながら観ていました。出てくるレコードもThrobbing GristleやSuicideのもので、いかに当時斬新だったかを熱っぽく語るシーンはグッときつつ、自分を観ているようで恥ずかしくもありました。

『ショック・ドゥ・フューチャー』©2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

最近、別のドキュメンタリー映画を観ていて知ったのですが、シンセサイザー黎明期には女性エンジニアなどが多大な貢献をしたようで、それらの方々へのトリビュートとしての側面もこの映画にはあるようでした。機材好きは思わず頷いてしまうような、全く興味ない人も、なんでみんなそんなにシンセシンセ言ってるの? というのがちょっとわかるような、良い楽しみ方ができる映画だと思いました。

『ショック・ドゥ・フューチャー』©2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

文:川辺素(ミツメ)

『ショック・ドゥ・フューチャー』は2021年8月27日(金)より新宿シネマカリテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開

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『ショック・ドゥ・フューチャー』

1978年、パリ。若⼿ミュージシャンのアナは、部屋ごと貸してもらったシンセサイザーで、依頼されたCMの作曲にとりかかっていたものの、納得のいく曲が書けずにいた。すでにプロデューサーと約束した締め切りは過ぎ、明日の朝クライアントに提出しなければならない担当者は、何度も急かしにやって来る。なのに、シンセサイザーの機材が壊れ、修理を呼ぶ羽目に。しかし、修理に来た技術者が持っていた日本製のリズムマシン(ROLAND CR-78)に魅せられたアナは、「これがあれば、ものすごい曲を作れる」と頼み込んで貸してもらう。そこへCM曲の収録用に依頼されていた歌手のクララが現れ、話しているうちにアイデアが浮かんだ2人は即興で曲を作り始めた。果たして、大物プロデューサーも参加するはずの今夜のパーティまでに、アナは未来の音楽を完成させることができるのか――。

制作年: 2019
監督:
出演: