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板垣瑞生は“心を閉じたモテ男”をどう演じた?『胸が鳴るのは君のせい』を“台本以上のものにする”俳優としての矜持

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ライター:#関口裕子
板垣瑞生は“心を閉じたモテ男”をどう演じた?『胸が鳴るのは君のせい』を“台本以上のものにする”俳優としての矜持
板垣瑞生

俳優・板垣瑞生にとっての“演技”とは

映画『胸が鳴るのは君のせい』は、クールな転校生の有馬隼人(浮所飛貴)と、明るくしっかり者の篠原つかさ(白石聖)の友情が、いつしか恋心へと変化していく高校を舞台にした青春ラブストーリー。この作品がいわゆる“胸キュン映画”と少し異なるのは、恋の手順だけでなく、ある恋に向き合うヒロインの周囲にいる人々みんなの心が動く様が描かれるところ。社会的な生き物である人間を描くにおいて当たり前とも思えるが、実はそんなふうに描かれる作品は多くない。

有馬を意識し始めたつかさは勇気を出して告白するも、「つかさのこと、そういう目で見たことない」と言われ、あえなく失恋する。そんな有馬とつかさに、一見チャラそうだが実は芯のあるイケメン・長谷部泰広(板垣瑞生)、そのいとこで可憐な有馬の元カノ・麻友(原菜乃華)など、さまざまな人物が関わってくる。

その長谷部泰広を演じた板垣瑞生に、作品づくりに関わるということ、演じるということについて聞いた。

『胸が鳴るのは君のせい』©2021 紺野りさ・小学館/「胸が鳴るのは君のせい」製作委員会

「恋愛慣れしているように見えて、恋愛恐怖症」

―長谷部泰広は、すごくモテるという設定。キャスティングには格好の良さはもちろんですが、演技のうまさも考慮されたとうかがいました。『ソロモンの偽証』(2015年)『響-HIBIKI-』(2018年)『ホットギミック ガールミーツボーイ』(2019年)『初恋ロスタイム』(2019年)『映像研には手を出すな!』(2020年)など、これまで演じられてきた役は、シリアスからコミカルな作品までお話を支え、また進めていく難しいものが多かったように思います。今回の役も、モテモテだけど全体を見ながら物語を回していく役。面白くも難しい役だったのではないでしょうか? 

長谷部を演じるのは楽しかったですし、長谷部としていろいろな顔を見せたいなと思って演じていました。でも演技を評価してオファーいただいたのなら、本当に嬉しいですね。

板垣瑞生

―恋愛慣れしているように見える長谷部を、板垣さんはどういう人物として演じられたのでしょう?

長谷部は恋愛慣れしているように見えて、恋愛恐怖症なんだと思います。恋愛は苦手じゃないけど、自分の大事にしている場所には入られたくないというか。過去に何かあって入れられないのかもしれない。そういう“あわい”に生きている人なのかなと。誰にも自分を掴まれたくない、そこを突き止められたらもう動けなくなっちゃう――長谷部はそういう人なのかなと思います。だから、ものごとをリアルに考えて動く篠原つかさ(白石)と会ったことで変わっていく。そこを見せられればと思っていました。

『胸が鳴るのは君のせい』©2021 紺野りさ・小学館/「胸が鳴るのは君のせい」製作委員会

―その成長も見せたいということですね?

はい。めちゃくちゃ完璧に近い人が“人間っぽさ”を取り戻していくというか。本来の長谷部は人間っぽいのかもしれませんが。そういう長谷部を演じるのが、僕の中の大きな課題でした。めちゃくちゃリアルに生きているから、めちゃくちゃファンタジーに見える。そういう境界線を演じられたらいいなとは思いました。

『胸が鳴るのは君のせい』©2021 紺野りさ・小学館/「胸が鳴るのは君のせい」製作委員会

「うっきーと若林と、丘に座って等身大の悩みを話したりもしました(笑)」

―現場の雰囲気はどんな感じでしたか?

和気あいあいとしていて、仲はめちゃくちゃよかったです。うっきー……、浮所くんのことはうっきー、僕はミッキーって呼び合っていたんですが、本番で好きなことをやっても急に芝居を変えても、それが通じるうっきーだったのですごく楽でした。聖ちゃん(白石聖)や若林時英も昔からよく共演していたので、役としてそこに立っていればいい安心できるチーム。いいものを作りたいという気概にあふれているみんなと、ガンガン撮りながら新しいものを探していったという感覚です。高校の友だちみたいに他愛のない話をしていても、ふと気づくとみんな役としてきっちり立っている。メリハリを持って切り替えるんじゃなくて、みんな、なだらかに役に入っている感じ。

―面白いですね。

そうですね。オンオフのスイッチは明確になくて、ほわ〜んとした空気。常にオンで常にオフという感じでした。それくらい肩の力を抜いて芝居できたのはよかったです。でも本番は本番で、全力でぶつかってくれるし、みんな身構えることなくそこに立ってくれていたので、僕はリラックスポジションでした(笑)。

―今回、映画初主演となる浮所さんに、お芝居の先輩としてアドバイスを求められることはありましたか?

少し迷っているときに「いいのかな?」と聞かれることはありましたが、「そのままやったらいいんじゃない」と。先輩としてではなく、一人のライバルの男として、友人として立ってあげたかったんですよね。それで触発されることがあって、感情が動けばいいなと。若林時英と3人で60cmくらいの丘に座って、等身大の悩みを話したりもしました(笑)。いまでもうっきーとはたまに電話しますし、若林とはよく会います。女の子とはまったくですけど(笑)。

―浮所さんとはどんな話をされるのしょう?

うっきーが電話をくれるので「どうした?」って聞くと、「元気かなと思って」って(笑)。頻繁に会うわけじゃないですが、一所懸命やっている姿が見られればいいなと思っています。うっきーが二十歳を超えたらまた会うかもしれないし、そこは時間かなと楽しみにしています。

板垣瑞生

「三浦貴大さん、渋谷謙人くん、高良健吾くん、染谷将太くん――感謝している先輩たちに胸を張って見せられる芝居をしたい」

―つかさに思い切りビンタをされるシーンがありましたが、事前に相談などされましたか?

いや、ないです。そこは信頼したいし、思いっきりやってくださいと、それだけです。でも、実際ぶったたかれたら耳についていたイヤーカフが超飛んでいったんですよね(笑)。しかも、すっげーちゃんと当ててくれたので、本当に頭が真っ白になって。でも自分の好きな人以外にキスされたら、きっとこういう対応になるよなって思いました(笑)。

イヤーカフには花が彫られているんですけど、花言葉が“失恋”の花だったんです。それは小道具さんが準備してくれていたものなんですが、素敵だなと思いました。それごと吹っ飛んでいったのはすごく皮肉ですが(笑)。

『胸が鳴るのは君のせい』©2021 紺野りさ・小学館/「胸が鳴るのは君のせい」製作委員会

―そういうキャラクターを演じる楽しさはありましたか?

辛いですよね(笑)。長谷部はほとんどのシーンで女の子に囲まれていますが、まったく顔を見ていないんです。それに、その子たちには本心も言わない。けっこうしんどいですよね、モテモテも(笑)。女の子に殴られる前のシーンもよそ見をして考えごとをしていて、振り返ったら殴られる。本当に好きな人が隣にいないと長谷部は生きていけないかも。でも気持ちに正直じゃないから、その子の顔も見ることができないんですが。

―高校時代の板垣さんもモテたのではないですか?

全然。ただの古墳オタクですから(笑)。長谷部みたいな夢のような話はないです。そもそもモテようとも思わなかったし。だって、好きじゃない人に好きって言われるのはしんどいじゃないですか。それでも向き合わなきゃいけないし。人間として好きと言ってくれるぶんにはありがたいですけど。まあ、信用しきれていないのかもしれません。そこは長谷部と似ているのかも。

板垣瑞生

―長谷部と重なる部分はありましたか?

僕が演じているので長谷部は僕なんですが、彼には彼の優しさや辛さがあって、愛がある。そこはちゃんと伝えたいと思いました。バックグラウンドしかり、それが本当かどうかは別として、過去や失敗を笑いながらしゃべるのは、本当に苦しんでいるからかなと。

いとこの麻友(原菜乃華)が話す、「お父さんが女の人を変えるたびにカーテンが変わる」という環境が彼らの日常。長谷部は、人に弱みを見せないために一段高みにあがってしまうし、そういうところが逆に女子たちの憧れの対象になってしまって苦しい。だからこそ、ちゃんと地に足が付いているつかさに憧れるんでしょうね。つかさは、長谷部の“希望”だったのかも。もしかして長谷部は、最初から有馬くんを応援していたのかもしれません。

僕も意外と本心を言える人って少ないので、そういうところは分かります。僕の周りにも長谷部以上に、辛い話を徹底的に笑い話にしちゃう優しい先輩が多いんです。すごいなと思いますね。僕は先輩に遊んでもらうことも多いので、そういう優しさに触れる機会は多かったと思います。

―そんな尊敬する先輩とは?

みんなそうですが、三浦貴大さん、渋谷謙人くん、高良健吾くん、染谷将太くんとか。僕の演技には、そんなふうにすごくお世話になっている先輩の影響があると思います。でも結局演じるのは僕なので、先輩たちの影響も、昔演じた役も、どこかにあるようで、ないようで。というか、それら全部が混ざり合っているのかもしれません。突き詰めれば、作品が伝えたいことだけ考えて芝居すればいいのかなと思います。

でも感謝しているからこそ、その人たちを超えたいんですよね。つまらない芸能界にしたくないから、僕の大好きな人たちに勝ちたいというか。その人たちに胸を張って見せられる芝居をしたいですね。

「完成した作品が台本を超えるようにするのが僕の仕事」

―映画初監督の髙橋洋人監督とのお仕事はいかがでした?

髙橋監督は、僕や他の共演者が持ってきたものに対して、すごく柔軟に対応してくれました。アイデアに合わせてカメラワークを変えてくれたり、本当にいろいろなことに対応してもらって、すごく支えられました。

―コロナ禍でなかなか観る機会のなかった学園ラブストーリー。どんな方に届けたいと思いますか?

少女漫画が原作ということでターゲットは主に中高校生ですが、それ以外の方もみなさん目いっぱい楽しんでくれればいいなと思っています。そのうえで僕は、観てくれた方みんなが面白くなきゃ意味がないとも思うんです。お客さんを限定したくないというか。そういうふうに意識して芝居はしていました。

―ご自身の役を超えたところで作品に向き合えるのはすごいですね。

僕は芝居をしているとき、できれば計算したくないんです。そんなに頭のいい人間じゃないし、準備をしなきゃいけないところはきちんとしますが。ただ一人の役者として、作品の作り手としては、その場で感じたことを大切にしたいし、受け取れたことを全部返したい。人間が演じることで台本以上のものができる。そう思っているんです。完成した作品が台本を超えるようにするのが僕の仕事かなと。

板垣瑞生

取材・文:関口裕子
撮影:川野結李歌

『胸が鳴るのは君のせい』は2021年6月4日(金)より公開

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『胸が鳴るのは君のせい』

高校1年の3学期に転校してきた有馬隼人は、イケメンなのに愛想が悪くて、なんだかちょっと怖い。クラスメイトの篠原つかさは、そんな有馬が気になり、いつしか目で追うようになっていた。男みたいな名前を「いい名前じゃん」と褒めてくれたり、遅刻して先生につかまりそうなところを助けてくれたり……。予想しないタイミングで繰り出される自分だけに向けた優しさに、いつも胸が高鳴ってしまう。

高校2年生最後の日。友達から「両思いじゃない?」とはやし立てられたつかさは、ずっと抱いてきた有馬への思いを伝えようと決意。淡い期待を抱いて告白したにもかかわらず、「そういう目で見たことない」ときっぱりフラれ、あっけなく玉砕してしまう。

新学期。またも有馬と同じクラスになったつかさは、変わらず友達として優しくしてくれる彼への思いを募らせ、諦めるどころか好きな気持ちがますます加速。ついに「フラれてもがんばる!」と宣言する。ところが、3年で同じクラスになったイケメンの長谷部泰広から、いとこが有馬の元カノだと知らされて大ショック! もやもやとした気持ちを抱えながら向かったオリエンテーションキャンプでは、なんとお嬢様学校に通う元カノの麻友に遭遇し、よりによって「有馬くんとよりを戻したいから協力して」とお願いされてしまう。清楚な美少女ライバルの登場に動揺するつかさ。一方長谷部は、そんなつかさに対して芽生えた初めての感情に戸惑い、時折、切なそうな表情で見つめるようになっていく。

事あるごとにつかさにちょっかいを出していた長谷部の変化に、有馬の心中も穏やかではない。さらに麻友と有馬の過去には、決してつかさが立ち入ることのできない深いつながりがあり、そのことが、つかさの恋が叶わない原因になっているようで……。

怒涛の展開を見せる高校生活最後の1年。不器用なつかさたちの思いはもどかしいほどに絡み合い、すれ違っていく。果たして、何度傷ついても、何度挫折しても諦めない、一途な片思いの行方とは?

制作年: 2021
監督:
出演: