北野武映画へのオマージュ満載!? Netflix『楽園の夜』はサービス過剰気味な超エンタメ・ヤクザ映画

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ライター:椎名基樹
北野武映画へのオマージュ満載!? Netflix『楽園の夜』はサービス過剰気味な超エンタメ・ヤクザ映画
Netflixオリジナル映画『楽園の夜』独占配信中

『楽園の夜』は、韓国人監督パク・フンジョンの最新作である。彼は、裏社会を描いた『新しき世界』(2013年)で、監督デビュー2作目にして不動の評価を獲得した。そんな新進気鋭の監督が、出世作と同じくバイオレンス作品をひっさげて、映像エンターテイメント業界の“目抜き通り”となりつつあるNetflixに満を持して登場した。

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サービス満点のエンターテインメント

『楽園の夜』、すごくおもしろい。アクションシーンの演出、撮影は見事で、スピード感があり快感を感じる。特にクライマックスシーンは胸がすく爽快感だ。映像は洗練されているが、そこはもちろん「コリアン・ノワール」作品。バイオレンスシーンは非常にエグい。リンチされた登場人物は血みどろで臭い立つようだ。今や韓国映画の代名詞とも言えるカーアクションは迫力満点で、またアイディアが目新しい。

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ストーリーはわかりやすい。しかし、脚本は「憎しみの相関関係」が複雑に考え抜かれていて、意外性があり最後まで飽きさせない。ほのかな恋愛も描かれていて、恋愛関係とはとても呼べないその距離感も絶妙だ。

『楽園の夜』は、サービス満点の“持ってけ泥棒”なエンターテインメント作品である。ただサービスが過剰すぎて、登場人物たちは「絶対死んでるって」というダメージを負いながら、キザなセリフを言ったりする。劇画チック過ぎる演出が、ちょっと照れくさい。しかし、それすらもこの作品の場合は、チャームポイントになっているように感じる。

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『東京流れ者』『ソナチネ』との共通点

本作は、はっきりと北野武監督の『ソナチネ』(1993年)を下敷きにしている。「行き場を失ったヤクザが、南の島に身を隠し、そこで現地の人間と親交を深くする。やがて、自分がハメられたことを知る」というプロットは全く同じである。

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北野監督は否定しているが、『ソナチネ』は鈴木清順監督の『東京流れ者』(1966年)を流用している可能性が高いと私は思う。『東京流れ者』も同様のプロットである。3人の監督が採用するのだから、このプロットはよほど普遍性があり、また汎用性があるのだろう。

同じプロットでありながら、『ソナチネ』と『楽園の夜』は真逆の演出を施された作品である。『ソナチネ』は芸術的だ。もてあました時間の暇つぶしにかこつけて、実験的なシーンを段積みにした、いわば「シュールレアリスム」作品である。

前述した通り『楽園の夜』はドエンターテインメント作品である。このプロットの最大の魅力は、私は“わかりやすさ”だと思う。『東京流れ者』も鈴木清順監督だけあり非常にスタイリッシュで、大衆的とは言い難い。このプロットは、遠回りした末に、パク・フンジョン監督の手によって“わかりやすさ”という特徴に合致した、エンターテインメント作品として成就した。もちろん北野武は“わかりやすさ”と真逆の演出だからこそ面白いと感じたのだろうから、どちらのそれが正しいと言うわけではないけれど。

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北野武作品への数々のオマージュ

『楽園の夜』には、『ソナチネ』、さらに他の北野作品にオマージュを捧げたシーンがたくさんある。『ソナチネ』を象徴する“あのシーン”は、物語の非常に重要な部分で再現される。海沿いの道を自動車やバイクで疾走するシーンは『HANA-BI』(1997年)を思い出す。

そして、主人公テグの姉とヒロインのジェヨンが不治の病である設定の必然性が、非常に希薄に感じる。その設定があった方が良いとも感じるが、なくても成り立つ。嘘っぽくなる設定とも言える。この設定も『HANA-BI』を意識して“あえて”加えたように私には思える。考えすぎだろうか?

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考え過ぎついでにもう一つ。『ソナチネ』の中で、私はずっと「変なシーン」だと思っていた箇所がある。たけし演ずる村川が、ヒロインの幸を乗せてドライブに出かける。出かけてすぐに村川は車を脱輪させてしまい立ち往生する。駆けつけた子分は「こんなに広いまっすぐな道でなぜ?」と村川を茶化す。

『楽園の夜』にもこれと似たシーンがある。食事中にジェヨンはテグに酒をすすめる。テグは「運転があるから」と断る。「ここは飲酒検問なんてない」と食い下がるジェヨン。次のシーン、テグは公道の検問でアルコール測定器に呼気を吹きかけている。ジェヨンは酔って正体をなくし、警官に激しく絡んでいる。

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ちょっとコミカルなこれらのシーンは、どちらも意図が判然としない。「安全だと思った道で足止めを食う」というだけのシーンが突然ぽつんと挿入される。『ソナチネ』では、このシーンを境に、物語は現実から離れて幻想の世界に没入していくように感じられる。『楽園の夜』では、このシーンを境に、物語は悲劇に向かって加速し始める。また、テグとジェヨンの間に恋愛感情が芽生える合図にもなっているように感じた。「道を踏み外していく」ことを象徴するシーンだと感じる。

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アイデンティティーを世界に誇示するかのような料理描写

『楽園の夜』は北野武映画愛に溢れた作品だ。しかし、そのテイストは真逆である。芸術的と大衆的。ドライな演出とウェットな演出。静と動。既存の作品をアレンジするにあたって、パク・フンジョンのアプローチは、もっとも意味のある演出法ではないだろうか。自分が愛する作品への粋なオマージュの示し方に思える。

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最後に、本作には物語の重要なアイテムとして「水刺身」なる韓国料理が登場する。『パラサイト 半地下の家族』(2019年)では「チャパグリ」というB級グルメの焼きそばが印象的だった。現在Netflixで配信されている『悪霊狩猟団:カウンターズ』(2020年)に出てくる「ククス」は、日本で言う「にゅうめん」らしい。

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韓国の映像作品には、大衆的な韓国料理が度々登場する。まるで、自分たちのアイデンティティーを世界に向かって誇示しているかのようだ。やたらと格好ばっかりつけている日本の映像作品とは正反対の姿勢が、この食べ物の表現に端的に表れているように、私には思える。

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文:椎名基樹

『楽園の夜』はNetflixで独占配信中

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『楽園の夜』

大切な者たちを殺された挙句、追われる身となった組織の構成員。逃亡先の済州島で心に傷を抱えた女性と心を通わせていくが、それはあまりに短すぎる平穏で……。

制作年: 2021
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