映画『グリーンブック』讃 ― その魅力をテキ屋口調で!【惹句師・関根忠郎の映画一刀両断】

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
ライター:関根忠郎
映画『グリーンブック』讃 ― その魅力をテキ屋口調で!【惹句師・関根忠郎の映画一刀両断】
『グリーンブック』©2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.
黒人差別の色濃く残る60年代のアメリカを舞台に黒人ピアニストとイタリア系用心棒という凸凹コンビの珍道中を描き、第91回アカデミー賞で作品賞ほか三冠を達成した大注目作!

粗野なイタリア系用心棒と天才黒人音楽家 ―“水と油”のようなふたりがアメリカ南部の旅に出る

『グリーンブック』© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

世の中にはホントにオモシロイ奴が稀には居るもんだな。実際、人間が過剰にゴマンといる東京で、あっしなんざァ少々酸欠気味に暮らしているワケなんだけど、こんな世の中だからかねえ、真から面白い奴に出会ったなんてこたァとんとないものね。自分に忠実で自分をありのままに打ち出して自由闊達に振る舞うことは、今の日本じゃァ法律で禁止されてでもいるのかね。みんな自分を押し殺して息をひそめて暮らしてるみたいなんだよね。雑踏を歩いてて、アナタそう思わない? 道行く人たちの顔がどこか沈んでいるように思うんだけど……。

現実社会がこんな風に息苦しく感じられるから、せめて映画でも見に行って、スクリーンの中に飛び切り面白いニンゲンを発見して、カタルシスを味わうってのもイイかもね。それなら今ゼッタイお薦めなのが『グリーンブック』って映画。何がいいって、近頃珍しく面白い二人の登場人物に映画で出会ったからなんだ。こりゃァ自分だけで楽しんでいては実に勿体ない気がしてねえ。みんなに是非とも紹介したいんだ。いいモノを独り占めするってのはイヤなんだよね。

さてこの二人、一人はイタリア系のアメリカ人でね。有名ナイトクラブで用心棒みたいな仕事をしている、いささか無学で粗野な中年男なんだ。そしてもう一人がアフリカ系アメリカ人で著名な黒人ピアニストでね、教養と品性豊かな超エリートなんだよね。実はこの二人が、ひょんなことから車でアメリカのディープ・サウスの街から街へ、演奏旅行に出かけることになったんだ。イタリア男トニー・バロレンガが運転手兼ボディガードとして、ピアニストのドクター・シャーリー(通称ドン・シャーリー)に雇われたってわけさ。二人ともまァ中年男なんだけど、こんな水と油みたいな二人が、一台の車で二人っきりで旅するなんてね。ハナッから波乱含みさ。それにしても、何で黒人のドンが、わざわざ人種差別のキツい南部の12州に出かけて行くことにしたんだろうか? その辺の秘密は「それを言っちゃァお終いヨ」なんで、今は伏せておくけどね(これは皆さん、映画を見てのお楽しみ)……。

映画の究極の醍醐味を味わえる伝統的なロードムービー

『グリーンブック』© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

さあてここからが本題! 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! まずはニューヨークからペンシルベニアを皮切りにインディアナ、アイオワ、ケンタッキー、ノースカロライナ、ジョージア、テネシー、アーカンソー、ルイジアナ、ミシシッピー、アラバマの南部各州をキャデラックで経めぐる“水と油”の男二人の珍道中だ。これを演じるのがヴィゴ・モーテンセン(運転手のトニー)とマハーシャラ・アリ(ピアニストのドン)。二人の車中の掛け合いが、飛び切り断然面白いんだ。

トニーは大食い競争のチャンピオンらしく? 道中よく食べること食べること。ホテルでは大きなピザを6等分に切り分けるなんてことしないで、半分に折って丸ごと食い始めるんだ。ケンタッキーではフライドチキンを素手でムシャムシャ、しかも片手ハンドルで運転しながらね。その上、後部シートのドンを振り向いて喋るもんだから、ドンに「ちゃんと前を見て!」と何度も注意される始末。イタリア野郎の天性の陽気さに、こちとらァ笑いを堪え切れないんだよ。ドンの厳しいマナーの要求なんて“糠に釘”レベル。音楽家としての技量は勿論、人間としての品性とマナーを身に着けたドンの魅力も堪えられない魅力。まさに絶妙のコンビでキャデラックが疾駆していくんだ。行く先々、二人の間に起きる食い違いや黒人差別を巡る色んな事件やらが惹起してハラハラし通し。退屈するヒマが全然ないんだ。これ、相棒映画の傑作だね。

人と人が互いに偽りのない自己主張をぶつけ合いながら、ある時は激しく言い争い、ある時は取っ組み合いになったりしながらも、スリリングに影響し合いつつ、やがては人生の真の同行者になっていくプロセスを、これほどセンシブルに笑いと涙をブレンドして、見る者を楽しませ、やがては飛び切りの感動に誘う映画は滅多にあるもんじゃない。当今“ヘイト”流行りの世情だが、この映画を見て、互いの不寛容から脱しながら人間の共感力ってものを大事にして欲しいよね。ホントにこれはバディ・ムービーの傑作だと思う。それに何と言ったって、映画の究極の醍醐味を味わえる伝統的なロードムービーだしね。次々と替わるディープ・サウス12州の景観と、そこで起きる人種差別の揉め事やアブナイ事件。2時間チョイの映画を観ながらハラハラワクワクのし通しだったぜ。

実の息子が50年も胸にあたためてきた実話

『グリーンブック』© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

いったい全体こんなにイイ話を何処の誰が思いついたんだ? いや実はこれ、1960年代初期の頃の実話なんだ。ニューヨークの一流ナイトクラブ「コパカバーナ」の用心棒トニ―が、職を失ってブラブラしていた折も折、アメリカ南部でコンサート・ツアーを予定していた黒人ピアニストのドンに、運転手兼ボディガードとして雇われるというのがそもそもの発端。実はこの映画のプロデューサーで、トニーの実の息子であるニック・バレロンガが何と50年間も胸にあたためてきたストーリーなんだ。ニックは父親トニーから聞いた実際の話を、いつの日か映画にしたいと考えてきたんだが、今回、コメディの名監督ピーター・ファレリーと一緒に脚本を書いてこんな傑作を創り上げたんだ。

旅の先々で起きること ― それは黒人が宿泊できないホテル、食事ができない黒人お断りのレストラン、用を足せないトイレ等々。旅先でトニーとドンが、別々のホテル、別々のレストランに別れることを余儀なくされながら、ホテルのマネージャーやら州警の白人たちと何度も揉め事を繰り返す。

そこで作品タイトルの『グリーンブック』に触れなければ話が進まない。このグリーンブックとは、1936年から66年まで毎年に亘って出版された、黒人の利用可能な施設を記した旅行ガイドブックのこと。黒人たちが旅行の際に用いたという案内書だが、これは白人とのトラブルを未然に防ごうとして作られた、いわば必要悪的な悲しい旅行案内ブックだったんだね。へー、こんなガイドブックがあったのか。知らなかったねえ。60年代前半と言やァ、あのキング牧師の非暴力闘争が大きな力となって、64年には公民権法が成立したんだよね。

ホントに数々の犠牲を生んで、その上に築かれた人種差別撤廃への道。まだまだ喋りたいことがいっぱいあるんだけど、もう切り上げないとね。でもこれだけは言っておきたいこと、それはヴィゴのことでさァ。あっしはネ、ヴィゴ・モーテンセンの大ファンでね、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005年)、『イースタン・プロミス』(2007年)なんかは、何度見たか分かりゃしない。残念ながらアカデミー賞<主演男優賞>は逃したけれど、<作品賞>、マハーシャラ・アリの<助演男優賞>、<脚本賞>の三冠に輝いたのは、ヴィゴの演技あっての評価ってのは間違いなしだ!

文:関根忠郎

『グリーンブック』は2019年3月1日(金)より全国ロードショー

受賞結果一覧ほか 第91回アカデミー賞

Share On
  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

『グリーンブック』

時は1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニー・リップは、ガサツで無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。ある日、トニーは、黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。彼の名前はドクター・シャーリー、カーネギーホールを住処とし、ホワイトハウスでも演奏したほどの天才は、なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。二人は、〈黒人用旅行ガイド=グリーンブック〉を頼りに、出発するのだが─。

制作年: 2018
監督:
脚本:
出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
  • 映画『グリーンブック』讃 ― その魅力をテキ屋口調で!【惹句師・関根忠郎の映画一刀両断】