世界最多チケット販売数「ベルリン国際映画祭」は日本作品との相性も抜群

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ライター:齋藤敦子
世界最多チケット販売数「ベルリン国際映画祭」は日本作品との相性も抜群
ベルリン映画祭終了直後にブルーノ・ガンツの訃報が流れた。ヴィム・ヴェンダースの『ベルリン天使の詩』で、戦勝記念塔の上からベルリンの街を見守っている天使を演じた名優だ。撮影時は壁で東西に分かれていた街は、その後統一され、壁が立っていたポツダム広場が再開発され、今は映画祭の中心になっている。どこよりも政治に翻弄されたベルリンで、政治色を強めつつ発展してきた今年の映画祭を総括する。

テーマ性の強い作品を集めベルリンらしさが全面に出た2019年

69回目のベルリン国際映画祭(ベルリナーレ)は、ひとつの区切りとなる年となった。その大きな理由は、19年間ディレクターを務めたディーター・コスリックの勇退にある。私が初めてベルリンに行ったのが、奇しくもコスリックがディレクターに就任した2001年で、まだ従来のツォー駅周辺と、壁の跡地に再開発されたポツダム広場周辺の2カ所を中心に開催されていた。それを、ポツダム広場に集中させつつ、規模を拡大して、今のような“世界最多チケット販売数を誇る”映画祭にしたのがコスリックである(ただし、ヴェネツィアはベルリンのような大都市ではないし、カンヌはチケットを売らない)。
ベルリンになかなか足が向かなかったのは、日本でもすぐに公開されるハリウッド映画を目玉に据えたラインアップに魅力を感じなかったからだが、それも徐々に改善され、テーマ性の強い作品を集めて、ベルリンらしさを全面に出してきた。これも“観客のための、政治的な映画祭”を目指したコスリックのディレクションの成果だろう。もちろん政治といっても、広い意味でのポリティックスのことだ。
その通り、金熊賞を受賞した新鋭ナダヴ・ラピドの『シノニムズ(原題)』は、新鋭軍事力と資本力をバックに周辺諸国を威圧する、嫌われもののイスラエルという国を、パリでフランス人になろうとするイスラエル人青年の姿を通して描いた、まさに政治的な作品だし、審査員大賞の『神のおかげで(原題)』はカトリック教会の神父による性的虐待を被害者側の立場から描いたフランソワ・オゾンの問題作。アルフレッド・バウアー賞の『システム・クラッシャー(原題)』は、ドイツの福祉制度のシステムからはみだしてしまう少女がテーマと、それぞれが強い主張を持っていた。昨年に続いて今年も日本映画がコンペティション部門に入らなかったのは、こうしたテーマ性に欠けているからで、昨今の日本映画界は映画が政治的になるのを避ける傾向にあるから、なおさらだ。

大阪出身HIKARI監督作『37 Seconds』が観客賞とCICAEアートシネマ賞を授章

とはいえ、コンペ以外では、パノラマ部門にHIKARIの『37 Seconds』、フォーラム部門に三宅唱の『きみの鳥はうたえる』、ジェネレーション14プラスに長久允の『ウィーアーリトルゾンビース』と林俊作の短編アニメ『リーキング・ライフ』、キュリナリー部門に近浦啓の『コンプリシティ』と、どの部門にも満遍なく出品された。ちなみにパノラマはカンヌのある視点、フォーラムは監督週間に相当、ジェネレーションとは青少年向けの作品を集めた部門で、14歳以上を対象とした14プラス部門とそれ以下の子供を対象にしたKプラスに分かれる。キュリナリーとは料理に関する映画を集めた部門で、作品にちなんだ料理を提供する、食事付きの上映回がある。
ベルリンには日本映画のファンが多く、相性は悪くない。去年のパノラマのオープニングは行定勲の『リバーズ・エッジ』で、国際映画批評家連盟賞を受賞している。今年は大阪出身でカリフォルニア在住のHIKARIの『37 Seconds』が観客賞とCICAEアートシネマ賞を受賞した。“37秒”とは主人公のユマが出産の際に37秒間無呼吸だったため、脳性麻痺の障害を負ったことから。表向きは売れっ子漫画家のアシスタント、実は本当の作者である主人公が、漫画家から独立するためにアダルト漫画に挑戦し、男性とのセックスを体験しようとする。ストーリー展開の意外さ、面白さもさることながら、障害のある娘と過保護な母親の両方の自立を描いたところがよく、観客からの幅広い支持を集めた。主人公のユマにはオーディションで選ばれた佳山明、母親に神野三鈴、脇を渡辺真起子、板谷由夏らベテランが固める。

ティーンが選んだのは、音楽を通じて成長する子供をRPGゲーム風に描いた日本作品

長久允の『ウィーアーリトルゾンビース』は、親を失っても悲しむことができない、“ゾンビのような”13歳の少年少女4人が人間らしい感情を取り戻すまでを、ロールプレイングゲーム仕立てで描く。CMプランナーとして実績のある長久らしく、テクニックを駆使した斬新な映画で、ヤング審査員からスペシャル・メンションを受けた。主人公に是枝裕和の『そして父になる』で福山雅治の息子を演じた二宮慶多、周りを菊地凛子、佐々木蔵之介、工藤夕貴ら、豪華キャストで固めたところも売れっ子CMプランナーらしい。

第70回の区切りを迎える2020年、日本作品はコンペの壁を超えられるか?

来年ベルリンは70回の記念の年を迎える。新ディレクターにはロカルノ映画祭からカルロ・シャトリアンが就任し、それに従って各部門のスタッフも入れ替わるだろうと言われている。また、今までアカデミー賞の前だった開催期間を、授賞式後に遅らせると発表があった(2020年は2月20日から3月1日)。
さて、来年からのベルリン国際映画祭はどこへ向かうのだろう。日本映画はコンペの壁を越えられるのか。シャトリアン時代のロカルノで、濱口竜介の『ハッピーアワー』が女優賞を、塩田明彦の『風に濡れた女』がヤング審査員賞を受賞していることは、日本にとって、ちょっといいニュースかもしれない。

文:齋藤敦子

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