尾上松也×百田夏菜子『すくってごらん』 <このマン>ランクインの注目漫画を実写化!伝統芸能とポップカルチャーが邂逅

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ライター:SYO
尾上松也×百田夏菜子『すくってごらん』 <このマン>ランクインの注目漫画を実写化!伝統芸能とポップカルチャーが邂逅
『すくってごらん』©️2020映画「すくってごらん」製作委員会 ©️大谷紀子/講談社

『ちはやふる』(2011年)や『私たちはどうかしている』(2020年)などの人気漫画を輩出した雑誌「BE LOVE」。同誌に掲載され、漫画コンテスト<このマンガがすごい!>にもランクインを果たした大谷紀子氏の「すくってごらん」が、このたび実写映画化された。

『すくってごらん』©️2020映画「すくってごらん」製作委員会 ©️大谷紀子/講談社

「すくってごらん」は何がすごいのか?

<このマンガがすごい!>に取り上げられる作品は多種多彩な力作ばかりだが、共通する特長がある。それは、独自性。それこそ「すごい!」とうならされるような、発想の豊かさが審査におけるポイントの一つと言えるだろう。その点において、本作は突出したものがある。大谷氏の画力はもとより、設定とキャラクターの斬新性が際立っているのだ。

すくってごらん(1) (BE・LOVEコミックス)

まずは、設定。本作のテーマはタイトルにもかかった「金魚すくい」である。東京でエリート街道をひた走っていた銀行マン・香芝誠が、仕事でミスを犯してしまい、奈良県大和郡山市に左遷。かの地は、街全体に金魚すくいの文化がなじんでいた。彼はそこで出会った女性・生駒吉乃に一目ぼれし、スポーツとしての金魚すくいにもハマっていく――。

この時点でも、一風変わったストーリーが展開することがわかるだろう。さらに、原作にはギャグもラブも描かれ、スポーツ漫画としての側面も。演出だけで言えば、ホラーやファンタジーの部分もある。様々な要素が幕の内弁当のように賑やかにひしめいている作品なのだ。余談だが、本作の構想は、大谷氏の担当編集者が「金魚すくいの動画を観て面白かった」と話したところから始まったそうだ。まさに、運命の出会い。

『すくってごらん』©️2020映画「すくってごらん」製作委員会 ©️大谷紀子/講談社

また、本作で印象的なのは、各キャラクターが魅力的に描かれていること。香芝は登場時こそクールな二枚目だが、心の中でツッコミをしまくり、吉乃に出会ってからは三枚目なキャラと化す。そんな中で、金魚すくいの奥深さを知った際には目をキラキラと輝かせ少年のように無邪気な表情を見せるなど、読む者をグッと引き込む性格付けがなされている。

そこに“現代のかぐや姫”と称されるミステリアスな吉乃、気さくで陽気な王寺昇といった見目麗しいキャラクターが華を添え、恋と金魚のワンダーランドに誘われる、といった構造になっている。

『すくってごらん』©️2020映画「すくってごらん」製作委員会 ©️大谷紀子/講談社

伝統芸能とポップカルチャーの邂逅! 尾上の見事な歌唱力と顔面七変化も必見

百花繚乱という言葉が似合う『すくってごらん』だが、実写版では、さらに「視覚」「聴覚」という要素が強化された。原作で特徴的な香芝のモノローグが、装飾された文字となって画面上を踊り、登場人物が歌うという音楽的なアプローチも付加。よりファンタジー色が強まるとともに、金魚の赤が印象的なカラフルな世界観にしてあるため、アートアクアリウム的な「観て楽しく、陶酔させられる」ものになっている。

『すくってごらん』©️2020映画「すくってごらん」製作委員会 ©️大谷紀子/講談社

キャスティングも意匠が凝らしてあり、本作で映画初主演となる歌舞伎役者・尾上松也と、ももいろクローバーZの百田夏菜子が初共演。伝統芸能の担い手と、ポップカルチャーの顔を引き合わせるところに、実写版が目指す「豪華絢爛なエンターテインメントをつくる」という意気込みを感じずにはいられない。

『すくってごらん』©️2020映画「すくってごらん」製作委員会 ©️大谷紀子/講談社

ラップからバラードまで歌い上げ、顔面七変化で魅了する尾上や、明るく天真爛漫なパブリックイメージから脱却し、神秘的でナイーブな役どころに挑戦した百田。ふたりが魅せる新たな表情が“キャラ立ち”を促進させ、自然と好きになる――。つまり、役者が放つ魅力が、役とシンクロしていくという周到な仕掛け。これは、キャスティング時点から綿密に計画されたものだろう。

『すくってごらん』©️2020映画「すくってごらん」製作委員会 ©️大谷紀子/講談社

脇を固めるメンバーも、ミュージカルの経験が豊富な柿澤勇人石田ニコルなど、一流の「歌える」面々を揃えている。冒頭から尾上と柿澤のデュエットが始まるが、ふたりの歌声がただただ“上手い”ため、聴きほれているうちに作品の世界にどっぷり浸かっていることだろう。本作が場や演出、構成の“濃さ”に負けることなく、しっかりと説得力をもたらせられているのは、キャスト陣の奮闘によるところが大きい。

『すくってごらん』©️2020映画「すくってごらん」製作委員会 ©️大谷紀子/講談社

金魚を掬い、ヒロインを救う――面妖かつ生真面目な成長物語

筋で引っ張る映画も面白いが、やはり“キャラクターを好きになってしまう”映画は、観る者のハートをがっちりと掴んでいるぶん、自由度が高い。むしろ、遊びをどんどん取り入れていくことで、役が“化けて”いく。実写版『すくってごらん』は、まさにそういう類の映画だろう。そのアプローチは、先ほど述べたとおり、原作にも共通する部分。精神面で、原作と映画版はがっちりとつながっているのだ。

『すくってごらん』©️2020映画「すくってごらん」製作委員会 ©️大谷紀子/講談社

そうして“愛される”ようになったキャラクターが、「恋」という要素で三角関係・四角関係になっていき、さらに吉乃や王寺(柿澤)の切ない過去も明かされ、それぞれのドラマが「金魚すくい」につながっていくというストーリーテリングも、エッジが利いていて興味深い。また、本作は香芝の成長物語という側面も内包しており、『すくってごらん』のタイトルが、金魚を「掬う」と、吉乃の心を「救う」、さらには出世街道から脱落した香芝自身が「掬い上げられ、救われる」ようになるなど、あらゆる部分にかかっている。

『すくってごらん』©️2020映画「すくってごらん」製作委員会 ©️大谷紀子/講談社

視覚的・聴覚的にも多様なアプローチを盛り込み、魅力的なキャラクターを築き上げ、彼らの“変化”を作品の中心に持ってくる本作。表面的に見れば突飛に感じてしまう部分もあるのだが、冒頭から末尾まで、根底の“人で魅せる”という軸は一切ブレていない。実に面妖な、それでいて実は生真面目な作品といえるのではないだろうか。

『すくってごらん』©️2020映画「すくってごらん」製作委員会 ©️大谷紀子/講談社

文:SYO

『すくってごらん』は2021年3月12日(金)より全国公開

Presented by ギグリーボックス

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『すくってごらん』

大手メガバンクのエリート銀行員・香芝誠は、些細な出来事がきっかけで左遷され、荒んだ気持ちを抱えて東京本店から片田舎の町へやってきた。そこで偶然かつ運命的に、金魚すくいの店を営む美女・吉乃と出会い、一目ぼれをする。持ち前のネガティブな性格と左遷のショックから、香芝は心を閉ざし仕事だけを生きがいにしようと心に決めながらも、吉乃の事が頭から離れない。何とかお近づきになろうとするが、秘密を抱える吉乃の心もまた閉ざされたままだった。果たして、香芝は金魚のように彼女の心もすくうことはできるのか―?

制作年: 2021
監督:
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  • BANGER!!!
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