『ベン・ハー 終わりなき伝説』だ。断じて『ベン・ハー』ではない

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ライター:#知的風ハット
『ベン・ハー 終わりなき伝説』だ。断じて『ベン・ハー』ではない
『ベン・ハー 終わりなき伝説』¥4,800(税抜)発売中:アルバトロス
その名を耳にするだけで、ファン垂涎のアサイラム社。ハリウッド大作の模倣作(モックバスター)を低予算・短期間で作り続ける、ある意味筋の通った素晴らしい映画製作会社だ。さて、今回はどんなトンデモ作品を世に送り出してくれたのか。

不朽の名作の続編!だがリメイクにも便乗。さすがアサイラム

『ベン・ハー 終わりなき伝説』©2016 3DP, LLC. All Rights Reserved.

『ベン・ハー キリストの物語』という小説がある。無論、傑作である。実際に読んだことがなくとも、名前だけは知っているという方も多いだろう。
1880年にアメリカ合衆国で生まれた、最も偉大な文学の一つである「ベン・ハー」は、1907年の最初の映画化以来何度も映像化を繰り返してきた。近年では5度目の映画化である『ベン・ハー(2016年)』が記憶に新しい。

……ところで今回紹介するのは『ベン・ハー 終わりなき伝説』という作品だ。ベン・ハーではない。
前述の『ベン・ハー(2016年)』の企画に乗じて、米国の映画会社・アサイラムが当時ちゃっかり公開した、いわゆる模倣作品、モックバスターである。断じてベン・ハーではない。
作品の概要としては、「原作での活躍から十数年後に、伝説の英雄として語り継がれていたベン・ハーが、再びローマ軍の傭兵たちと戦う」というもの。簡単に言うと、アサイラムが独自の解釈を交えて製作した、本家『ベン・ハー』のその後を描いた続編といったところだろうか。なおここでいう「独自の解釈を交えた」とはすなわち「勝手に作りましたメンゴメンゴ」とほぼほぼ同義なわけだが、皆様は気にしてはいけない。
というか無断で続きを捏造しておいて「終わりなき伝説」も何もないもんだ。そんな伝説は知らない。
重ねて本作、2016年版のベン・ハーに便乗した作品ではあるのだが、なんと話が肝心の2016年版とは繋がらない。あくまで原作の小説や、不朽の名作として知られる1959年版の続編である。だがこれではなんか商業的な勢いで乗っかってこられた2016年版の立場がないではないか。なんてこった。一体なんなんだこの映画。

※補足:本作『ベン・ハー 終わりなき伝説』において、原作の「ベン・ハーがクインタス・アリウスというローマ人を助けるエピソード」について登場人物が言及するシーンがあるが、原作とは細かい設定の異なる『ベン・ハー(2016年)』ではアリウスというキャラクターの出番自体がカットされているので、話が繋がらないのである。

信仰にも目覚めず奇跡も起きない。そう、そこにあるのは筋肉と人情

『ベン・ハー 終わりなき伝説』©2016 3DP, LLC. All Rights Reserved.

とここまでおよそエキセントリックな情報しか出てこない『ベン・ハー 終わりなき伝説』だが、それでは本編の出来はどうなのかというと、アサイラムの模倣作品にしてはこれが普通にまとまっている。
本作の舞台は原作から長い年月の過ぎ去った、西暦58年のルシタニア。相も変わらず極悪非道なローマ軍は、当時の皇帝・ネロへの貢ぎ物として、ルシタニアの若い女たちを強引に連れさらっていく。そんな圧政に耐えかねて、主役の一人である青年・エイドリアンは仲間と共に反逆を企むが、強大なローマ軍の力にはまるで歯が立たない。
そこでかつての英雄であるベン・ハーが再び現れて、血も涙もないローマのワルどもをバッタバッタと切り捨てていくというわけだ。特に後半でベン・ハーが、ローマ軍の雇った傭兵へと後ろから忍び寄ると、一瞬で首の骨をへし折って仕留めるシーンには一見の価値があるだろう。

……「ベン・ハーはそういう話ではない」、「アサイラムはきっとベン・ハーをスティーヴン・セガールか誰かと勘違いしている」と激しい憤りを覚えられる方もいらっしゃるかもしれない。だがこれも先に申し上げた通り、本作は最初からベン・ハーではない。『ベン・ハー 終わりなき伝説』である。それに本作の元となった2016年版『ベン・ハー』のテーマは、確か「赦し」だったはずなので、視聴者も本作のことをメッサラだと思って許すべきではないか。キリストもそう言っている。

※補足:原作の小説でも、ベン・ハーが過去に習得した武芸で敵を倒すシーンが何度か出てくるので、ベン・ハーがやたら強いこと自体は間違っていない。問題は本作が、本来アクション主体の作品というわけでもないベン・ハーの続編であって、別に『沈黙の戦艦』の続編ではないことだ。

キリストといえば、本作は本家『ベン・ハー』と比べると、だいぶ宗教色が薄いのも特徴だ。本作においてはこれといって登場人物が厳かな信仰に目覚めたり、奇跡で病が完治したりするようなことがない。代わって劇中で幅を利かせているのは筋肉と人情。それと“暴力はいけないが、悪い奴はボコボコにして、いい奴はそこそこ助ける”という理念。
本家より随分と大味な、蛮族寄りのテーマだが、まあシンプルでいいと思う。

となんだか無茶苦茶に言ってしまった気もするが、一応本作、アサイラムの模倣作品にしては「普通」なのである。本当だ。決して大傑作だなんて言わないが、例えばパーキングエリアのラーメンみたいなおいしさが本作の中には存在する。安価で単純だがたまに食べたくなる業務用の味わいだ。騙されたと思ってぜひ一度騙されてみてほしい。
なんなら5タレント賭けたっていい。

文:知的風ハット

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『ベン・ハー 終わりなき伝説』

伝説の英雄、ベン・ハーの新たな戦いを描く、アサイラム社によるアクション史劇。

制作年: 2016
監督:
出演: