海外で流行中の「聴く映画」とは? ベボベ小出祐介×PD白井太郎 特別対談! 堤幸彦監督『アレク氏 2120』Amazon Audibleで配信中

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ライター:加賀谷 健
海外で流行中の「聴く映画」とは? ベボベ小出祐介×PD白井太郎 特別対談! 堤幸彦監督『アレク氏 2120』Amazon Audibleで配信中
左:小出祐介 右:白井太郎

Base Ball Bear小出祐介×Podcastプロデューサー・白井太郎

「映画は観るもの」という常識を覆すオーディオコンテンツが誕生した。プロのナレーターが朗読した本をアプリで聴けるサービスAmazon Audibleは、いつでもどこでもハンズフリーで“読書”ができるコンテンツ。そんなAmazon Audibleから、日本初のオリジナルスクリプト作品として、映画監督・堤幸彦氏らが手掛ける『アレク氏 2120』が登場。「聴く映画」というコンセプトが大きな話題を呼んでいる。

『アレク氏 2120』

この“音だけの物語”をユーザーに届けるのは、 山寺宏一や梶裕貴、三石琴乃、さらに窪塚洋介や伊藤歩など、日本を代表する声優/俳優陣。映画的な音響効果を緻密に練り上げて製作された本作は、サウンドノベルとは一線を画す新たなオーディオコンテンツとして、今後どの様な広がりを見せていくのか? まだまだ未知の部分が多いAmazon Audibleが持つ可能性を掘り下げるべく、『アレク氏 2120』の制作に携わった<NEOTERIC>のPodcastプロデューサー・白井太郎氏と、氏が敬愛するミュージシャン、Base Ball Bearの小出祐介氏による対談インタビューを敢行、前後編の大ボリュームでお届けする。

体験としてのオーディオコンテンツ

―Amazon Audible作品として日本では初めてのオリジナルスクリプト作品となった『アレク氏 2120』製作までの経緯を教えてください。

白井太郎(以下、白井):Podcast業界の潮流として、海外では今、オーディオファーストのドラマ作品が流行っています。その流れを受けて、日本でもオーディオファーストのドラマ作品を作ることになりました。「聴く映画」というコンセプトで、映画監督である堤幸彦さんにオファーをさせていただき、堤監督の作品である『SPEC』(2012年ほか)のような人知を超えた世界観を、音だけの物語作品に仕上げています。

Podcastは日本でも、対談番組などのバラエティー作品はラジオの延長線上としていくつか存在しておりますが、オリジナルスクリプトのオーディオファーストドラマとしてこの長尺のものは、私の知る限りで日本では初めてだと思います。2020年12月16日より、Audibleだけでなく、Amazon Musicでも配信が開始されております。Base Ball Bearさんの楽曲も配信されているAmazon Musicですが、音楽シーンの中にこの作品が溶け込んでいくことで起こる、さらなる作品の広がりに大きな期待をしています。

白井太郎

―小出さんは、これまでAudibleのようなオーディオコンテンツに触れてこられましたか?

小出祐介(以下、小出):幼い頃、父の読み聞かせで私と妹は寝ていたんですが、だんだん父が毎晩読み聞かせするのが大変になってきたようで、ある時から朗読のカセットテープに切り替わったんです。江戸家小猫さんが朗読しているものでした。小学校に上がってからは、ドラマCDをよく聴くようになりました。一番印象に残っているのは、浜岡賢次さんの漫画作品「浦安鉄筋家族」のドラマCDです。それを聴きながら寝ていました。画ありきのギャグ漫画をドラマCDにするというのはすごい発想だなと思うんですが、ちゃんと漫画のコマが頭の中に浮かんでくるんですよね。

それから「学校の怪談」のドラマCD版も忘れられません。音がめちゃくちゃ怖かった。その流れで稲川淳二さんの怪談ライブCDを聴くようになったり(笑)。時々、ラジオドラマも聴いていました。しかし『アレク氏 2120』のようにサブスクで提供されるオーディオコンテンツは、確かに初めての体験かもしれませんね。

小出祐介

―小出さんが幼い頃から聴かれていたドラマCDやラジオドラマなど、他のオーディオコンテンツとはどのように差別化を図りながら製作を進められたんですか?

白井:本作の企画は、ラジオドラマやアニメーションの延長線上のドラマCDではない、新感覚のオーディオドラマを作ろうというコンセプトで始まりました。音だけのコンテンツで、ラジオドラマやドラマCDとどう差別化を図ればいいのかと、企画段階からFinal Mixの段階まで模索を続けました。

小出:いわばラジオドラマの上位概念としての今回の企画は、他のオーディオコンテンツとは具体的にどのような違いがあるんですか?

白井:“音だけ”という特性上、オーディエンスに対して丁寧になると、どうしてもラジオドラマチックな会話劇になってしまいます。とはいえ、オーディエンスを置いてけぼりにする作品にはしたくありませんでした。今回の挑戦は、そういう部分ではないと思っていたんです。そこで、オリジナルスクリプトの世界観に合わせて堤監督に布陣を組んでいただいたスタッフの力によって、サウンドエフェクトや音楽において、映画で用いるような細かな音作りを積み重ね、既存のオーディオファースト作品との差別化を図りました。

そこだけが既存のオーディオファースト作品との違いというわけではなく、他に細かな点も多く差別化を意図している所はありますが、オーディエンスの方々がまず感じる大きな違いとしては、音作りだと思っています。

小出:そうした映画的な音響空間というものが、そもそも通常のラジオドラマとは違うということでしょうか?

白井:はい。ラジオドラマなら端的な音響効果で済ませるものを、本作では緻密な音響で作り上げています。作中に“ポン・ジュノ”という喫茶店が出てきますが、映像であればイメージし易いものを音だけでどう表現するかと考えた時に、店内に流れるBGMやSEなどのディテールでイメージを作り上げる作業を丁寧に積み重ねています。

小出: ガヤガヤしたSEがただ流れるというのではなく、そうしたひとつひとつの音響を映画の製作同様に作り込んでいったんですね。

白井:梶裕貴さん演じる取り柄のない大学生が大切にしているスマートスピーカーに乗り込んでくるポリスAI「アレク氏」を山寺宏一さんが演じていますが、山寺さんの声はそのスピーカーから流れてくるので、主人公とアレク氏の距離感をその音像で表現しています。窪塚洋介さん演じるクライムAI「ASKR」は、スマホやドローンなどをハッキングして色々なところに乗り込んでいくので、色々なメカから音が出てくるんですね。そこでも様々な音遊びを実践しています。堤監督は映像の側面がフィーチャーされることが多いですが、一方で音や音楽の使い方に特色があり、映画的な音響効果がうまく作品にマッチしています。

『アレク氏 2120』

映画と音楽、ホラー表現の狭間での可能性

―白井さんはミュージシャンとして小出さんを大変尊敬されていると伺いました。今回の製作過程で、白井さんが小出さんから影響を受けた部分はありましたか?

白井:私が高校生の時、4thアルバム『新呼吸』でBase Ball Bearさんと初めて出会いました。人生で初めて行ったライブも『新呼吸』のツアーでした。それまでの私は特に音楽に興味があったわけではなかったのですが、“1日”という時間軸をアルバム全体で表現している『新呼吸』によって、音楽を初めて立体的に感じられたんです。音楽でこんなに豊かな表現ができるのかと大きな感銘を受け、音の可能性に興味を抱いたのはその時からですね。

『新呼吸』のツアーはライブが始まる際のSEがなく、アルバム1曲目の「深朝(しんちょう)」の低いイントロが会場の客入れの時にずっと流れていました。それが暗転とともに大きくなっていって曲が始まり、アルバムの最終曲である「新呼吸」の演奏でライブが終わったかと思うと、再び「深朝」に戻るというライブ演出。その2回目の「深朝」の演奏は、アルバム全曲を経ることによって、1曲目に演奏された時とは違った「新朝」=新しい朝、という意味に感じられました。

まさに映画を観ているような多視点から構築された立体的な構造に、大きな衝撃を受けました。表現に携わる道を志したのはそこからですね。私たちの世代は、Base Ball Bearさんに大きく影響を受けた世代で、これから先、私のようにBase Ball Bearさん、小出さんに影響を受けた作り手がたくさん出てくると思います。2020年の1月にリリースされた最新アルバム『C3』は現在一番好きなアルバムで、「EIGHT BEAT詩」が大好きです。

小出:ラップの曲ですね(笑)。ありがとうございます。

白井:小出さんの出された詩集やインタビュー記事もすべて拝見しておりますが、小出さんがどういうプロセスで表現を具現化しているのか、どういう考えで表現と向き合っているのかを日々勉強させていただいています。Podcastで大々的にやるオリジナル企画としては、例えば人気アーティストとそのアーティストが好きな作家とのコラボ企画的な、一時的な打ち上げ花火としての企画ももちろん考えられるわけです。ですが結果的に、ド直球で音だけの物語を作ろうと自信をもって提案できたのは、小出さんの信念から受けたエネルギーに背中を押されたところがあります。

小出:光栄です(笑)。

左:白井太郎 右:小出祐介

―小出さんは、朝日新聞デジタル&M「シネマコンシェルの部屋」で連載をされていたりと、映画にも造詣が深いと思うのですが、映画とはミュージシャンになる前に出会われたのでしょうか?

小出:映画は幼い頃から観ているほうでした。レンタルビデオ店がすごく好きで、風邪を引いたら親がビデオを借りてきてくれる、というルールだったんです。中学生の時に自分の会員証を作ってからは、映画を浴びるように観るようになりましたね。同時に音楽もやっていましたが、バンドがやりたくてもメンバーが定まらない時期が長かったんです。

高校1年生の時、メンバー集めがこんなに大変ならもうやめようと思い始め、軽い気持ちで「映画監督にでもなろうか」と(笑)。それからは、旧作から新作まで毎日2、3本観ていたり、映画館にもさらに通うようになりました。映画監督の評伝などを読み漁ったり、いよいよ凝り始めた時に、バンドのメンバーが見つかっちゃったんです(笑)。ただ、その時に一度火が点いたからこそ、映画が好きという気持ちが音楽と並行してずっとあります。バンド活動で曲を作る上でも映画から色々とインスピレーションを受けることが多く、インプットのためにも日常的に観続けていますね。

―映画と音楽との関係性が、小出さんの中で絶えず続いているんですね。

小出:そうですね。映画からの影響の受け方というのは、内容そのものというよりは、映像的な影響であることが多いです。例えば、あるカットを見せて、あるカットに繋いでいくという、編集にも意味があるわけです。登場人物の心情を説明する際に、モノローグですべて言ってしまえば、それは早いけれど、あえて風景ショットを挟んだり、カメラが寄ったり引いたり、映像で語るというのが醍醐味だったりしますよね。その感覚を自分の歌詞に入れたいと思っていました。また、松任谷由実さんの歌詞がすごく好きだったので、そういう歌詞を書くためにはどうしたらいいんだろう? と考えた時に、やはり映像的なんだと気がついて、より映画のカット割りやカメラの視点の動きを意識して取り入れるようになったんです。

小出祐介

―具体的に、この映画のこのカット割りに影響を受けた、というものはありますか?

小出:この映画、この監督に影響を受けたというよりは、映像体験としてごちゃ混ぜな感じですね。割と感覚的に蓄積されているので、具体的にこの映画というように出てくるわけではないです。

白井:ホラー映画がお好きということをお聞きしました。

小出:はい、特に日本のホラー映画が好きです。海外のホラー映画ももちろん観るんですが、日本のホラーの方が演出の積み立てがすごく丁寧だなと感じています。高校生の時に、『スクリーム』(1996年)のような絶叫系の映画が流行ったのですが、確かに絶叫はするんだけれど、これは果たして怖いのか? と疑問に思っていました。お化け屋敷感覚というのか。私はお化け屋敷がまったく得意ではないんですが、それは“脅かされる”のが嫌だからなんです。そういう理由で、脅かすことがメインの映画はあまり得意ではなくて。

一方で、日本のホラー映画は脅かすというよりも、後で思い返した時に“嫌だな”という感覚が残るんです。鶴田法男監督のオリジナルビデオ版『ほんとにあった怖い話 第二夜』(1992年)に「霊のうごめく家」という作品があります。言葉では説明できないけれど、原始的に怖いというか、ずっと嫌なものを見せられているような、ああいうムードを作れることが表現として凄いと思いますね。私は実際にお化けを見たことはありませんが、きっとこういう感覚なのだろうなと。また、おそらく高くはないであろう予算感を潤沢なアイデアでフォローしている点においても、鶴田監督の初期作品は素晴らしいと思っています。

―そういったJホラーのような恐怖の感覚は、オーディオならではの方法でも表現できるような気がしますね。

白井:私も、オーディオファーストのドラマとホラーというジャンルはとても相性がいいなと思っています。長い歴史の中で、映画的な文法、表現が生みだされてきたのに、音だけの物語の文法はまだまだ未発明です。それをどのように発明していくのかということが、次回のコンセプトだと思っています。小出さんが先ほどおっしゃっていた「映像でずっと嫌なものを見せられている」という感覚を音だけで表現できたら、すごく面白いなと思います。オーディオファーストのドラマでは、実は“音がない”時がすごく怖いんです。

小出:なるほど、“無音”の状態っていうことですね。

白井:はい。今回は基本的にテンポのいいセリフの掛け合いが多いのですが、シリアスなシーンでは、あえて堤監督が“無音”という表現を選択されている所がいくつかあります。区切りとしての無音の時間は時間経過としての意味を果たしていますが、そうではないシーン中での意図された表現としての“無音”。聴いていると、これが本当に怖いんです。

小出:映像は観たくなかったら目を閉じられますが、聴くもの、特に臨場感を意識したものを聴いていたら、“聴かないようにする”ことは難しいですよね。逃げ場がなくなるから。なのでオーディオコンテンツは、ほんとうはホラーに向いているメディアコンテンツなのかもしれませんね。

白井:目は閉じることができても、耳は閉じられない。

小出:仮に閉じても“聴こえちゃう”っていう(笑)。だから、聴こえちゃうという感覚を巧くオーディオホラーとして表現できたら面白そうです。映像は画面に映ったものを見るわけですが、耳で感じるものは直接、自分の耳で鳴っているものを感じるので、怖さの種類が目と耳では違いますよね。先ほどの無音の間をうまく使えたら、表現としてはより怖くなる。

―ホラーで面白いオーディオコンテンツ企画ができそうですね。

白井:次回はそういった挑戦的なことをやりたいと思っています。

左:白井太郎 右:小出祐介

取材・文:加賀谷健

小出祐介
2001年に結成されたロックバンドBase Ball Bearのボーカル・ギターを担当。これまで2度にわたり、日本武道館でのワンマン公演を成功させる。また、音楽プロジェクト・マテリアルクラブの主宰も務める。

白井太郎:Twitter:@pdd_Taro
1995年生まれ。“NEOTERIC Co. Ltd.”所属のPodcastプロデューサー。企画・プロデュース作品である堤幸彦監督『アレク氏 2120』(Amazon Audible)など、Podcast制作に多く携わる。

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『アレク氏 2120』

2120年からの未来から、究極の犯罪AIがこの現代に降臨してきた。ネットもコンピューターもデータも自在に支配できる犯罪AI「ASKR」は、水面下で、とある人物を殺戮しようとする。その犯罪を阻止しようと、AI刑事「アレク氏」が、平凡な大学生西門慧の「アレクサ」にインストールされ、慧は、アレク氏と、ASKRに立ち向かっていく。

制作年: 2020
監督:
脚本:
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