音楽業界、野心だけじゃ夢は叶わない?『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』はダコタ・ジョンソン主演のサクセス物語

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
ライター:斉藤博昭
音楽業界、野心だけじゃ夢は叶わない?『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』はダコタ・ジョンソン主演のサクセス物語
『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』©2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

気分を“上げて”くれる音楽がテーマの映画たち

音楽がキーポイントになる映画は、基本的に気分が“上がる”。その意味で、近年の最大の成功作に『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)があったが、クイーンのように多くの人に知られる曲をちりばめることで、この成功は導かれやすい。しかし映画のための新たな楽曲で、観客の心を強烈に吸引することは、かなりハードルの高い試みとなる。だからその分、『タイタニック』(1997年)や『美女と野獣』(1991年)、『アナと雪の女王』(2013年)など、その作品のために書かれた曲が愛され続けるパターンは貴重でもある。

『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』©2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

この『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』も、作品のためのオリジナル曲がドラマをいろどるのだが、主人公のキャラクターを考えれば、このアプローチが大正解。一時代を築いた伝説のシンガーの付き人を務めながら、音楽プロデューサーを夢みるマギー・シャーウッド。“自分にしか送り出せない曲”を模索する彼女の苦闘には、やはり既成の音楽ではなく、まっさらな新曲の数々がよく似合うのだ。

『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』©2020 UNIVERSAL STUDIOS

しかもこの映画の音楽プロデューサーは、マイケル・ジャクソンやホイットニー・ヒューストンとの仕事を経験し、ビヨンセ、ジェニファー・ロペス、レディー・ガガら、錚々たるアーティストの曲を手がけてきたロドニー・ジャーキンスである。強烈にキャッチーというわけではないが、ストーリーとシンクロする歌詞も含め、作品の流れをうまく加速させる曲の数々が今作の大きな魅力となっている。

『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』©2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

ダコタ・ジョンソンだけに非ず! 音楽の才も重視したキャスティングに要注目

作品の設定から、俳優のキャスティングには音楽の才能が重要なウェイトが占められるわけだが、そこを今作は、あからさまにではなく、さりげなくクリア。伝説のシンガー、グレース・デイヴィスを演じるのが、トレイシー・エリス・ロス。あのダイアナ・ロスの娘である。文字どおり、音楽界の“レジェンド”を母にもつトレイシーは、じつはプロのシンガーとしての経験はゼロ。ちょっと意外だが、彼女は俳優業、プロデューサー業などが専門である。だから大御所シンガーの“演技”の面は申し分なし。母親譲りのカリスマオーラを発揮しつつも、どこか気さくな空気を漂わせるところが好印象だ。歌のレコーディングも初めてだったというトレイシーだが、そこはさすがにダイアナ・ロスの娘。遺伝子レベルで受け継いだであろう歌の才能が、遅ればせながら開花した感じだ。

グレースの付き人をするマギーが、密かに自身でプロデュースしようとする才能に溢れたシンガーがデヴィッド。演じるケルヴィン・ハリソン・Jrも、『ルース・エドガー』(2019年)や『WAVES/ウェイブス』(2019年)と主演作が相次ぐ注目スターだが、歌の才能も認められての今回の配役。さらにベテランの音楽プロデューサー、ジャック役にミュージシャンとしてのキャリアも豊富なアイス・キューブと、音楽のバックグラウンドをもった役者が、それぞれの持ち場でしっかり期待に応える演技をしている。

『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』©2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

肝心なのは、主人公マギー役のダコタ・ジョンソンだが、この『ネクスト・ドリーム』が多くの観客にアピールする部分、つまり上司と部下の関係で、彼女の配役がうまく機能している。この関係のドラマでヒットした作品といえば、『プラダを着た悪魔』(2006年)や『マイ・インターン』(2015年)が思い出され、どちらもアン・ハサウェイの主演作(『マイ・インターン』は“年下の上司”という変化球型)。そんなアン・ハサウェイの得意技を引き継ぐ次世代スターが、ダコタ・ジョンソンであることを今作は実感させてくれる。

『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』©2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

仕事でいろいろと制約を受けつつも、自分の野心で現状を打開しようとする……。そんなキャラで観客を強引なまでに感情移入させるところに、ダコタ・ジョンソンの魅力がある。思い返せば、ダコタのお母さん、メラニー・グリフィスにも、上司に隠れて野心を発揮する部下を名演した『ワーキング・ガール』(1988年)という傑作があった。

つまりこの映画、音楽業界という特殊な環境を舞台にしながら、多くの人が経験する、部下と上司、先輩と後輩の関係を重ね合わせてしまうのだ。部下のマギーの奮闘はもちろんだが、とくに注目してほしいのが上司にあたるグレースの葛藤で、もはや自分にとって進歩は望めないベテランの世代が、それでも新しい何かを求める姿に意外なほど共感し、勇気をもらえるはずである。

『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』©2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

『ラブ・アクチュアリー』などで知られる“あの製作会社”ならではの味わいやツッコミどころも

この『ネクスト・ドリーム』は<ワーキング・タイトル>製作という点も、映画ファンの食指を動かすポイントだろう。ロンドンを拠点にする製作会社で、ハリウッドの本道とはどこか一線を画す作風で知られる。『ファーゴ』(1996年)、『リトル・ダンサー』(2000年)、『ユナイテッド93』(2006年)、『レ・ミゼラブル』(2012年)といった名作も多いが、「ワーキング・タイトルらしい」といえば『ノッティングヒルの恋人』(1999年)、『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)、『アバウト・ア・ボーイ』(2002年)、『ラブ・アクチュアリー』(2003年)といった、恋愛や家族愛を軽快なタッチで描いた作品群。ビートルズの名曲を使った『イエスタデイ』(2019年)が好例で、どれも音楽が絶妙な効果をみせているのも特徴だ。

『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』©2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

さらにこれらの作品は、登場人物の心の動きや、物語の設定、人間関係など、ちょっと極端でついていけない部分も見受けられたりする。ハリウッド製作だったら脚本を修正されそうな、ツッコミどころもあるのだ。しかしそんな部分も、ほんわかホッコリと丸く収めて、いい映画を観た気にさせる……。それこそがワーキング・タイトルの真骨頂!

『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』©2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

この『ネクスト・ステージ』も音楽の魅力はもちろん、急展開で呆気にとられるシーンがあったりして、いかにもワーキング・タイトルっぽい作品と言える。「そこに持っていく?」とポカーンとしつつも、なんだか幸せな気分になって映画館を出ることになる、という不思議な味わいの一本なのだ。

『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』©2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

文:斉藤博昭

『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』は2020年12月11日(金)より公開

Share On
  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』

マギーの仕事は、子供の頃から憧れていたハリウッドの音楽業界伝説の歌姫グレースのアシスタント。「音楽プロデューサーになる」という夢を抱き、きらびやかな世界で働いていることを幸運に感じているものの、実際は雑用ばかりの日々。そんなある日、魅力的な歌声を持つデヴィッドと出会い……。

一方、歌姫のグレースは過去のヒット曲のリミックスではなく、新作のアルバムを作りたいと思っている。しかし、長年連れ添ったマネージャーのジャックから打診された仕事は、ラスベガスの長期公演だった。それは一見素晴らしいオファーのようだが、新曲制作への思いも捨てきれずにいて……。

制作年: 2020
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
  • 音楽業界、野心だけじゃ夢は叶わない?『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』はダコタ・ジョンソン主演のサクセス物語