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「モノ依存」の現代人が裸一貫リスタート!?『100日間のシンプルライフ』は“ミニマリスト”礼賛映画にあらず

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ライター:#ナカムラリョウ
「モノ依存」の現代人が裸一貫リスタート!?『100日間のシンプルライフ』は“ミニマリスト”礼賛映画にあらず
『100日間のシンプルライフ』© 2018 Pantaleon Films GmbH / Erfttal Film & Fernsehproduktion GmbH & Co. KG / WS Filmproduktion / Warner Bros. Entertainment GmbH

「モノより想い出」とは言いますが……

のっけから堂々と宣言することでもないが、筆者はどちらかといえばオタク気質である。

オタクというのはざっくり言うと、周りにモノが増えれば増えるほど心が豊かになる生き物である。もちろん自分もご多分に漏れず、自室には数十体以上の怪獣フィギュアが鎮座し、めったに音が鳴ることのない機材が並び、クローゼットに収まりきらないほどの洋服が積み上げられている。

それでもまだ飽き足らず、暇さえあれば特撮グッズや限定スニーカーの新着情報をチェックし、ネットオークションやフリマアプリをパトロールして掘り出し物の楽器や洋服を探し続ける毎日。そして時折、ふと我に返ることがある。このまま死ぬまでに、あといくつゴジラのフィギュアを買うのだろう? あと何足のナイキを履くのだろう? いま手にしているiPhoneは、あと何回機種変更するのだろう?

……カテゴリやジャンルは違えど、BANGER!!! 読者の紳士淑女方にも多少心当たりはあるんじゃないだろうか。それでは、「モノ」を求め続けるのが当たり前になってしまった我々が、ある日突然ひとつ残らず私物を失ったとしたら? それを1日に1つだけ取り返せるとしたら?

そんな一風変わったチャレンジに挑む男たちの顛末を描くのが、映画『100日間のシンプルライフ』だ。“シンプルライフ”とはほど通い生活を送る筆者にとっては、鑑賞するのにちょっと勇気がいるタイトルだった。

『100日間のシンプルライフ』

若くして成功したアプリ開発者、ひょんなことから裸一貫の珍バトルに発展!?

主人公は、ドイツ・ベルリンでアプリ開発の会社を運営する若手起業家のパウルとトニー。パウルは天才肌だが根っからの浪費家で、ガジェット依存症。常にスマホ片手に最新のファレルのコラボスニーカーなどをゲットし、ドナルド・トランプのツイートをチェック、そのままネコ動画を鑑賞し最後はエロ動画にたどり着くようなタイプ。自身が開発した、生身の人間のように会話に応じてくれるAI搭載アプリ<NANA>に夢中だ。

『100日間のシンプルライフ』© Anne Wilk 2018 / Pantaleon Films GmbH / Erfttal Film & Fernsehproduktion GmbH & Co. KG / WS Filmproduktion / Warner Bros. Entertainment GmbH

パウルの幼馴染みで共同経営者のトニーはビジネスの才覚にすぐれ、アプリを売り込むことで事業を拡大させる野心家。その反面、コンプレックスの裏返しで人一倍身だしなみに執着し、高級スーツと育毛剤にこだわっている。

『100日間のシンプルライフ』© 2018 Pantaleon Films GmbH / Erfttal Film & Fernsehproduktion GmbH & Co. KG / WS Filmproduktion / Warner Bros. Entertainment GmbH

そんな凸凹なふたりはある日、NANAがアメリカのIT実業家に数億円で買い取られることになり従業員たちと祝杯を上げるが、ささいな口論がきっかけで「お互いの私物をすべて倉庫に預け、100日間かけて1品ずつ取り戻していく」という勝負に乗り出す。ギブアップした方がアプリ売上の半額をスタッフに配分すると宣言してしまったがために、その気になった従業員たちを巻き込んでの大騒動に発展。気づけば空っぽの自室で素っ裸のまま初日を迎えるのだった。

マッチョな肉体美を惜しげもなく晒しながら、極寒のベルリンを全力疾走した彼らは、たどり着いた倉庫で高級ブランド品を身にまとった謎の美女・ルーシーと巡り合う。果たして勝負の行方は? ルーシーとふたりの関係は? NANA売却の顛末は? そしてふたりはどのように100日後を迎えるのか――?

『100日間のシンプルライフ』© 2018 Pantaleon Films GmbH / Erfttal Film & Fernsehproduktion GmbH & Co. KG / WS Filmproduktion / Warner Bros. Entertainment GmbH

現代人代表の主人公たち……どちらにも共感できちゃう!?

本作は、同様のチャレンジを実際に記録したドキュメンタリー映画『365日のシンプルライフ』(2013年)をベースとしつつ、ドタバタ劇やロマンス、家族愛を盛り込んだエンターテインメント・ムービーに仕立てられている。

ナチス支配や東西分断といった激動の歴史を辿ってきたドイツにおいて、「モノで豊かになる」ことは我々とはまた異なる趣きを持つだろうし、時折そんな重みを感じさせる瞬間を挟みながらも、全体としてはインディーミュージックで彩られたスタイリッシュで楽しい作品だ。

『100日間のシンプルライフ』© 2018 Pantaleon Films GmbH / Erfttal Film & Fernsehproduktion GmbH & Co. KG / WS Filmproduktion / Warner Bros. Entertainment GmbH

ただ、このタイトルを聞いて安直に想像できるようなミニマリスト礼賛なストーリーではないし、そもそも主人公ふたりともチャレンジ中にちょいちょいズルするので「100日間の極限生活に密着!」というノリもあんまりない。ここで描かれているのは、モノを「持つべきか/持たざるべきか」という二者択一ではなく、モノを「どんなふうに持つ?」という問いかけであると筆者は感じた。

モノを所有することに悦びを感じつつ、自分が何を買ったかすら把握できていないパウル。ブランド品や自社のアプリ、果ては恋人さえも、自分を誇大に飾るためのモノと見なしてしまうトニー。

長年の親友であるはずのふたりだが、チャレンジを通して価値観の違いが看過できなくなり、ぶつかり合う。面白いのは、パウルがメインのパートでは冷淡でズル賢いトニーにイラつかされるし、逆にトニーのパートでは天然で奔放なパウルが疎ましく思えるし、結局どちらにも共感できてしまうところ。

『100日間のシンプルライフ』© 2018 Pantaleon Films GmbH / Erfttal Film & Fernsehproduktion GmbH & Co. KG / WS Filmproduktion / Warner Bros. Entertainment GmbH

隣の芝生は青い。逆に言えば、自分の芝生はいつまでも青く見えないものなのだ。だから、芝生の上に何かモノを敷き詰めようとしてしまう。

現代人の「心の中の穴」はどうしたら埋まるのだろうか?

劇中、ある人物が「誰しも心の中に穴が空いている」と語るが、では、その穴はどうしたら埋まるのか? モノで満たすのか、それとも他に方法があるのか? 答えは人それぞれ違うだろうが、一旦すべてを失ってみることで、ようやく自分の芝生の本当の色に気づけるのかもしれない。

ストーリー中、もうひとつのキーになるのがNANAアプリの存在だ。NANAは所有者ごとに最適化され、持ち主が一番心地よく感じる声や言葉で語りかけてくれる。だから素晴らしいパートナーになり得るが、その一方でユーザーの利用情報は送信され、運営側はビッグデータを収集できる。架空のアプリではあるが、似たような実在のサービスにピンとくるだろう。パウルはこれを「幸せになるためのツール」と信じ、トニーは「優秀なマーケティングツール」と見なす。果たしてNANAはどんな未来をもたらすのか? そんな“横軸”にも注目しながら鑑賞してみてほしい。

というわけで、幸いにも鑑賞後に「俺はこのままじゃダメだ! もうオタクは卒業卒業!!」という気分にはならず、爽快な後味の残る良作だった。

『100日間のシンプルライフ』© 2018 Pantaleon Films GmbH / Erfttal Film & Fernsehproduktion GmbH & Co. KG / WS Filmproduktion / Warner Bros. Entertainment GmbH

もし、100日間かけて私物をひとつずつ取り戻さねばならない状況になったら……あなたはまず何を選びますか?「それよりも先に、倉庫の隣に引っ越すかな……」とか考えてしまう筆者は、まだまだ心に穴が空きっぱなしなんだろうか。

文:ナカムラリョウ

『100日間のシンプルライフ』は2020年12月4日(金)より全国公開

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『100日間のシンプルライフ』

スマホ依存症のパウルとコンプレックスの塊のトニー。幼なじみでビジネスパートナーの二人は、アプリ開発事業も順調で、自身の欲望を満たすための多くのモノに囲まれた生活を送っている。ある日、開発したアプリのプレゼンに成功し、祝杯をあげる全社員の前で大げんかした二人は、酔った勢いで大金を賭けたある勝負をすることに。

それは、すべての家財道具を倉庫に預け、裸一貫で所持品ゼロの状態から1日1つずつ必要なモノを取り戻し100日間生活する、とんでもない勝負だった。勝負を通して、モノやデジタルに依存している生活に気づき始める二人。100日目を迎えた彼らが選んだ、本当に大切なモノとは?

制作年: 2018
監督:
出演: