「浮気する兄の結婚式を止める!」妹の共犯者は……その愛人!?『おろかもの』が描く17歳の新たな一歩

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
ライター:髙橋直樹
「浮気する兄の結婚式を止める!」妹の共犯者は……その愛人!?『おろかもの』が描く17歳の新たな一歩
『おろかもの』©2019「おろかもの」制作チーム

結婚間近の兄、浮気してるってマジかよ!

映画『おろかもの』は主人公・洋子のどアップで始まる。彼女のつぶらな瞳が見つめる先にはラブホから出てきた男と女。妹に尾行されているとはつゆ知らぬ兄と浮気相手、無防備なふたりの姿がシャッター音とともに刻まれていく。決定的な瞬間を押さえたはずが、肝心の浮気相手の顔はちょっとピンボケ。

『おろかもの』©2019「おろかもの」制作チーム

筋書きは極めてシンプルだ。幼き日に両親を亡くし兄とふたりで暮らす17歳の洋子が、間もなく結婚する兄・健治の二股交際を知り、浮気相手が誰なのかを突き止めようとする。親友の小梅(シャオメイ)は、クソアマ(=浮気相手)なんて「タコ殴り」して木っ端微塵にしちゃえとけしかける。夜の尾行で痛恨のミスをしでかした洋子は、今度は逃さないとばかりに、日中に兄との逢瀬を終えた女を追う。だが、深津美沙と名乗る自然体で物腰柔らかな女性と向き合った時、自分が何を暴きたかったのかが分からなくなってしまう。

『おろかもの』©2019「おろかもの」制作チーム

優しいけれど飄々と浮気を続ける兄は煮え切らないクズだし、婚約者の果歩の存在感は日々増していく。3人の生活がもうすぐ始まろうとしているのに、このままじゃダメに決まってる。再会した美沙と言葉を交わすうちに、この人はワルモノではないと感じた洋子は「結婚式、止めてみます?」と口走ってしまう。え、私なに言ってるの……と気づいた時にはもう遅い。こうして洋子と美沙の予測不能な結婚式阻止計画が始まる!

『おろかもの』©2019「おろかもの」制作チーム

つながりから生まれたミラクルな化学反応、とにかく観て欲しい!

『カメラを止めるな!』(2018年)が話題になったとき、誰もが口を揃えたフレーズが「とにかく観て欲しい!」だった。物語が疾走を始めるまでは話してもOKだけれどネタバレは御法度だ。『おろかもの』を語るとするなら、17歳の多感な妹が派遣OLの浮気相手と共謀、兄の挙式を食い止めようとする。これだけで充分なのだ。では、何を語れば良いかと考え、「つながり」について触れるのは有りだと行き当たる。

『おろかもの』©2019「おろかもの」制作チーム

「田辺・弁慶映画祭2020」コンペ部門<弁慶グランプリ>を始めとする5冠受賞を受けた『おろかもの』は、主演ふたりの演出に当たった芳賀俊が等身大の女性を描こうと企んだ映画である。監督と撮影を務めた芳賀は、『空(カラ)の味』(2016年)で現場を共にした俳優、笠松七海とイワゴウサトシを誘い、日大芸術学部の同級生の村田唯と共同監督の鈴木祥、脚本の沼田真隆に声をかけた。

主演の笠松には特別な観察力が備わっている。もう一人のヒロイン美沙を演じる村田には、自らの脚本で主演した監督作『密かな吐息』(2014年)があり、複雑なキャラクターを際立たせる力量がある。結婚目前で浮気者だが妹思いという難役である健治には、『シン・ゴジラ』(2016年)や『カメ止め』などに出演、メジャーから小規模作品まで酸いも甘いも噛み分ける俳優イワゴウはうってつけだ。

『おろかもの』©2019「おろかもの」制作チーム

こうして3人のメインキャストを念頭に、沼田が“当て書き”した脚本が仕上がる。現場では、独特な存在感で婚約者を演じた猫目はち、小梅に起用された台湾出身の葉媚の個性的な演技が加わって、ミラクルな化学反応が生まれていく。

『おろかもの』©2019「おろかもの」制作チーム

17歳が踏み出す新たな一歩、その劇的な瞬間を見届けよう

兄の結婚、3人での新しい生活、大学への進学……17歳の転機と選択を迫られている洋子の観察癖が面白い。二股を続ける兄はクズだけど、親代わりの優しい良いヤツだ。美沙はそんな健治を大事にしたいと思いつつ、想いを押しつけるのはどうかと悩む。嘘をつくときの健治のクセや、思い詰めた美沙の所作だって見逃さない。「もしかして私のこと避けてる?」と羊羹を差し入れる果歩の力強さには脱帽するしかない。この自信は一体どこから来ているんだろう……?

『おろかもの』©2019「おろかもの」制作チーム

笑ったかと思えばしんみりしたり、自分もクズだと落ち込んだり。でも、このままじゃ終われるわけがない。悩み多き洋子の傍らで浮気騒動を一番楽しんでいるのは親友の小梅だ。ちょっと脱線するけれど、洋子と小梅が密談をするのはいつも屋上手前の階段。通学路、健治が先輩に二股を詰められる職場の休憩所やスナック、花屋の店先へと向かう自転車の二人乗りなど、洋子を取り巻く小宇宙を巧みに撮り上げたスタッフの奮闘を讃えたい。

『おろかもの』©2019「おろかもの」制作チーム

突如勃発した兄の二股騒動が結婚阻止計画へと突き進み、やがて大きな波紋となってどんどん輪郭を広げていく。そして迎えた結婚式当日、誰もが凍てついてしまう瞬間が訪れる。究極の選択を迫られた洋子は、果たしてどんな一歩を踏み出すことになるのか? 誰もが予想だにしないその結末を、ぜひ映画館で!

『おろかもの』©2019「おろかもの」制作チーム

文:髙橋直樹

『おろかもの』はテアトル新宿にて2020年11月20日(金)/12月4日(金)~12月10日(木)、シネ・リーブル梅田にて2020年12月18日(金)~12月21日(月)までレイトショー公開

Share On
  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

『おろかもの』

高校生の洋子は結婚を目前に控えた兄の健治が、美沙という女性と浮気をしている現場を目撃する。両親を早くに亡くし、2人で支え合って生きてきた兄の愚かな行為とそれを隠して何食わぬ顔で生活している様子に洋子は苛立ちを募らせる。一方洋子は健治の婚約相手・榊果歩に対して、兄と2人だけの関係の中に突然入ってきた存在として言い様のない違和感と不満を感じていた。衝動と好奇心に突き動かされて美沙と対峙した洋子は、美沙の独特の物腰の柔らかさと強かさ、そして彼女の中にある心の脆さを目の当たりにして、自分でも予期せぬ事を口走ってしまう。

「結婚式、止めてみます?」

2人の女性たちの奇妙な共犯関係が始まる。

制作年: 2019
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
  • 「浮気する兄の結婚式を止める!」妹の共犯者は……その愛人!?『おろかもの』が描く17歳の新たな一歩