実力派の名優二人で魅せる、友情の生まれる旅『グリーンブック』(=黒人専用ガイドブック)

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ライター:齋藤敦子
実力派の名優二人で魅せる、友情の生まれる旅『グリーンブック』(=黒人専用ガイドブック)
『グリーンブック』©2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.
イタリア系のがさつな用心棒と知性派の黒人天才ピアニスト。世界の違う二人が一緒に南部を旅することで、互いを知り、自分を知る。『リベンジ・リスト』(2016)製作総指揮のニック・バレロンガが父親の体験した実話を自らの製作・脚本で、『メリーに首ったけ』のピーター・ファレリー監督で映画化。アカデミー賞5部門にノミネートを果たした今年のダークホース的存在だ。

アメリカ、人種偏見の強いディープサウスへの旅の始まり

『グリーンブック』© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

ときは1962年、公民権運動が盛り上がりを見せたケネディ大統領の時代。ニューヨークの有名なナイトクラブ<コパカバーナ>の用心棒トニー“リップ”バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)は、店の改装修理のため、2か月間失業することになる。愛する妻と子供を養うためにバイト先を探す彼の元に、“ドクター”が運転手を探しているという話が舞い込む。さっそく面接に出かけると、そこはカーネギーホールの上の超豪華マンション。住人は黒人天才ピアニスト“ドクター”ことドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)だった。南部へ2か月間の演奏旅行に出かけるために、運転手兼世話係を募集しているという。“召使いなんてごめんだ”と面接を蹴ったトニーだが、“リップ(唇)”と呼ばれるほど口が上手く、腕っぷしの強い彼を見込んだドクターの強い要請で、しぶしぶ運転手を引き受けることになる。出発の日、雇い主のレコード会社から、南部を旅する黒人専用のガイド本“グリーンブック”を手渡されるトニー。面接では“偏見などない”と断言した彼だが、実は黒人に偏見を持つ貧しいイタリア人社会で育った差別主義者。しかし、グリーンブックに従って旅をすることで初めて黒人差別の実態を知ることになる…。

運転席と後部座席には身分の差がある

黒人と白人が1台の車に乗ってアメリカ南部を旅すると聞いてすぐ思い浮かべたのは、ブルース・ベレスフォードの『トライビング Miss デイジー』(89)だった。主演のジェシカ・タンディの主演女優賞を含む4部門でアカデミー賞を受賞し、運転手を演じた名優モーガン・フリーマンを強烈に印象づけた名作だ。『グリーンブック』もまた黒人と白人の旅を描いているが、似ているのはそこまで。まず黒人と白人の立場が違う。普通、運転席に座るのが使用人で、主人(雇い主)は後部座席に座る。『ドライビング~』では運転手が黒人、雇い主が白人だったから問題ないが、『グリーンブック』では、白人のトニーが運転席、黒人のドクターが後部座席と、普通とは逆になっている(友人同士なら運転席と助手席に並んで座るはずなので、『グリーンブック』はバディ・ムービーとは言えない)。立場の逆転した二人が人種偏見の強い南部を旅するというミスマッチがスリルを生む。

モーテンセンとアリ、二人の名優の競演で魅せる友情の生まれる旅

『グリーンブック』© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

口の達者な用心棒トニーを演じたのは北欧系のヴィゴ・モーテンセン。14キロ体重を増やし、髪を黒く染めてイタリア訛りの英語で用心棒を体現し、見事アカデミー主演男優賞に3度目のノミネート。一方、9歳でレニングラード音楽院に留学し、クラシック音楽の教育を受けた天才ピアニストを演じたのは、『ムーンライト』の麻薬の売人役でアカデミー助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリ。見事な指さばきでピアノを弾きこなし、優雅に指をたててフライドチキンを食べてみせる。黒人ゆえにクラシックのピアニストになる夢を諦めざるをえなかった複雑な心の動きを見事に演じきってアカデミー助演男優賞に2度目のノミネート。監督は『ジム・キャリーはMr.ダマー』や『メリーに首ったけ』などのコメディ映画で知られるファレリー兄弟の兄ピーター・ファレリー。描いている内容は重くても、コメディで培った軽さが基調になって、爽やかな感動が残る。

ドクターが開けたパンドラの箱

映画の中で、ドクター・シャーリーが南部への演奏旅行を思い立ったのは、“勇気を示すため”と演奏家仲間が言う。50年代から始まった公民権運動が、キング牧師の主導するワシントン大行進で最高潮に達するのは翌63年のこと。ドクターもドクターなりに勇気を示そうと行動を起こしたのだろう。けれどもその行動は、自分のルーツを知らずに育ち、天才として特別扱いされてきたドクターが、黒人としてのアイデンティティを再認識させられる、辛い体験になってしまう。ある意味、ドクターにとって禁断のパンドラの箱を開ける旅となった。けれども、南部であらゆる理不尽な差別に遭い、辛酸をなめた後、肩を落としてニューヨークへ戻る途中で、思いがけない出来事に遭遇する。何の変哲もない、このささやかなエピソードに心から感動した。まるでパンドラの箱の底に、ひとつだけ残った“希望”を見いだした思いだった。このエピソードの描き方のさりげなさ、人間に対する視線の暖かさこそ、まさにファレリー兄弟の持ち味なのだ。

『グリーンブック』は2019年3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

文:齋藤敦子

 

『グリーンブック』

1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニー・リップは、ガサツで無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。ある日、トニーは、黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。彼の名前はドクター・シャーリー、カーネギーホールを住処とし、ホワイトハウスでも演奏したほどの天才は、なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。二人は、“黒人用旅行ガイド=グリーンブック”を頼りに、出発するが……。

制作年: 2018
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