弱いものほど暴走すると残虐になる『ちいさな独裁者』

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ライター:大倉眞一郎
弱いものほど暴走すると残虐になる『ちいさな独裁者』
『ちいさな独裁者』© 2017 - Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film
『RED/レッド』のロベルト・シュヴェンケ監督が、ドイツ敗戦直前に起こった驚愕の実話を映画化した『ちいさな独裁者』。中身の伴わない権力に翻弄されたされた人々を描く本作を、ラジオ・パーソナリティの大倉眞一郎さんが経験を踏まえた目線で語る。

小さな嘘は、はじめは楽しい

『ちいさな独裁者』© 2017 – Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film

小さな犬ほどよく吠える。

人ごとのように、飲み屋で「あいつ、ちっちぇーよな」とか上司の悪口を言っている全ての日本国民に問いたい。
君たちはそんなに大きいかね。
自分に自信があるかね。
「俺は、俺だからさ」
「あたしって、よく普通の人と違ってるって言われるじゃないですかー」
知らんけどさ。

「ああ、あそこの社長、よく電話してくんだよ」
「あの芸能人、飲み屋でしょっちゅう一緒になんだよな」
「そのコンサートなら、仲のいい電通のやつに頼んであげるよ。10枚くらい?」
小さな虚栄心で、10倍くらいに話盛ったことないですか。
私はあります。
よくあります。
大声で「ぎゃー」っと叫びたくなるくらい恥ずかしいことをしたことがあります。
猛省するんだけど、気がつかないうちにまた似たようなこと言ってたりして。

私のついた嘘で一番罪深かったのは、40過ぎてインドをフラフラしていた無職の時代の頃のやつ。
ジョードプルの安宿の主人がしつこかった。
自分の宿を「地球の歩き方」でめちゃくちゃ褒めろ、とうるさい。常軌を逸してうるさい。
仕事を聞かれた私は「我は無職である。サドゥになろうかな」とは言えなくて、「ライターである」と脳味噌の命令もないのに、口が勝手に反応して声に出していた。恐ろしい。
主人は喜んだ。作家が褒めてくれたら、もうわしの宿は日本人で常に満室。儲かっちゃってどうしよう、の浮かれぶり。
私はライターとしか言ってないのに、勝手に作家と勘違いした向こうが悪いが、訂正しなかった私もいけない子。
インド社会を敵に回すような騒ぎにはならなかったが、「地球の歩き方」に投稿もしなかった私は「あの親父は怒ってるだろうな、ごめんね」と心の中で手を合わせている。

という感じで、ほんの軽い気持ちでついた嘘が、時として自分でコントロールできないくらいどんどん膨らんでいき、取り返しがつかないことになる人がたまにいて、そうなるともう塀の中に入れられるか、致命的な社会的制裁を食らったりします。

小さな嘘は、大きな嘘で隠す

『ちいさな独裁者』© 2017 – Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film

今回紹介する作品はまるで自分とは関係ない、戦争中に起きた信じられないほど突拍子もない出来事を扱ったもの、と思ってはいけない。
いつの時代でも、虎の威を借る狐が本気で勘違いすると、制御不能な状態で暴走するからである。

1945年4月、敗戦気配濃厚のドイツ軍からは脱走兵が続出し、部隊が解体同然の状態に置かれた兵士たちは略奪を繰り返し、軍律は乱れ放題。
主人公の青年も脱走をはかり、かろうじて森に隠れることはできたが、明らかに脱走兵としか見えないわけで、どこへも行き場がない。捕まれば収容所行き。
そんな時にどういう偶然か、道端に軍の車両が打ち捨てられていた。
食い物はないか、と車上荒らしの最中に見つけたのが大尉の軍服一式。
試しに着てみればピッタリではないが、それなりに振る舞えばごまかせる。
でもなにができるのかわからない。
そのまま諦めて収容所に入っていれば良かったが、そこへ「大尉殿」と敬礼する者が現れてしまう。
おや、そういうこともありか、と気がついてしまってから話は急展開し、この映画が作られるに至る悲劇が起きてしまう。
着るものを替えるだけで、人は誰にでもなれるのだ。

人間は権威に弱い。
強い者には逆らえない。
それに慣れてしまうと、小さな虚栄心はいつの間にか権威を求め、強い者への同化を急ぐ。
“ちいさな独裁者”、それはまさに私の心の中にも存在する。
だから私はあらゆる権威、権力を嫌悪する。
自分の中の“ちいさな独裁者”の芽を摘むために。

弱いものほど暴走すると残虐になる。
私たちは弱い。
それをもう一度確認するにはこの作品は最適であろう。

この20歳の若者の物語は実話である。
試写の後、資料を読んで驚愕した。

 

『ちいさな独裁者』は2019年2月8日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

文:大倉眞一郎

『ちいさな独裁者』

第二次世界大戦末期の1945年4月、敗色濃厚なドイツでは兵士の軍規違反が相次いでいた。命からがら部隊を脱走したヘロルトは、道ばたに打ち捨てられた車両の中で軍服を発見。それを身にまとって大尉に成りすました彼は、ヒトラー総統からの命令と称する架空の任務をでっち上げるなど言葉巧みな嘘をつき、道中出会った兵士たちを次々と服従させていく。かくして“ヘロルト親衛隊”のリーダーとなった若き脱走兵は、強大な権力の快楽に酔いしれるかのように傲慢な振る舞いをエスカレートさせるが……。

制作年: 2017
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  • BANGER!!!
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