ジャッキー・チェンは“アクション大好きおじさん”ではない。稀代の映像作家だ!【アクション映画「闇鍋」シアター第1回『プロジェクトA』の巻】

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ライター:谷垣健治
ジャッキー・チェンは“アクション大好きおじさん”ではない。稀代の映像作家だ!【アクション映画「闇鍋」シアター第1回『プロジェクトA』の巻】
『プロジェクトA』© 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
日本が誇るアクション監督・谷垣健治氏の連載コラム【アクション映画「闇鍋」シアター】。記念すべき第1弾は、主演最新作『ポリス・ストーリー REBORN』が絶賛公開中のジャッキー・チェン! 世界で活躍する谷垣氏ならではの、知られざるジャッキー秘話を披露してくれました。

ジャッキー観を覆した大傑作『プロジェクトA』

この世の中には2種類の映画がある。それは「アクション映画」か「非アクション映画」かだ! 古今東西の名作/迷作アクション映画にスポットを当てて考察するアクション映画「闇鍋」シアターの第1回はこれ!

ジャッキー・チェン監督・主演『プロジェクトA』!

『プロジェクトA』 ブルーレイ&DVD発売中 発売元:ツイン 販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

1984年公開のこの映画、ジャッキー監督主演作としては1982年の『ドラゴンロード』以来だから、約2年ぶりの新作だった(当時の感覚としては、このあたりが日本におけるジャッキー人気の絶頂期。とはいえ新作がなかなか来ないもんだから『蛇鶴八拳』とか『カンニング・モンキー/天中拳』みたいな旧作や『キャノンボール2』『ジャッキー・チェン/ドラゴン特攻隊』といった、どうでもいい作品が断続的に公開されていた)。

この前作の『ドラゴンロード』というのが、今思えばジャッキー映画史的には『スネーキーモンキー/蛇拳』『ドランク・モンキー/酔拳』『クレージーモンキー/笑拳』といった、いわゆるカンフー映画から脱却する途中の過渡期的な作品。今見直すと従来の野原とかで行われる平面的な戦いだったところから、納屋を縦横無尽に駆け巡る立体的な戦いが展開されていて、それはそれで面白いのだが、カンフーの型の練習をするシーンがなかったりして、子どもにはちょっと物足りなかったのだ。

当時のインタビューを読み直すと、「『ドラゴンロード』で取り入れたものはスポーツ的要素だよ。いつまでもカンフーばっかりだったらお客さんだって飽きちゃうだろ?」とか語っていた。でも、当時中学生だったオレなんかは正直なところ「いやいやジャッキー、飽きないって! スポーツ要素じゃなくてオレ達はカンフーが見たいんだって!」なんて思ったものだ。

撮影中の新作『プロジェクトA』について語っているくだりでも、「今回はマリンポリスの役。カンフーはないけど、いつも以上にパワフルなアクションをやってるよ」とか言ってて、「ジャッキーわかってねえなあ。ずっとカンフー映画で『~拳』とかやってくれてりゃそれで満足なのに」と、クラスの友達どうしでジャッキー映画の行く末を案じたりしたものだった(クソ生意気な中学生だった)。ちなみに、その当時のオレ的ベストジャッキー映画は『スネーキーモンキー/蛇拳』だった。

そんなボンクラ中学生だったオレらの前に現れた謎の映画『プロジェクトA』。それは従来のジャッキー映画、そして従来のジャッキー観を根本からひっくり返すほどのスーパー大傑作に仕上がっていたのだった……。

命がけのスタントを披露したジャッキー、当時わずか29歳!

今までと全く違う現代的なアクション(大雑把に言えばカンフースタイルからボクシングスタイルに変わった)、サモ・ハン、ユン・ピョウとの異常に息のあったバディ感、マイケル・ライの壮大な音楽、チャリンコチェイスや大爆破などのスタント&エクストリーム要素、そしてやはり圧巻は56フィート(≒17m)あるという時計台からの落下!(この高さというのが時計台の上からか針の部分からなのかは不明)

このスタントの瞬間、映画館の観客全体から「おおおおおおおおおおおおお……」と言葉にならないどよめきが起こったことをよ~く覚えている。

実はこれはサイレント映画三代喜劇王の一人、ハロルド・ロイドの『ロイドの要心無用』のオマージュ的カットなのだが、ジャッキーがすごいのは実際にここから落ちてみせていることだ。そして、その後セリフまで言ってるし! これが、その後のジャッキースタント路線を決定付けたと言っていい、それほど凄まじいシーンだった。

もっとも、そこに至るまでにはいろいろ試行錯誤があったようだ。この高さから実際に落ちたらどうなるのか、試しに70kgのダミー人形を落としてみたら地面で粉々に砕けたり、バルコニーパラソルをつけてみたら今度は真下に落下せずにバウンドして全然違う方向に行ってしまったり。最終的にはバルコニーパラソルの真ん中に切れ目を入れてマジックテープでくっつけたんだって。そうすると、重力がかかった瞬間にマジックテープは剥がれて真下に落ちることができるし、そこで多少は衝撃を吸収してくれるし、物を破壊しながら落ちるので何もないところを落ちるより見栄えもずっといい。

今このスタントを同業者としての目線で改めて見ると、それをやってのけたフィジカルな部分もさることながら、その画面を構成した監督としての手腕に驚愕する。だって、ジャッキーこの当時29歳だよ!

この際一つだけ言っておくが、ジャッキー・チェンは何の計算もなしに命がけのことをしているアクション大好きおじさんではなくて、とても冷静にそのスタントがもたらす映像的効果のことを計算している、稀代の映像作家なのだ。

この映画、『プロジェクトA』はその後何度見たかわからない。が、今見ても全く色あせないどころか「今見るからさらにすごい」ということを実感できる。それは『マトリックス』のような映画が今見直すと思った以上に劣化が早いのとは対照的だ。

『プロジェクトA』のパンフレットを片手に渋谷パンテオンを出て、帰りのバスの中ではみんな言葉少なだった。

「すげえよな……」
「……ああ、すげえ」

オレはというと、心からジャッキーに詫びた。そしてリスペクトと感謝の気持ちでいっぱいだった。

「ジャッキー、……あんたはすげえ!」

あれから35年。ジャッキー・チェン64歳。まだアクションをやり続けている。機会があれば『プロジェクトA』を見てほしい。伝説の始まりが見られるから。

文:谷垣健治

 

『ポリス・ストーリー REBORN』公式サイト

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