ウェス・アンダーソンの“虚構脳内日本”最高! その世界を丸ごと愛せる『犬ヶ島』

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ライター:橋本宗洋
ウェス・アンダーソンの“虚構脳内日本”最高! その世界を丸ごと愛せる『犬ヶ島』
『犬ヶ島』©2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
第91回アカデミー賞では『ROMA/ローマ』が作品賞と外国語映画賞にノミネートされている。だったら『犬ヶ島』(2018年)だって長編アニメーション賞だけでなく作品賞にもノミネートされていいんじゃないか。そう本気で思うくらい、ウェス・アンダーソンの最新作は見事な映画だ。

黒澤明と宮崎駿からの影響

『犬ヶ島』©2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『ファンタスティック Mr.FOX』以来となるストップモーション・アニメで描かれるのは近未来の日本。伝染病が蔓延したため犬たちがゴミの島に捨てられ、そこに乗り込んできた少年アタリが愛犬を探しつつ、捨てられた犬たちと固い絆で結ばれていく。

と、まあ文字で書くといかにもハートウォーミングな“犬かわいいアニメ”のように思われるかもしれないが、そうではない。いや確かに犬はかわいいんだけど、見た目が汚かったり、それぞれにキャラクターがありながらも犬の本能には抗えなかったりする。そういう“ただかわいいだけじゃない”ところがまたかわいいのだ。

少年と犬の冒険譚と並行して描かれるのは、市長を中心とした政治の世界、陰謀劇である。島に捨てられた犬の末路は残酷でもあり、そのあたりも“犬のアニメ=子どもっぽい”ではないところ。

日本が舞台であり、監督のアンダーソンとストーリー原案のロマン・コッポラ、ジェイソン・シュワルツマンは日本映画が好きでもあるという。本作には特に黒澤明と宮崎駿からの影響が盛り込まれていると、アンダーソンは語っている。

といって「日本の描写がこんなに正確!」「日本映画がこんなに愛されている」と喜ぶような映画でもない。なにしろ作品の舞台は「メガ崎市」である。なんだメガ崎って。じゃあ新幹線で忍者が空手でバトルする類の“勘違い日本”かと言うと、それも違う。「メガ崎市」の「メガ」は「メガロポリス」などの表現が元になってのもの。“架空の巨大都市”のコミック的ネーミングというわけだ。

映画の中の世界が丸ごと好きになる

『犬ヶ島』©2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

その一方で黒澤映画、特に現代劇にインスピレーションを得たというコメントもあり、市長は三船敏郎がモデル(スーツの色と質感にも注目)。さらにアタリが犬たちと愛犬探しを始めるところで『七人の侍』のメインテーマ(侍のテーマ)がそのまんま流れる。

つまりここで描かれる日本は、アンダーソンの脳内にある架空の、虚構の日本だ。虚構の度合いが強いから、他の映画のメインテーマがそのまま流れてもOKなのである。

架空、虚構、だけど日本。しかも才気あふれる監督が腕によりをかけて作った日本だ。それは他のどこにもない空間で、むしろ“間違いなく描けている日本”よりも楽しい。

ストップモーションのカクカクした動き、ケンカの場面になると出てくる雲(みたいな土煙の表現)、微妙に日本語のアクセントがおかしいところまで含めて『犬ヶ島』の世界、アンダーソンの脳内近未来日本が楽しいというか、もう愛おしくてたまらない。

『ブレードランナー』(1982年)や『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)がそうだったように、この『犬ヶ島』も、見たら映画の中の世界が丸ごと好きになるはず。この映画の場合は“壮大な世界観”というより箱庭的だけど、そこがまた愛らしい。別の言い方をすると、フィギュアもほしいけどジオラマのほうがほしくなる映画というか。

そう考えると美術賞にノミネートされてもいいんじゃないか。いやもう、ノミネート数全然足りないわホントに。

文:橋本宗洋

 

犬ヶ島
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¥1,905+税
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
©2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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『犬ヶ島』

近未来の日本。ドッグ病が大流行するメガ崎市では、人間への感染を恐れた小林市長が、すべての犬を“犬ヶ島”に追放する。ある時、12歳の少年がたった一人で小型飛行機に乗り込み、その島に向かった。愛犬で親友のスポッツを救うためにやって来た、市長の養子で孤児のアタリだ。島で出会った勇敢で心優しい5匹の犬たちを新たな相棒とし、スポッツの探索を始めたアタリは、メガ崎の未来を左右する大人たちの陰謀へと近づいていく──。

制作年: 2018
監督:
出演:
  • BANGER!!!
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