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元ナチ高官と皮肉な巡り合わせで結ばれた偉大な芸術家の事実!『善き人のためのソナタ』監督が最新作『ある画家の数奇な運命』を語る

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ライター:#BANGER!!! 編集部
元ナチ高官と皮肉な巡り合わせで結ばれた偉大な芸術家の事実!『善き人のためのソナタ』監督が最新作『ある画家の数奇な運命』を語る
『ある画家の数奇な運命』フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

長編デビュー作『善き人のためのソナタ』(2006年)で第79回アカデミー賞外国語映画賞(現:国際長編映画賞)を受賞したフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督が、“現代芸術の最高峰”として幅広い世代から支持されるドイツの現代アーティスト、ゲルハルト・リヒターの半生をモデルに描いた『ある画家の数奇な運命』。

『ある画家の数奇な運命』©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

物語の舞台はナチ政権下のドイツ。芸術活動に勤しむ主人公の少年クルト、彼に多大な影響を与えた叔母のナチの安楽死政策による死、美術学校で出会ったエリーとの恋、実は安楽死政策を指揮していた元ナチ高官のエリーの父……深い闇に包まれた人間関係と残酷な運命、その中で光り輝く芸術への夢と希望を、美しい絵画とともに描く。

第91回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた本作は、リヒターとの“人物名は変え、何が事実か事実でないかは互いに絶対に明かさないこと”というミステリアスな契約のもとで映画化されたという。そんな謎多き本作について、 ドナースマルク監督がじっくり語ってくれた。

『ある画家の数奇な運命』フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

「表現者は暗い中にも光を見出すことが必要。ネガティブなことを描くだけなら表現する必要はない」

―『善き人のためのソナタ』を撮影されてから15年近く経ちますが、日本でもいまだに愛されている作品です。

映画のプロモーションで日本を訪れたことも覚えていますよ。シネマライズという歴史のある、美しい映画館で上映してくれたんですよね。昔から日本にはずっと行ってみたかったので、とても有意義な旅でした。

―『善き人のためのソナタ』と『ある画家の数奇な運命』は戦争の悲しさを描きつつも、創造力豊かな人物をとてもポジティブに描かれています。作品を作る際に信条としていることはありますか?

表現者は暗い中にも光を見出すことが必要だと信じています。単にネガティブなことを描くだけなら、表現する必要はないとすら思います。暗いところに光を探すことは時間もかかりますし、とても大変なことです。人の一生の中で、誰しもが最後に死を迎えるわけで、自分が先に死ななければ愛する人の最期を見届けなければいけないという前提の中、私たちは生きています。表現者であれば、悲劇のような人間の人生の中に明るい光を見る勇気を持とうと提案すべきなんです。その悲劇が良いものになるよう、物の見方を学ばないといけないと思います。

『ある画家の数奇な運命』©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

一生をかけて、お金や誰かを支配する人、はたまた一生をかけて友情や真実、愛をつきつめる人がいるとするならば、前者は表面的には裕福かもしれませんが、後者のほうが心の豊かさがあるでしょう。私はオリジナリティのある物語で、人生における光を表現したいと思っています。

『ある画家の数奇な運命』©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

「芸術は主観的なものだけれど、科学が見出せない“真実”を見出すことができます」

―『ある画家の数奇な運命』を製作するきっかけは、ゲルハルト・リヒターの少年期の叔母とのフォトペインティングに興味を持ったからだと伺ったのですが、特にどんなところに興味を持たれたのでしょうか?

あの絵は、リヒターが少年時代の写真を模写したもので、すこし滲ませてスモーキーに仕上げています。母と子を描いたものとして発表されていたものでしたが、実は母ではなく、ナチによる安楽死政策の被害者である叔母を描いたものでした。この絵はドイツではとても有名で、安楽死政策を表現するモニュメントになっています。

『ある画家の数奇な運命』©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

ただ、これまでドイツでも知られていなかったのが、リヒターが安楽死政策のトップだった人物の娘と結婚していることです。その事実を知って、リヒターの様々な側面をつくって、芸術が苦しみに打ち勝つという物語にできないかと思い、この作品でそのことを表現しました。

『ある画家の数奇な運命』©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

―安楽死政策のトップであったナチ高官カール・ゼ―バントを演じたセバスチャン・コッホと、芸術家クルトの複雑な関係性は、どう導いたものなのでしょうか?

私が芸術を愛している理由は、客観的ではなく主観的なものだからです。芸術は主観的なものだけれど、真実を見出すことができます。科学が見出せないことを芸術が見出すことができます。カールは科学的なことを信じる人物で、自分が芸術家よりも優れていると思っていて、どこか馬鹿にしています。その点、芸術家のクルトは創作活動を通じ、時間をかけて人生の真理を見出すことになります。その対極にいる二人の対比を楽しんで頂きたいですね。

『ある画家の数奇な運命』©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

「撮影監督キャレブ・デシャネルの映像は常に美しく、興味深い光を描き出します」

―第91回アカデミー賞では撮影賞にもノミネートされましたが、撮影監督のキャレブ・デシャネルとのコラボレーションはいかがでしたか?

キャレブについて質問いただき、ありがとうございます。私は彼らが手掛ける作品が大好きで、一緒に仕事をしたいという夢が叶いました。私が子どもの頃に初めて映画館で観た映画は、キャレブが撮影した『ワイルド・ブラック/少年の黒い馬』(1979年)でした。今でも、あの時に観たイメージを覚えています。映像というものが芸術になることを初めて体感しました。

『ある画家の数奇な運命』フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督(左)、キャレブ・デシャネル撮影監督(右)©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

自分の好みではない監督の作品であったとしても、キャレブが撮影した作品であれば全て観ました。彼の映像は常に美しく、興味深い光を描き出します。メル・ギブソン主演の『パッション』(2004年)は暴力描写が多く、あまり好んで観る作品ではありませんが、キャレブは一枚一枚強烈なイメージを作り出していて、かなり力強い映像でした。今作は芸術をテーマにした作品なので、写真、光、芸術に対して深く理解している人と組みたいと思い、彼が唯一の選択肢だと思いました。

『ある画家の数奇な運命』©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

『ある画家の数奇な運命』CS映画専門チャンネルムービープラスで2022年3月ほか放送

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『ある画家の数奇な運命』

ナチ政権下のドイツ。少年クルトは叔母の影響から、芸術に親しむ日々を送っていた。ところが、精神のバランスを崩した叔母は強制入院の果て、安楽死政策によって命を奪われる。終戦後、クルトは東ドイツの美術学校に進学し、そこで出会ったエリーと恋におちる。元ナチ高官の彼女の父親こそが叔母を死へと追い込んだ張本人なのだが、誰もその残酷な運命に気づかぬまま二人は結婚する。やがて、東のアート界に疑問を抱いたクルトは、ベルリンの壁が築かれる直前に、エリーと西ドイツへと逃亡し、創作に没頭する。美術学校の教授から作品を全否定され、もがき苦しみながらも、魂に刻む叔母の言葉「真実はすべて美しい」を信じ続けるクルトだったが――。

制作年: 2018
監督:
出演: