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Uボートの不気味さと緊張感を増幅させる音楽! トム・ハンクス主演最新作『グレイハウンド』の作曲家が語る

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ライター:#森本康治
Uボートの不気味さと緊張感を増幅させる音楽! トム・ハンクス主演最新作『グレイハウンド』の作曲家が語る
『グレイハウンド』Apple TV+

Apple TV+で配信中! 作曲家に聞いた『グレイハウンド』を彩る音楽

『プライベート・ライアン』(1998年)への出演や、『バンド・オブ・ブラザース』(2001年)、『ザ・パシフィック』(2010年)の製作総指揮などで、第二次世界大戦を描いた作品に携わったトム・ハンクス。Apple TV+で配信中の『グレイハウンド』(2020年)では、北大西洋を横断する輸送船団の護衛任務に就くアメリカ海軍駆逐艦の艦長アーネスト・クラウスを演じ、ドイツ軍のUボート相手に熾烈な戦いを繰り広げる。

『グレイハウンド』Apple TV+

ハンクスは主演のみならず脚本も担当し、抑えた演技で「困難な状況におけるリーダーのあるべき姿」を体現。艦長と副長の対立、クルー同士の衝突、敵軍兵士との遭遇といった戦争映画の定番演出をあえて避け、Uボートとの攻防戦とクラウスの内面描写に焦点を絞った、シンプルかつパワフルな構成が秀逸な海戦アクション映画である。

重厚なフルオーケストラサウンドと、パーカッションの激しいリズムが印象的な本作の音楽を作曲したのは、テレビシリーズ『ARROW/アロー』(2012年~2020年)や『THE FLASH/フラッシュ』(2014年~)の仕事で知られるブレイク・ニーリー。本作の日本版サウンドトラックアルバムの発売にあたって、彼に詳しく話を聞くことが出来たので、ここではニーリーのコメントをもとに『グレイハウンド』の音楽をご紹介していきたいと思う。

Blake Neely

「作曲家は“これが自分の曲だ!”という音楽で映画を始めたいものだけれど……」

―『グレイハウンド』には、どのような経緯で参加することになったのでしょうか?

この映画はプレイトーン(トム・ハンクスが1998年に立ち上げた製作会社)との10回目の仕事になる。彼らとはもう15年の付き合いだ。トムは『ザ・パシフィック』で私が書いたテーマ曲を気に入って、CNNのドキュメンタリーシリーズ『THE ’60s』(2014年)の音楽製作を私に依頼してくれた。その後、HBOの『The Concert for Valor』(2014年)でも一緒に仕事をした。これらの作品で愛国的な雰囲気の音楽を作曲した経験があったから、『グレイハウンド』は私にうってつけの題材だったんだ。

『グレイハウンド』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ブレイク・ニーリー
発売・販売元:Rambling RECORDS Inc.
品番:RBCP-3380

―映画をご覧になった時、どのような音楽にしようと思いましたか?

最初にこの映画を観た時、テンプトラック(仮の音楽)がほとんどない状態だったんだ。既存の音楽に影響されずに映画を観られたのは幸運だったよ。私はすぐに音楽のアイデアを思いついたが、重要なのはその構造だった。スコアは常に一定の緊張感を提供する必要があったが、ストーリーが進むにつれて、その度合は増していく。曲作りで難しかったのは最初の戦闘シーンかな。スコアをエキサイティングなものにしつつ、やり過ぎないようにしなければならなかったからね。

『グレイハウンド』Apple TV+

―サウンドトラックアルバム18曲目の「But At What Cost?」がこの映画のメインテーマ曲だと思いますが、映画のラストまでメインテーマが完全な形で演奏されることはありませんでした。これはなぜでしょうか?

私たち作曲家は「これが自分の曲だ!」という音楽で映画を始めたいものだけれども、今回それは正しいやり方ではなかった。クラウスにその時が訪れるまではね。私は映画の序盤でメインテーマの存在を示唆しているが、それを完全な形で聴けるのは戦いが終わってからだ。自制を求められた気分だったよ。

私は、このテーマ曲を「この戦いの価値は何だ?」というクラウスの“内なる(自分との)対話”だと考えている。心身ともに疲弊し、多くの命が失われ、クラウスは恋人との関係も終わってしまうかもしれない。彼は自分と部下にもたらされた賞賛と、個人的な喪失の両方を理解している。メインテーマには愛国的な要素もあるが、私はクラウスが任務を完了した誇りを捉えつつ、それ以上に多くのものを失ったほろ苦さを描きたいと考えたんだ。

『グレイハウンド』Apple TV+

「もし君が夜中に何かの物音を聞いて、それが◯◯◯の音だと分かったら、もう怖くなくなってしまうだろう?」

―Uボートが姿を現した時の不気味なフレーズが印象的でした。このアイデアはどのように思いついたのでしょうか?

Uボートにはメロディックなテーマ曲を使いたくなかった。有名な『JAWS/ジョーズ』(1975年)のテーマ曲のような感じでありながら、簡単には口ずさめない曲にしたかったので、いろいろ試してみたよ。Uボートが船団の周囲に潜んでいる状況はホラー映画のようだった。そこで私は、恐怖と不安を感じさせる音でそれを表現するアイデアを思いついた。

Uボートのテーマにはオーケストラを使わなかった。音の正体が何なのか分からないほうが、より不気味さを出せると思ったんだ。この音をどうやって作ったのか何度か聞かれたが、私はあえて答えを明かさないようにしてきた。もし君が夜中に何かの物音を聞いて、それが製氷機の音だと分かったら、もう怖くなくなってしまうだろう?

『グレイハウンド』Apple TV+

―『グレイハウンド』の音楽はパーカッシブなサウンドに仕上がっています。あなたは全ての打楽器をご自身で演奏されたそうですが、なぜそうしようと思ったのでしょうか?

私はピアノやシンセサイザーを自分で弾いて、オーケストラのミュージシャンたちと一緒に作業するのが好きなんだ。でもこの映画の最後の曲を書いている時、デカいドラムを全部自分で叩いたら面白いかもしれないなと思った。それで30種類のパーカッションをレンタルして、自分のスタジオに持ち込んで叩きまくって、5日かけて全てのパートを演奏したんだ。大変だったけど、いい思い出になったよ。

『グレイハウンド』Apple TV+

取材・文:森本康治
Special thanks to Blake Neely

『グレイハウンド』は2020年7月10日(金)よりApple TV+で配信

『グレイハウンド』日本版サウンドトラックアルバムは、ランブリング・レコーズから2020年10月21日発売

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『グレイハウンド』

アーネスト・クラウス艦長が数千の兵士と救援物資を届けるため、37隻の船団を率いて大西洋を横断する危険な任務に挑む。

制作年: 2020
監督:
出演: