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エメリッヒ版との違いは? 1976年版『ミッドウェイ』は“コピペ”で作った建国200周年映画!

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ライター:#大久保義信
エメリッヒ版との違いは? 1976年版『ミッドウェイ』は“コピペ”で作った建国200周年映画!
『ミッドウェイ』MIDWAY © 1976 Universal Pictures. All Rights Reserved.

記録映像や過去の名作のフッテージを切り張りして製作!

1976年の『ミッドウェイ』は、アメリカ建国200周年記念を冠に製作された作品です。そのためチャールトン・ヘストンやヘンリー・フォンダ、ロバート・ミッチャム、そして三船敏郎ら往年の大スターがゾロゾロと登場するという豪華なキャスティングになっています。

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MIDWAY © 1976 Universal Pictures. All Rights Reserved.

が! 肝心の戦闘シーンに関しては、新規に撮影された映像はほとんどなくて、戦争中の記録映像や既存映画からのフッテージを切り張りしてデッチアゲ、もとい、構成しています。当時のアメリカはベトナム戦争の莫大な戦費その他により経済的に疲弊していて、大がかりなセットや実機/実艦を駆使しての戦闘シーン撮影は予算的に無理だったのかもしれません。

『ミッドウェイ』MIDWAY © 1976 Universal Pictures. All Rights Reserved.

だから、そこに目くじらを立てるのは野暮と言うもの。「これは『トラ・トラ・トラ!』(1970年)の映像」「なんと『空軍大戦略』(1969年)のドイツ機じゃないか」「あ、東宝の『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』(1960年)だ」「ここは沖縄戦の記録映像」と、オリジナルを確認しつつ楽しむのもありではないでしょうか。

『ミッドウェイ』MIDWAY © 1976 Universal Pictures. All Rights Reserved.

奇跡の逆転劇、ミッドウェイ海戦

1942年6月5~7日に中部太平洋のミッドウェイ島を巡って戦われたミッドウェイ海戦は、「太平洋戦争のターニング・ポイント」と言われています。

『ミッドウェイ』MIDWAY © 1976 Universal Pictures. All Rights Reserved.

アメリカ海軍太平洋艦隊は、日本海軍のパールハーバー奇襲攻撃(1941年12月8日)で海軍戦力の中核である戦艦すべてを撃沈破され、多数の航空機をも喪失します。ですが暗号解読によって日本軍のミッドウェイ攻略作戦を察知するや、遮二無二に戦力を掻き集めて立ち向かうことを決意するのです。

『ミッドウェイ』MIDWAY © 1976 Universal Pictures. All Rights Reserved.

とはいえアメリカ海軍戦力は空母3隻と巡洋艦8隻に駆逐艦15隻、パイロットも士気は高いものの経験不足は否めません。

一方、日本海軍の空母機動部隊は空母4隻と戦艦2隻に巡洋艦3隻と駆逐艦12隻、パイロットは実戦経験豊富な猛者ぞろい。さらに戦艦「大和」を含む戦艦5隻に巡洋艦6隻と軽空母2隻、駆逐艦や輸送艦多数からなる攻略部隊が続くという、まさに「俺TUEEEE!」状態。

『ミッドウェイ』MIDWAY © 1976 Universal Pictures. All Rights Reserved.

ところが「今度も我が軍が勝つだろう」と漫然と出撃してきた日本海軍に対し、技量未熟ながら犠牲を顧みずに果敢に攻撃を仕掛けたアメリカ軍は、何度もの“運の良さ”にも助けられて日本の主力空母4隻すべてを撃沈破して敗退させるのです。

『ミッドウェイ』MIDWAY © 1976 Universal Pictures. All Rights Reserved.

それはまさに「天は自ら助くる者を助く」「断じて行えば鬼神も之を避く」という諺のような劇的な逆転劇でした。

爆発縦横無尽! エメリッヒ版『ミッドウェイ』

兵器や建造物をCGで再現するのが近年の戦争映画の特徴のひとつですが、ローランド・エメリッヒ監督の最新作『ミッドウェイ』も、CGによるド派手な戦闘シーンが繰り広げられます。

さすがエメリッヒ監督(?)、「ゼロ戦の機銃掃射で戦艦が爆発ぅ!? この角度で魚雷投下か!!」な見栄え優先の映像の連続ですが、戦闘状況、そしてアメリカ軍側の人間模様と作戦立案過程はほぼ史実通りになっています。また従来の、実機を使用しての撮影では描写不可能だった急降下爆撃シークエンスを堂々と見せてくれるのは眼福です。

筆者的には「シカゴ・ピアノ」の俗称で知られる「ワン・ポイント・ワン」、つまり口径1.1インチ(28㎜)四連装機銃の再現も嬉しいところです。この対空機銃は一挺につき2個の弾薬クリップで装弾する機構が特徴でした。つまり四連装だから計8ケ所の装填部に次々とクリップを挿入するわけで、この作業が複雑で砲員からは不評だったシロモノです(機械的トラブルも多かった)。その煩雑な装填作業が本作の戦闘シーンでよ~く分かるという……。

戦艦「ペンシルベニア」に搭載された1.1インチ対空機銃/アメリカ海軍

でも至近弾(この場合は命中せずに艦艇近くに落ちた航空爆弾)の水柱が真っ白なのは、残念。海面直下で爆発した数百kgもの爆薬が噴き上げる水柱は硝煙で褐色に汚れており、それを浴びた艦艇乗員が“泥水を浴びたような”有り様になったことは、日米双方の戦記で描写されているのです。聞くところによると、エメリッヒ監督は次作も太平洋戦争モノを企画中とのことなので、期待しましょう。

謎の単語「AF」とは?

1976年版の『ミッドウェイ』では「ハワイの暗号解読班が日本海軍の暗号〈AF〉がミッドウェイか否かを確かめるべく偽通信を送らせた」という旧説で作られているのに対し、エメリッヒ版では「ハワイの暗号解読班は〈AF〉=ミッドウェイと確信していたが、ワシントンの海軍情報部に証明するために偽通信を送らせた」という、その後の研究で明らかになった新説で作られています。

『ミッドウェイ』MIDWAY © 1976 Universal Pictures. All Rights Reserved.

一方で、ニミッツ提督が珊瑚海海戦で損傷した空母「ヨークタウン」の修理を3日で完了するよう厳命した、という俗説は1976年版同様にエメリッヒ版でもそのままです。

本当は、パールハーバーの技術者と「ヨークタウン」艦長は、3日で修理可能なことをニミッツに報告していたそうです。

もしかしたら「強引に3日で修理させて出撃」という劇的さゆえ、エメリッヒ監督は旧説を使用したのかもしれません。こうして“伝説”は強化されていくのでしょう。

文:大久保義信

『ミッドウェイ(1976年)』『ミッドウェイ(2019年)』はCS映画専門チャンネルムービープラスで2022年4月ほか放送

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『ミッドウェイ』(1976年)

真珠湾攻撃を成功させた日本海軍連合艦隊は、米空母部隊の殲滅とミッドウェイ島攻略をめざすMI作戦を立案。当初は反対していた大本営も米空母の奇襲による東京初空襲を受け、作戦に同意する。連合艦隊司令長官山本五十六大将(三船敏郎)は空母や戦艦などの主力艦を結集させてミッドウェイへ出撃。一方、暗号解読によって日本軍の動きを察知した米太平洋艦隊は、圧倒的に不利な状況の中、応急修理で復帰させたヨークタウンを含む3隻の空母を派遣し、連合艦隊を待ち受ける。

制作年: 1976
監督:
出演: