老刑事メルギブ、安月給と不条理な世論にブチギレ! 一攫千金を狙う『ブルータル・ジャスティス』

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ライター:BANGER!!! 編集部
老刑事メルギブ、安月給と不条理な世論にブチギレ! 一攫千金を狙う『ブルータル・ジャスティス』
『ブルータル・ジャスティス』COPYRIGHT © 2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED

メル・ギブソン主演最新作『ブルータル・ジャスティス』は、そのストイックな脚本とハードボイルドな演出で一部に熱狂的なファンを持つS・クレイグ・ザラー監督による待望の初劇場公開作品だ。『トマホーク ガンマンvs食人族』(2015年)と『デンジャラス・プリズン -牢獄の処刑人-』(2017年)の過去2作が、多くの映画ファンの注目を集めながらもDVDスルーされしまったザラー監督だが、この『ブルータル・ジャスティス』はハマる人には超ハマるコダワリのザラー節がいかんなく発揮された2時間半超えのバイオレンス・クライム・アクションである。

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凸凹刑事コンビを演じるメル・ギブソン&ヴィンス・ヴォーンと、ザラー監督の綿密な脚本の賜物

物語の大筋をざっくり説明すると、メルギブ演じるベテラン刑事リッジマンは暴力的な捜査を一般人に撮影されてしまい、相棒のルラセッティとともに6週間の定職&無給処分に。リッジマンは病を患う妻と不良グループにイジメられている娘のためにも治安の良い地域に引っ越したいと考え、犯罪者の取引現場を押さえて金を横取りしようと計画するが、事態は思わぬ方向に転がっていく……という流れ。クライム・アクション映画としては異常な尺の長さからも一般ウケ狙いではないことは明らかだが、メルギブだけでなく相棒ルラセッティ役に前作『デンジャラス・プリズン』の主演ヴィンス・ヴォーンを配し、さらにウド・キア&ドン・ジョンソン、ジェニファー・カーペンターらも(チョイ役で)続投という豪華な布陣はそれだけで見応え十分である。

『ブルータル・ジャスティス』COPYRIGHT © 2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED

寡黙なリッジマン(すぐパーセンテージで例えようとする)と神経質なルラセッティ(FもしくはSワード代わりの「アンチョビ!」が口癖)はいわゆる凸凹コンビではあるのだが、お互い必要以上に介入しないドライな性格らしく、序盤のオフビートなギャグ要素として活かされてはいるものの、その凸凹ぶりが物語に直接的に影響することはない。唯一、悪事に手を染めようとするリッジマンの誘いに対してルラセッティが逡巡するものの、静まり返った車内で少し口論する程度。世代も性格も違えどお互い不条理な定職を言い渡された相棒同士であり、それぞれ現金を必要とする事情があり、目の前に一攫千金のネタがある……。そんな状況で彼らがどんな選択をするかは明らかだろう。

『ブルータル・ジャスティス』COPYRIGHT © 2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED

文句のつけ所なし! S・クレイグ・ザラー監督による綿密な脚本をみっちり映像化

ただし本作はお話が本格的に回り出すまでが、かなり長い。かといって苦痛に感じるわけではなく、むしろそこまでの滋味あふれる過程こそザラー監督の真骨頂であって、特に過去2作が好きな人であれば「そうそう、この感じね」と嬉しくなってくるだろう(そんな尺だから劇場公開されにくいんだよ! というツッコミはさておく)。

幸い時間はたっぷりあるので、リッジマン&ルラセッティが停職となる顛末からじ~っくり描かれ、リッジマンが出世街道から外れてしまったアウトロー刑事であることや、ルラセッティが恋人との結婚に踏み切れず悩んでいることなどを張り込みシークエンスでしっかり解説。いわゆる暴力刑事にありがちな私生活は荒れていて云々みたいな設定もなく、弱みを握っている相手にも法外な要求はせず、ただただ愚直に生きてきた老刑事の「そろそろ社会貢献に対する正当な対価を支払ってもらう」という決意のみを強調する。

『ブルータル・ジャスティス』COPYRIGHT © 2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED

演じているのがメルギブとヴォーンじゃなかったら猛烈に地味な話になっていた可能性もあるが、むしろそのほうが胸に迫ったかもしれないと思えるのは、ザラー監督の綿密な脚本の賜物だろう。「あのときこうしておけばよかったじゃん!」とか「なんでそこでヘマやらかすかな~」とツッコみたくなるような、お話を転がすための強引な演出が一切ないのは優れた脚本あってこそ。基本的に固定カメラで会話劇が続く中盤過ぎまでの展開に一切飽きないのも、ちょっとした挙動やセリフの中にその後の流れに関わってくるであろう要素や、思わず苦笑してしまうギャグ(張り込み中のサンドイッチ絡みのネタが最高)を絶妙に配置することで、観客の興味を持続させるから。それらを鑑賞中には過剰に意識させないよう自然に盛り込んでみせるザラー監督、さすがである。クエンティン・タランティーノを想起させる部分もあるが、タラのような映画文化への狂熱がそれほど感じられないのが特徴といえば特徴だろうか。

『ブルータル・ジャスティス』COPYRIGHT © 2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED

心臓が潰れそうな緊張感! タカ派メルギブの心の叫びか? 現代社会への皮肉か?

中盤以降、リッジマンたちが狙う悪人集団の描写に切り替わると、過去作でも見どころのひとつだった執拗なゴア描写を挿入しバイオレンス度が数段アップ。凶悪な主犯格(演じるのは『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』のトーマス・クレッチマン!)の素性はなかなか見せず、パシリ要員の黒人コンビの人間くさいやりとりをメインに据えることで胃が痛くなるような不安を醸成。本格的なバトルが始まっても、派手なドンパチではなくジリジリとした攻防がしばらく続き、嫌な予感しかしないラスト30分は心臓が弱い人にはオススメできないレベルの緊張感だ。

『ブルータル・ジャスティス』COPYRIGHT © 2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED

その黒人コンビの片割れジョーンズを演じるのは、『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』(2005年)や『ハリエット』(2019年)のトリー・キトルズ。ジョーンズはしがないチンピラとして登場するが、終盤は主人公級の存在になっていくのでその言動には目を凝らしておこう。なお相棒を演じるのがマイケル・ジェイ・ホワイトなので、思わず「え、もしかして肉弾バトル展開も!?」と驚いてしまうが、彼の格闘スキルは一切披露されないのであしからず。ジェニファー・カーペンターのムダ遣い……もといアッと驚く登場→退場の流れは「なんで出演したの!?」レベルの謎さという意味で必見だ。

『ブルータル・ジャスティス』COPYRIGHT © 2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED

ちなみにメルギブとヴォーンはゴリゴリの共和党支持者として知られているが、そんな彼らが演じる暴力刑事が黒人やメキシコ人をボコボコにしている姿を見ると、なんだか胸騒ぎがしてしまうのは気のせいではないだろう。マイノリティの犯罪者への暴力的な対応をメディアに叩かれることにブツクサ言う主人公2人は白人たちの本音を代弁させているかのようでもあり、とはいえ怒りを誘うほどの差別描写があるわけでもなく、イタリア系のルラセッティのカノジョは黒人だし、黒人側に良心を委ねるような描写も多々あって……。それらはマジョリティ側の意思表示なのか、それとも現代社会への皮肉なのか、ザラー監督の真意がどこにあるのかは気になるところだ。

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『ブルータル・ジャスティス』は2020年8月28日(金)より公開

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『ブルータル・ジャスティス』

ベテラン刑事ブレットとその相棒トニーは強引な逮捕が原因で6週間無給の停職処分となる。家族のために大金を必要としていたブレットは一攫千金を狙い、ある犯行を計画。それは不穏な動きを始めた犯罪者の情報を得て、その取引後に金を強奪するというものだった。ブレットはトニーを誘い、ボーゲルマンという男を監視する。ある朝、動き始めたボーゲルマンとその仲間を尾行するブレットとトニー。ところがその追走劇は、彼らを待ち受ける地獄の始まりだった……。

制作年: 2018
監督:
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  • 映画
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